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オンタリオ州公立学校、ストライキ始めました。 その2

先生方、賃上げ交渉に躍起になっているんじゃないの?という誤解も一部にあるようですが、今回教員組合が交渉において重きを置いているポイントはそこではありません。いくつか主だったものを挙げると。。。

特別支援プログラムへの資源分配

通常学級での学習スタイルでは効果が上がりにくいと思われる、行動、コミュニケーション、知能、身体などにおいて特異性が見られる生徒を対象にしたプログラム。アシスタントをつけて通常学級に属するケース、通常学級に属しながら何割かのコマで別室サポートを受けるハイブリッド型、別学級で学ぶギフティッド・プログラムなど様々ですが、とかく予算削減の標的にされやすいです。
必要なサポートの種類は子供達の特性によって千差万別、対象者数も決して多いわけではなく、リバレッジするのが難しいのが特別支援。少数だからと縮小させるのではなく、妥当な資源分配をしてほしいと組合は訴えています。

未就学児童の終日保育

共働き家庭や一人親家庭も多いカナダ。保育園不足は女性の社会進出を妨げる要因として日本でも問題視されている通り。未就学児を終日預けられる公的設備の充実を求めています。

クラスサイズの縮小

学校の立地と評判によって生徒密度に大きく開きがあるのですが、全般的にオンタリオ州は人口流入が激しく、湖畔はタワマン建設ラッシュ。校舎の収容上限人数を上回る生徒を抱える学校も多くあります。

知人のお子さんが通う小学校では、生徒数に対し教室数が圧倒的に不足しているとのこと。それでも生徒教員比率は守る必要があるため、1つの教室に詰め込まれたたくさんの生徒達に対し2人の先生を配置。1つの教室空間内に2クラスが共存し、それぞれに授業が進められているとのこと。集中力のある子供でないと、どちらの話を聞いていいのか分からなくなりそうです。

また、教室に席が足りず、授業を立った状態で受けなければならない生徒もいる高校を知っています。大学受験があるわけでもないカナダにおける普通の公立高校の授業なのに、さながら予備校人気カリスマ講師の白熱講座状態の人口密度です。
娘が高校を選択する際、カリキュラム内容の次に気になったのは「全生徒分の十分な教室、椅子、机は確保できている高校なのか」という点でした。少人数用に作られている狭い教室に生徒達が詰め込まれている現状は風刺されるほど。改善して欲しいものです。

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非常勤教員、保育士、専門サポートスタッフ、補助教員などへの妥当な賃金

保育士さんの低賃金問題は日本固有の問題ではない様子。加えて手話スタッフ、発達障害のある児童のサポートをするカウンセラー、発語や吃音の矯正を専門とするスピーチ・パサロジスト、身体の状態によっては介助スタッフなど、色々な専門をお持ちの方が学校に携わっておられます。こうした方々への賃金が常勤教員に比べ恵まれていないことを改善したいという訴えです。

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こうした組合の訴えに加え、学校生活の中で子供達自身が教育予算不足を感じることが多々あるようです。例えば。。。

科目数の減少

クラスサイズの肥大化に反比例するかのように、選択できる科目の種類は減少の一途である公立学校。小中学校に昨年まで必須科目としてあった「外国語(International Language)」は、予算カットで今年から廃止となりました。学年は上がっているというのに履修授業数の減少で下校時刻は昨年より30分も早まることに。15時ともなれば、部活もないので全校生徒下校です。

教室備品も教材も先生の自腹購入

また、娘達の学校ではペン、鉛筆削り、のりやハサミなど、教室の備品はほとんどが先生ご自身が購入した私物です。筆箱の文化がないため、芯の折れた短い鉛筆がポケットに一本入っているだけだったり、ファイルにペンを挟んでおいたつもりだけど失くしたなど、筆記用具が揃っていない子が普通にいます。そのため、教室には机の島ごとに鉛筆立てが置かれており、それらは先生の用意したものなのです。

低学年の担任になってしまうとクレヨンや画用紙などの消耗が早く、モノの破損も激しいため、備品や教材費として自腹で年間1,000ドル(10万円弱)くらい使わなくてはならないと、先生方はぼやいました。
確かに、娘が美術の授業で絵を描いた際も、「これは私が奮発して買った良い紙なんだから、丁寧に使ってちょうだいよ!」と、先生が若干恩義せがましかったと言っていました。

箱ティッシュの補充もできない

去年の後期には学校の箱ティッシュ在庫が底をついたので各家庭からティッシュを寄付して欲しいと連絡。次女のクラスには30箱くらい寄付した子がいたおかげで、風邪大流行の季節でも皆思う存分鼻をかむことができたようです。方や長女のクラスは連絡がうまく伝わらず、常に紙不足のオイルショック状態。
学校近くのファーストフード店から誰かがゴッソリ取って(盗って?)きたナプキン、トイレで手を拭く用の固い再生紙ペーパータオルによるティッシュ代用が続いており、鼻の下が赤く切れかけている子もいました。鼻風邪が流行ろうとも、ここにはポケットティッシュを携帯する文化も、ティッシュを買う学校予算もないのです。

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そこまで教育財源が削減されている中、手厚いサービスもあります。
成人の監視が法的に必要な(子供だけで留守番をさせてはいけない)年齢である12歳以下の子供に対し、ストライキ休校時の保育費用補填として、働いている家庭は最大一日60ドルが条件付きで貰えます。

これにより、一回のストライキでオンタリオ州は48,000,000ドル(約40億円)の費用負担をすることになると言われています。「狂気の沙汰だ。この何十ミリオンドルもの財源は、生徒達の教育に投資されるべきなのに。」と、オンタリオ初等学校教員連合の組合長。公教育を冷遇する州政府と一向に折り合いがつかないことに憤っています。

いつになったら交渉はまとまるのか、先の見えない折衝が続いています。こうなってみると改めて、学校を生活の中心に据え過度に依存するのではなく、「ある日には行く場所」くらいの認識に留めておく方が賢明だと思えてきます。ストの有無に関わらず、子供達には学ぶべきことや学びたいことは自発的に学ぶというホームスクーリング時代のメンタリティを維持し、これからも公立学校と付き合って行って欲しいと思います。



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