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「育休中の学び直し」に思うこと


岸田首相の「育休中に学び直し(リスキリング)」発言、いろいろなところで取り上げられています。

かれこれ5年以上、育休中にボランティアをするという「ママボラン」なる珍妙なサービスをつくってきた身からいくつか思うことがありまして、考えをまとめてみました。

1.首相の発言に対する批判の多くは「育休は休暇じゃねー!産後どれだけ大変か体験してみろ!!学習時間なんて取れるわけねーだろ!!!」というご意見。これは本当にその通りで、さらに育休は乳幼児の育児期間であると共に、母体の回復期間として必要な期間だと思っている。出産という命がけの仕事によりずたぼろになった女性が、身体と心のケアのために休む時期だという認識をもたないと、男性育休の拡がりと共に「パパがいるならママは育休いらないよね、働けるよね、勉強もできるよね」と思い、発言する人がいるかもしれない。

2.岸田首相の発言の背景には、出産による離職、非正規職への移行、時短勤務、マミートラック等による男女の賃金格差や就労格差がある。実際に正社員ワーキングマザーの転職支援をしている身からすると、時短勤務可能な中途採用求人は求人全体の10%以下しかない(他社媒体を「時短勤務」で調べた結果、エンジニア職をのぞく)。女性社員の増加により時短勤務を認める会社は増えているものの、それはあくまで既存社員に対してであって、外部から正社員で時短勤務を希望する者が採用されるのは狭き門なのだ。そのような背景において、女性のリスキリングを支援し、就職機会を増やし、賃金格差をなくしていこうという政府の発信はわからなくもない。

3.ただ、だからといって育休中のリスキリングを政府が推奨するのは、格差の改善を個人のがんばりに頼っているように捉えられかねない。育休の大変さは子供の状況、母体の状況、周りの支援の有無、と各家庭より大きく異なってしまう。そもそも育休を取得できない会社もまだ存在する。本来ならば個人の自助努力ではなく、格差をなくすために社会システムを変えていくのが政府の役割だと思う。なぜ出産で離職しなければならないのか、なぜ時短勤務の正社員求人が少ないのか。多くの企業が社員は残業できて一人前という前提になっているからだ。政府はもっと多様な働き方が可能となるように企業を動かしてほしい。男女関わらず安心して働き子供が産み育てられる、そんな企業に光を当ててほしい。

4.一方で、個人的な見解としては育休中の過ごし方が、復職後のキャリア形成に大きな影響があると考える。わたし自身も育休は会社から離れて自分のこれまで、これからを冷静に考えられた貴重な時期だった。2019年パーソル在籍中にパーソル総研とだした論文には「復職後に役立つ育休の過ごし方」として提唱させていただいた。(参照P14、41、42)

https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/working-mother.pdf

岸田首相の発言は「学び直し」という言葉から「育休中に学んでいる時間なんてない!」と反発されてしまったが、キャリアを拡げるという目的から考えるならもっと広義の活動として捉えてみたらどうだろうか。パートナーと復職後の役割分担について相談する、キャリアカウンセリングを受けてみる、仕事や会社以外の出会いを楽しんでみる。
そんな「育休をキャリアのブランクではなくブライト」にしたい、と考えてつくったのがママボランだ。育休中だからこそのおもしろい出会い、乳幼児の育児や自分のケアをしながら社会と繋がれて自信がもてる体験ができないか、そう考えて作ったサービスだ。睡眠時間もままならない育休期間、インプット(学習)よりも対話やボランティアなどのアウトプット(体験)の方が、細切れ時間の中でも外部の人と触れ合いながら視点を広げていくことができる。ママボランに参加して復職した方からは、この体験がきっかけとなって働き方を見直した、パートナーとお互いのキャリア観や役割分担について話すことができた、自分のスキルが他社でも通用すると気づき自信をもって復職できた、という意見をいただいている。ママボランに参加するかどうかはあくまで個人の意思、政府からも会社からも強制されるのではなく、個人の育休中の選択肢としてこれからも細々と、この珍妙な事業を続けていきたい。

以上、つらつら殴り書きにて失礼しました。
なによりキャリアについての価値観は人によってそれぞれ。誰にも強制されるものではなく、自分の生き方として個人が決めるものだと思っています。大切なのは選択肢があるということ。仕事でがんばりたい人もそうじゃない人も機会が与えられ報われる、そんな社会を共につくっていきましょうね、岸田首相。

育休中の過ごし方について興味がある方は、明日のオンラインイベントに遊びに来てください。
「緊急開催!育休中のワーママ当事者たちが“育休中のリスキリング”発言について考えるイベント!~mog会員のうち育休中に何らか活動している人は約8割~」
2月 1日 (水) 12:00~13:00
https://mamanova.jp/event/show/id/j9ghopkbk2

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