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~Life is a journey~近畿編~⑥和歌山の仙人

夏から秋にかけて東北地方を巡った僕は、
年末に向けて一度、東京の実家へ帰ることにした。

正月を家族や仲間と過ごし、二〇一七年一月中旬から旅を再開させる。

冬の間は南に向かおうと考えていた。

太平洋沿いを気の向くままに南下していった僕は、一月の下旬には和歌山県に入っていた。


ここでまた面白い出会いがある。


串本町にあるサーフポイントをみつけ、何日か滞在するために駐車場を探していたところ、
たまたま海を見渡せる丘の上に駐車場を見つけた。

車通りの少ない県道の山道脇にあるその駐車場には二台の軽ワゴンが停まっているだけだった。

邪魔にならないように隅のスペースにキャンピングバスを停め、クマジを連れて散歩にでかけた。

しばらくして駐車場へ戻ると、先ほどの軽ワゴンの横に椅子を出し、二人の男性が会話している。

僕が挨拶をすると、

『それ兄ちゃんのか?』

バスを指さして一人がいった。

『はい。そうです。お邪魔しています。』

そう言いながらキャンピングバスから椅子を持ち出し、

『ご一緒していいですか?』と横に座った。

普段より大胆になれることも旅の魔法かもしれない。


一人は六十歳くらいの短髪のおじさん。
見るからに人が良さそうだが、前歯がすべてない。

もう一人は、七十~八十歳くらいに見える。
薄くなった髪の毛は真っ白な長髪で、伸ばしっぱなしの長いヒゲも真っ白だった。

『仙人と呼びなさい。』

唐突にそう言われた僕の頭の中では、
子供の頃に夢中で集めていたビックリマンシールの神様、【スーパーゼウス】が浮かんでいた。


相手を認識する際、顔のパーツのどこを中心に識別するかは人それぞれ違う。
と以前何かの本で読んだことがある。

目を中心に識別する人、鼻や口など、中心に見る箇所は十人十色のようだ。

しかし仙人に限っては、この理論は通用しないのではないだろうか?

誰がどう見ても仙人なのである。


横に腰かけた僕は、昼間だったこともあり、コーヒーを振舞おうと勧めた。

すると二人とも

『酒のほうがいいわぃ』

と言って、お互いの車から大五郎のペットボトルと角ウィスキーのボトルを持参した。

僕も負けずと飲みかけのジンビームで応戦させて頂き、即席の宴(うだげ)が始まった。


二人とも車中生活を何年も続けており、数年前にこの駐車場で出会ったという。

『ワシは普段、山の中に住んでるんじゃが、冬になるとここにきて車中泊をするんじゃよ。
全国旅したが、冬は和歌山が一番暖かいぞ。』

仙人はそう言うと、角ウィスキーをストレートで一口飲んだ。

『山の中に住んでいるなんて、本当に仙人ですね~。』僕が返すと、

『浮世(うきよ)にうんざりしたからな。』

そう言って、また角ウィスキーを一口飲んだ。


そこから、仙人が経験した若い時の話に僕はのめり込んでいくことになる。


『お前さんと同じくらいの時にワシも旅をしていてな。あるとき、森の奥地でキャンプをしていたんじゃ。
すると一台の大型バイクが近づいてきた。
よく見ると運転しているのは若い女性だった。
大型バイクに積めるだけの旅道具を乗せた女性はわしに話しかけてきた。』

『おじさんも旅をしているの?よかったら一緒に魚を食べようよ。』


彼女はそう言うと、ハンドルに引っ掛けてあるビニール袋から魚を数匹とりだしたという。

その魚はどうしたのかと仙人が聞いてみると、手ですくい上げたと答えたらしい。

彼女いわく、手の平を上にして川に突っ込む。

しばらく待つと、好奇心旺盛な魚が近寄ってくる。

そして手の上を通った瞬間にたたき上げるのだという。


『それ、熊が鮭を捕る手法じゃないですか!』

僕は思わず口をはさむ。


満足げにほほ笑んだ仙人は、話しを続けた。

『しかも面白いのがここからじゃ。

ワシと彼女はそこでキャンプをすることになった。

お酒好きという彼女の荷物がほとんど酒だったことには驚いたもんじゃよ。』


仙人の話によると、彼女は大学生。

親の教育で無理やり大学に通わされていたものの嫌になり、勝手に大学を辞め、返金された親のお金でバイクを購入して旅にでたという。


僕は今まで自分は変わり者だと思ってきた。

でもその考えをあらためなくてはならない。

世の中は、僕が考えているよりもずっと深そうだ。

仙人は続けた。

『ワシらは酒を飲み、いろいろな話をしとった。』
すると彼女が言った。

『おじさん野生の熊を見たことある?私は友達になれるんだよ。』

見たことがないと言ったワシに、明日連れて行ってあげるというのじゃ。

内心怖かったが、ひと回り以上も若い彼女に
かっこ悪い返事はできんからな。』


翌日、彼女のバイクに乗り、近くの山まで行ったという。

途中でバイクを停め、歩いて山を登っていると、
『ここだよ。』
彼女は振り返り、にっこり微笑んだ。


『ワシはそこで周りを見た。すると横の獣道から顔をのぞかせている熊と目が合ったのじゃ。
気が付けば周りは数匹の野生の熊に囲まれておったよ。
もう震えが止まらなくて、その場で小便を漏らしてしまったわ。』

話し終えた仙人は、残りの角ウィスキーを一気に飲み干した。


すごい話に僕は興奮した。

『そんな女性がいたら、惚れちゃいますね?』

僕がそう言うと、仙人はまんざらでもない顔で笑みを浮かべた。

その後、彼女と仙人がどうなったのかは聞かないでおくことにした。

想像するということも人生の楽しみなのだと思う。

それからの数日間、
サーフィンをしながら仙人たちと過ごした僕は、

『またお会いしましょう』。

と、旅人の決め台詞を残し、四国へ向かった。

つづく…。

『やりたいことをやって生きる!!』
そう決めた僕が、経営に関わっていた会社を辞め、
キャンピングバスで生活しながら旅を始めた実録記。
道中での数々の奇跡的な出会いや、
妻へ公開プロポーズをするまでの神がかりな出来事を書いた自伝小説です。
【~LIFE IS A JOURNEY~僕の半生記】


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