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ギフティッド教育4 その受け止められ方

今回はギフティッド学級に対する認識を、学校の先生方や父兄の見解を織り交ぜて書きたいと思います。

まず先生方が口を揃えておっしゃることの一つに、「ギフティッド認定児であるかと、その生徒が実際にギフティッドであるかには、長年の指導歴で培った肌感覚からすると一部に乖離がある」という視点です。
前述のように、基本判断軸はWISC-V考査の結果。それ自体と広義でのギフティッドネスは完全重複していません。さらに、この考査では知識量や学業達成度ではなく「知能」を測っていることになっているとは言え、「何の準備もしないで臨むように」と念を押されるような代物。対策教材までも市販されています。つまり、所詮テストなので反復練習やテスト慣れをすることで、ある程度スコアを上げることは可能です。
ギフティッド学級には、高得点を取る戦術は知っているけれど、ギフティッドではないと思われる子供がちょいちょい紛れている。方や通常学級には、先生方の目にはギフティッド原石感キラキラだけれど、認定を受けていない子も紛れている」と、認定方法の不備を唱える先生は多いです。

これに加え、「ギフティッド認定者であることと、学業や将来の成功に相関性はない」という点も、先生方は加えてよく強調されます。知能が高いことはアドバンテージになり得るけれど、「自分は地頭の良いギフティッドだから勉強は適当で大丈夫」と胡座をかく認定児より、コツコツと努力し最後までやり抜く気質を持っている子供の方が、確実に高いパフォーマンスをするし、卒業後も活躍していると。
つまり、認定されたか否かなど人生においてあまり大きな意味はないので、それに一喜一憂するのは不毛と、認定を逃し凹んでいる生徒や認定され調子に乗っているギフティッド児などに対しては特に、先生方ははっきりとおっしゃるようです。

これはまさに、ペンシルベニア大学心理学のアンジェラ・ダックワース教授の研究結果のそのものです。著書「やり抜く力 GRIT(グリット) ― 人生のあらゆる成功を決める『究極の能力』を身につける」において彼女が検証している、「人々が成功して偉業を達成するには、どの分野であれ『才能』よりも『やり抜く力』が重要である」というポイントです。

「やり抜く力」を含む非認知能力を定量化する試み、ダックワース教授はグリット・スケール」という10の質問からなる指標を提示しておらますが、ギフティッド考査において非認知能力に対する指標はありません

よって、意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーション能力などの非認知能力が突出して高いと所見される子供を先生方がギフティッドに推薦したとしても、それ単体を理由にギフティッド認定されることは、学校システムにおいては現状ないようです。

父兄の受け止め方も様々です。受験勉強を攻略するかのように、ギフティッド学級に我が子を入れることにステータス性、価値観を見出しているご家庭もあられます。移住当初学校へ子供を迎えに行った際「お子さんはどのコースにご在籍ですか?」とアジア系の初対面ママに話しかけられました。するとこちらが答える前に「うちの息子はギフティッド学級なんですぅ。」と食い気味にマウンティングされたことがあります。

方や、「ギフティッド」というstigma(スティグマ、烙印)を10歳そこらの子供に押すことで、「自分は特別なんだ」と思い上がった勘違い野郎になってしまう懸念の方が、認定により享受できるメリット以上に大きいと、ギフティッド学級で学ぶ利点が如何ほどのものか、冷静に検討している親御さんも知っています。
そして例えば、2桁のかけ算を習う単元で3桁のかけ算が「発展問題」として宿題に出ているギフティッド学級の様子を垣間見たりすると、それは深掘りと言うよりも単純作業工数の増加。二次関数や三角関数を解くようなギフティッド小学生にすれば、むしろ宿題が多くて面倒臭いです。それならいっそ、2桁かけ算止まりの通常学級の方が時間的拘束が少なく、放課後の自分の時間が増えます。そもそも学校教育へ多くを期待しないスタンスのご家庭では、あえてコース変更しないという選択もあるようです。
「知能(一部の認知力)が高い」というのは子供の一部分。そこだけを切り取ってクラスや学校が別けられるよりも、共通の興味や関心、性格的な類似点をベースに子供が築いてきた交友関係、幼馴染みとの繋がりを優先したいという理由で、地元の通常学級残留を選ぶご家庭もあります。

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そしてもちろん、読む本のレベルや会話の内容、理解スピードが自分に近い子が多い、通常学級生活よりは刺激的だと、楽しくギフティッド学級へ通っている子供も多く知っています。

「北米にはギフティッドを育む土壌がある」という日本でのステレオタイプ、学校や地域、国によって千差万別なので、その通りか否かを一般化することはできません。ですが個人的経験に基づいて強いて言うならば、公教育においては「高知能児の知的刺激を満たすような攻めのカリキュラムが充実している」というよりも、「高知能に加え、学習障害や自閉症、ADHDなどを併せ持つ2E (Twice Exceptional: 二重に例外的な) 児童の受け皿がある」という意味で、日本よりも生徒の多様性への理解が進んでいるという印象です。

現に、2E傾向のない出木杉くんタイプのギフティッド児に対しては、「カオス感あるギフティッド学級よりも、オルタナティブスクールの方が学習環境として相応しいかもしれません」ともアドバイスされます。トロント学区教育委員会はオルタナティブスクールをいくつか擁していますが、その性質上、一学年十数人とどこも非常に小規模。さらに公立なので入学はくじ引きです。入学においてギフティッド認定は不要ですが、代わりに圧倒的なくじ運が必要となり、入学を希望すれば通えるというわけではありません。

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指定されたコエドのギフティッド学級、学区域の通常学級、運まかせのオルタナティブスクール。学費無料の公教育にありながら、少ないとは言え選択肢が複数あることを「育む土壌がある環境」と前向きに捉え、選んだ環境を最大限有効活用する術を創造的に考えながら、子供達を見守って行きたいと思います。



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