~Life is a journey~四国編~⑧本木のおっちゃん
翌日、志藤さん宅で目覚めた僕は【ある企画】を思いついた。
『志藤さん、今日は休日でしたよね?本木さんとBBQしませんか?』
数日前のこと、
いつものように志藤さんは僕のバスが停めてある駐車場へ、仕事の合間に顔をだしてくれていた。
すると、普段は使われてないはずのこの駐車場へ一台の軽ワゴンが入ってきた。
近くに停まったワゴンから出てきたおじさんは、慣れた手つきでテーブルとイスを出し、
年期の入った水筒から液体をコップに移して飲み始めた。
年齢は、僕の親くらいではないだろうか。
僕と志藤さんが挨拶をすると、
『しばらく停まっているね?旅でもしてるのかな?』
そう言って、ポケットから取り出した煙草に火をつけた。
これが本木さんとの出会いだった。
本木さんは、この丘の駐車場が見えるすぐ裏に家があるようで、
数日前から停めている僕のバスを知っていた。
今は頼まれたときにしか仕事はしていないらしく、
よくこの駐車場に来ては、海を眺めながら一杯やるらしい。
水筒の液体は焼酎割りだった。
『家にいても母ちゃんはうるさいし、この辺の年寄りは世界を知らんからな、話していてもつまらんよ。』
そう話すと、本木さんは二本目の煙草に火をつけた。
折り畳み式のテーブルの上には、二箱のキャスターマイルドが積まれている。
ヘビースモーカーのようだ。
仕事の合間だった志藤さんは帰り、僕と本木さんの宴(うたげ)が始まった。
『おっちゃんはな、若いころ仕事で世界中を飛び回っていたんだぞ。』
本木さんはそう言うと、年期の入った水筒から焼酎割りをコップに移し一口飲んだ。
石工職人として川の土石を作り、世界中に出向いていたという本木さんは、
自身のことを【おっちゃん】と呼ぶ。
『これだけでは足りないな。稲くん、おっちゃんちにおいで。』
年期の入った水筒を空にすると、
半ば強引に僕は近くにある本木さん宅にお邪魔することとなる。
本木さんの家は母屋と庭に離れの小屋があり、
奥さんが母屋、本木さんは離れに住んでいるらしい。
僕と同い年の娘さんがいて、高知市内で一人暮らしをしているとう。
『稲くん、娘はまだ独身なんだよ。』
そう言った本木さんの言葉に含まれる意味を僕は深追いしないようにした。
本木さん宅にお邪魔するや、芋焼酎で乾杯をし、宴(うたげ)が再開した。
『稲くん、内臓は好きか?』
これまた年期の入った七輪を持ち出しながら本木さんが言う。
『おっちゃんは内臓が大好きでな。
数年前に癌をやったんだが、そんなもの食べてるからよ。って母ちゃんに怒られたよ。』
本木さんの言う【内臓】とは【ホルモン】のことらしい。
指示されて冷蔵庫を開けた僕は、ひと塊のホルモン肉を取り出した。
『まだ大丈夫だろう。おっちゃんはいいから、稲くん食べなさい。』
そう言って年期の入った七輪に炭を入れ、火を起こす本木さん。
母屋に奥さんがいるとはいえ、この離れでほぼ一人暮らしの初老が言う『まだ大丈夫だろう』。
この響きが気になったこと、それは言うまでもない。
しかし、本木さんのご厚意を断るほど僕は世間知らずではない。
“しっかり焼いて”頂くことにした。
芋焼酎を飲みながら本木さんは、趣味であるマス釣りの話や、写真を見せてくれた。
好きなことの話をしている本木さんは、子供のような顔をする。
僕もこんなおっちゃんになろうと思った。
二人で芋焼酎のボトルを飲み干すころには、本木さんの目は30%ほどしか開いていなかった。
すると突然、眠そうな目で僕のほうを見た本木さんは、
『稲くん、おっちゃんが死んだら灰を川に流してくれよ。』
そう言って横になり寝てしまった。
あまりにも急な、そして意外な言葉に驚いた僕は、寝ている本木さんの呼吸を確かめた。
“ただ寝ている”本木さんを確認してから、母屋の奥さんに挨拶をして帰ることにした。
すると奥さんが車で僕を送ってくれた。
『ごめんなさいね。あの人は若い人と話すのが好きでね。よくこうやって連れてきてはお酒を振舞うのよ。』
送って頂いている車内で奥さんから聞いた。
『だからあんな表情でいられるんだろうな』そう思い僕は、
子供のように好きなことの話をする本木さんを思い浮かべた。
その日の深夜、
ものすごい吐き気とともに僕は目を覚ます。
外にでる間もなく、
キャンピングバスの窓から顔をだした僕は、
胃の中にあるホルモンをすべて吐き出していた。
『やりたいことをやって生きる!!』
そう決めた僕が、経営に関わっていた会社を辞め、
キャンピングバスで生活しながら旅を始めた実録記。
道中での数々の奇跡的な出会いや、
妻へ公開プロポーズをするまでの神がかりな出来事を書いた自伝小説です。
【~LIFE IS A JOURNEY~僕の半生記】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?