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~Life is a journey~東北編~⑤伝説のビック・ウェーバー


東北編の最後に、アタルさんから聞いた話をシェアしたいと思う。

キャンピングカーで晩酌しているときのこと、アタルさんが話し始めた。

『俺の先輩でゲンさんって人がいるんだ。この辺りでは有名な伝説のビックウェーバーでさ。』


ゲンさんは、アタルさんよりひと回り年上で、白髪交じりの長髪にヒゲをたくわえ、真っ黒に日焼けした肌だという。

僕は頭の中でハワイアンをイメージしていた。

ゲンさんは若いころ、ビックウェーバーになりたいとお祖母さんに相談したという。
するとお祖母さんは、

『月の呼吸をしりなさい』

そうとだけ答えたそうだ。

僕はアタルさんの話しにのめり込んでいった。

『あるとき仙台新港で大波が現れたんだ。
ギャラリーが集まる中、俺も友達と見に行った。そこにサーフボードを持ったゲンさんが現れて俺に言ったんだ。』


『アタル、中で待ってるぞ。』


『そう言って、大波の中に一人で入っていっちまったんだよ。
俺もサーフボードはあったけど、さすがにこの波では入ろうとは考えてなくてさ。
でもゲンさんに【待ってるぞ】と言われたら行くしかない。
そういう存在なんだわ、ゲンさんは。』


懐かしそうな表情でアタルさんは続けた。


『腹を決めて俺も入っていったよ。
しかしそこは俺の想像以上の場所だった。
波に乗るどころか、なんとか沖に漕ぐので必死でさ。
そしたら遠くの沖のほうから大きな波が入ってくるのが見えた。

やばい!

そう思いながらも必死に漕いでインパクトぎりぎりのところでかわすことができた。
だけど後ろを振り向いたら、ゲンさんがボードを捨てて、潜る瞬間が見えたんだ。
直撃を受けるところだった。
そのとき俺は、もうゲンさんに会えないと思ったよ。』


アタルさんは顔をしかめていた。


『何とか沖に出た俺は、ゲンさんの姿を探した。
すると、荒れ狂う大波の中に必死で泳ぐゲンさんをみつけることができた。
生きてたんだ。

次の瞬間、突風とともにゲンさんのボードが俺の頭上を飛んでいった。

取りに行かなければ…。

そう思った俺は、ゲンさんのボードに追いつき、抱え込むことができた。
でもさすがに無理がある。一人でも必死な状況だったわけだからな。』


結局アタルさんは、ゲンさんのサーフボードを保守できなかったという。

その後、極力小さい波を選び、アタルさんはなんとか大海原から生還できた。

全エネルギーを使い果たしたアタルさんは、砂浜にうずくまる。

そこへ先に生還していたゲンさんがやってきた。


『すみません。ゲンさんのボード、一度は掴んだんですが…。』


『アタル、俺には仲間がたくさんいるけどな、お前はその中でも一番だ。』

そうほほ笑んで、ゲンさんは去っていったという。


『うれしくてさ。あの時のことは忘れられないよ。』

アタルさんの目には涙が溢れていた。


人の数だけ世界があり、物語がある。

旅を始めて最初に感じた出来事だった。

今でもアタルさんにはとても感謝している。

つづく…。

【~LIFE IS A JOURNEY~僕の半生記】
キャンピングバスで生活しながら旅をしていた僕が、
道中で奇跡的な出会いをし、妻に公開プロポーズをした自伝小説。



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