見出し画像

趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.233 読書 道尾秀介「カラスの親指」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 道尾秀介さんの「カラスの親指」についてです。


きっかけは忘れてしまいましたが、話題になっていた本。

道尾秀介さんと言えば「ラットマン」が面白かった印象。

ダークな部分がありつつ軽快な文章で、どんでん返しのうまい作家さんの印象。

今作もまさにそんな感じ。より”どんでん返し”に注力したような、あまりにも見事で完全に騙されました。

こういう詐欺師の映画や小説は昔からミステリーのひとジャンルとしてありますね。

スティングやオーシャンズ11やキャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンなど。

このジャンルの良いところは、もちろん詐欺は犯罪ですが、血生臭いというより、頭を使った犯罪なので、割とライトな印象で楽しめます。

そう、妙な爽快感さえ覚えます。

絶対詐欺は犯罪です。

でも小説や映画の中ではエンターテインメント!



物語は、詐欺師の中年の2人組。2人が出会ったのは数ヶ月前。

詐欺師の主人公のアパートの鍵が開かなくなり、鍵屋に直してもらおうとすると
どうも手口が怪しいと気づき、問い詰めると、その鍵屋が細工して鍵を開かなくし
自分の店に依頼が来るようにしていたと白状する。

自分も犯罪者なので、同情し許してしまう。

数ヶ月後にその鍵屋が潰れて主人公のアパートに転がり込んでくる。

中年の2人は共同生活をし、詐欺師としてタッグを組むようになる。

鍵屋の妻は闇金に手を出して借金が嵩み自殺してしまった。

主人公の奥さんも癌で亡くなり、友人の借金の保証人になってしまい
多額の借金を背負うことに。泥沼にハマり自ら借金とりになってしまう。

その時借金の取り立てである母子家庭の母親を追い詰めすぎて自殺されてしまった。

自分の罪に後悔し、借金とりの組織を警察に売り、組織は壊滅したと思ったが、

ある日主人公のアパートが燃え、娘が死んでしまった。そして組織から電話が。

それ以来組織にバレないように、住所を転々としていたが、2人の住んでいたアパートが燃え、また組織が追ってきたとわかりそこから逃げ出す。

2人は違う場所に引っ越しし、また詐欺を始める。コンビを組んだことで詐欺の成功率は上がる。

ある日スリを働いた少女に出会う。名前を聞くと実は彼女は主人公が追い詰めて自殺させてしまった母親の娘だった。

彼女は溜まった家賃を払わないと家を追い出されると言い、なんとか助けたいと思い、ダメだったら2人の詐欺師の住んでいる家に来いと住所を教える。

すると彼女は、自分の姉とその姉の恋人のデブな男まで連れてきた。

やがて猫まで住み着き、5人と一匹の奇妙な共同生活が始まる。

ある日、組織の手によりとても酷いことをされ裏庭が放火される。

もうどんなに逃げても必ず見つけられてしまう。

それなら5人で頭を使って組織をペテンにかけて戦かおうと決心する。

組織を騙す大計画が始まる。



もうあらすじを書いて思いましたが、各キャラクターの性格、行動、過去などがとてもうまく描かれ、それがとても上手に伏線が張り巡らされているとは気がつきませんでした。

特にキャラクターの作り方が見事。

犯罪者の詐欺師なのに、ちゃんと正義感があり、なぜ犯罪者になったのか過去も描かれ罪の意識もあり、かつ鍵屋さんの性格も明るいので、ついつい感情移入して楽しんでしまいました。

そう、詐欺師映画、スティングやオーシャンズ11も”明るい”のです。

この明るさがこのジャンルではとてもキーになるような気がします。


「ところでみなさん、マジックといえば、理想的な詐欺と理想的なマジックの違いをご存知ですか?」
「あのですね、理想的な詐欺はですね、相手が騙されたことに気づかない詐欺なんですよ。それが完璧な詐欺なんです。でも、それと同じことがマジックにも言えるかというと、これが違う。まったく反対なのです。マジックでは、相手が騙されたことを自覚できなければ意味がないのですよ」

まさに小説の中でも詐欺師が騙し、実はお互いに過去を隠し騙し合い、最後には読者も騙されるという、マジックのような物語。

今日はここまで。



「たとえ包丁で刺したり拳銃で撃ったりしなくても、同じことですよ。誰かを殺したり自殺に追い込んだりしたら、そのそばにいる別の誰かのことも、必ず殺すことになるんです。人間は一人じゃないんですからね。一人だけを殺すことなんてできませんよ」
/「カラスの親指」より













この記事が参加している募集