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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.215 読書 澤村伊智「などらきの首」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 澤村伊智さんの「などらきの首」についてです。



ホラー作家澤村伊智さんの”比嘉姉妹シリーズ”の短編集。

「ぼぎわんが、来る」「ずうのめ人形」と読んで、文庫本の裏に順番で「などらきの首」と書いていたので読んでみたら実は今作は第四弾らしい。

まあ、短編集なので、シリーズの流れでは問題ないと思います。

本とネットの情報に食い違いがあるので、修正してほしいですね。

さて、この短編集。このシリーズの登場人物、霊能力者の比嘉3姉妹やオカルトライターの野崎さんの前日弾が6編。

このシリーズのファンとしてはより登場人物が深掘りできてとっても面白かったです。

特にもう死んでしまった次女の美晴さんが出てくる学校の話は印象に残ります。

シリーズ主人公の三女の真琴、最強霊媒師長女の琴子、オカルトライターの野崎、そして多分「ずうのめ人形」に出てくるあのリホも?

キャラが確立されているといろいろとお話ができますね!



そして短編が上手い作家さんはとても信用ができます。

宮部みゆき、小野不由美、ジェフリー・ディーバー、ドン・ウィンズロウ、キング、村上春樹、月村了衛、京極夏彦など。

好きな作家さんは大体、長編、短編、エッセイと読みます。

3つのどれも微妙に違っていろいろと楽しめますね。

また長編シリーズにこういう同じ世界観の短編の話を挟むと、長編では書けないエピソードが出てきますよね。キャラをより深掘りできるというか。

また短編ならではのテクニックというか技を見れる面白さもあります。

作品としては長編のようにパンチはありませんが、短編はファンとしては読んでいてとても嬉しいものです。



物語は、第一話「ゴカイノカイ」
すぐ住人が引っ越してしまうあるビルの5階の部屋がある。そのビルのオーナーが人を雇って調べるが、何人も身体中に痛みを覚え逃げてしまう。そこで人づたいに評判の若い女性霊媒師、比嘉真琴に依頼される。その原因はほとんどの人が知っているあるまじないが原因だった。
我らの主人公真琴さんが登場。


第二話「学校は死の匂い」
次女の比嘉美晴の学生時代。学校が舞台なのはホラーの定番。長編第二弾の「ずうのめ人形」でもう死んでいる設定の美晴がまだ生きている時代の話でなんだか嬉しい反面、やはり能力が弱くそれが原因で人を助けれず、自分も死んでしまうんだと思うと悲しい。けど結構健気に人のために頑張る姿は心を打つものがある。
美晴の通う学校の体育館で白い姿の少女の霊が出る。霊感の強い美晴は原因を調べてほしいと友達に頼まれる。先生や生徒のOBから事情を聞いていくとすると、体育館で自殺した女の子が実際にいたことがわかる。そして雨の日にその少女は体育館で何度も頭から落ち自殺をする。何度も何度も友達の名前を言って謝り続ける。美晴は車椅子の近所の女性の話、最強の霊媒師の姉の琴子も見える少女の幽霊の正体、運動会の組体操の写真から真相がわかり、ある人物を体育館に呼び出す。事件の真相はわかったが・・・。

第三話「居酒屋脳髄談義」この話が一番面白い。最初女性蔑視で嫌な感じがしたが、最後にスカッと。読書ならではの叙述トリックの部類でしょうか。
三人のオヤジが会社の後輩の若い女を居酒屋でネチネチと虐める。もう女性蔑視のオンパレードだが、いつもはその女の子は反論できず泣き寝入りしてしまうが、なぜか今日は反発的。三人のオヤジはどんどん攻撃的になって女は子宮で考えるというと、じゃあ男は前立腺で考えるんですねと反論される。女の子の会話の中で「ドグラマグラ」の”胎児の夢”や荘子の「胡蝶の夢」、など出てきて、オヤジどもは反論できなくなる。そして女の子が全てを論破した後、オヤジたちにある事実を言うと・・・。その女の子の正体は最強霊媒師の琴子さん。最後の捨て台詞はかっこいい!


第四話「悲鳴」映画研究部の話なので、元映研としてはまた妙に親近感が。
そして「ずうのめ」のリホ?さんが出てくる。彼女が大学生になった頃?
名前が里穂とリホ、偶然に一緒なのかそれとも。一緒だとはどこにも書いていないが・・・。
映画研究部の自主映画制作現場。霊の出る場所で撮影中、何か叫び声がする
結局それは女性新人部員のドッキリだったが、後日口うるさい映画研究部のOBが他殺体で発見された。次第に部員が怪我をしたり、変な人間に追っかけられたりした。撮影データが消えたりした。部員全員が集められ今後の話し合いの時に一人のホラー小説を書いている先輩部員がOBを殺した犯人ではと新人部員が言及する。結局それもドッキリだったが、後日その先輩は逮捕されてしまう。その新人部員は作り話が現実になってしまう言霊使いなのではと部員の中で噂になる。彼女の名前は”リホ”。その後「ずうのめ人形」に出てくる女性の名前も”里穂”



第五話「ファインダーの向こうに」
カメラマンの話なので親近感が。そして主人公の真琴とライター野崎の最初の出会いの話。一番ほっこりする。
昔大御所だったカメラマン今は落ち目。オカルト雑誌の撮影で霊の出るスタジオで撮影をしてもらう。撮影中も横柄だったが、ある場所を撮るとそのカメラマンは何か不思議そうな態度を取る。写真データを編集部で見るとスタジオなのになんでもない河原の写真が混じっている。カメラマンは知らないと。ヘタクソな写真だと。心霊スポットで撮れた写真なので、ライターの野崎と編集者はその写真を調べるが場所はわかってもそれ以上わからない。よくある手だが締め切り間近なので霊媒師に見てもらおうと評判の女性に会いにいく。彼女は二日酔いで遅刻してきたが只者ではなかった。彼女の名前は比嘉真琴。そしてその写真の場所にカメラマンを連れて行き、編集者やライターの前で真琴は真相を話す。

第六話「などらきの首」一番らしい話。昔から言い伝えのある話を若者が調べていき災難に遭う話。もう定番中の定番。主人公はオカルトライターの野崎の高校生の頃。現実主義者だった彼がオカルトの世界へ進んでいくきっかけになった事件。そして「怪現象に軽い気持ちで関わってはいけない」とよく言うようになったのはこれが原因かも。
物語は、ある言い伝えを聞いた高校生の野崎は興味本位でその友人の実家に夏休み泊まりに行く。そこで友人は幼い頃経験した実家の近くの洞窟に出ると言われている「などらきさんに首取られるぞ」と地域に伝わる化け物の話をする。その友人は小学生の頃3つ上の従兄弟がいて、力が強いので散々いいように使われていた。ある日祖父母から絶対入ってはいけない洞窟へ肝試しと子供二人で行く。そこには岩に腰刺しにされた怪物の首があった。近くまで行くとなぜか首は消えていて、二人は必死で家まで逃げていく。大人たちにもそのことを言えなかったと。その話を聞いた青年野崎はその友人に、もう一度行ってみようと提案する。だがその話を祖母に聞かれていて、正直に野崎は自分の将来研究者か作家になるために、友人の恐怖を取り除くために、その洞窟へ行きたいと言うと祖母は一緒に行くなら許してもらい、三人は洞窟へ。野崎は自分の推理で分かったことを”などらき”の伝説について話す。昔は河童や人魚など、猿や魚をくっつけて作って商売していたと。メールでその従兄弟とも連絡はついて、そのなどらきの首は持っていると。小学生の頃友人を怯えさせるためにやった悪戯だったと。めでたしめでたし、と終わるわけがございません・・・。これが野崎の最初の事件になるのでした。




いや〜本当に良くできた短編集。普通短編集ってまあちょっと息抜きや、一つのアイディアなものが多いが、ここまでレベルの高い短編を書ける澤村伊智さん、ますますファンになりました。

テクニックは相当高いです。定番から叙述トリックまで。幅も広い。

そして彼の霊や怪物が恐いだけでなく、やはり人間の怖さや弱さも描いているそのバランスの良さが魅力的。

そしてやはり読みやすくエンターテインメント!

引き続き澤村さんのこのシリーズを読んでいこうと思います。


今日はここまで。



ホラーはあくまでも作り物で、実生活で容易に霊的なものを受け入れちゃいけない。そこは線引きしなきゃ。
/P.181「などらきの首」より