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宇宙技術の標準規格

「ISO準拠!」なんかすごそう、なんだかわからないけど!

と言ったときのISO(アイエスオー)は、多くはISO9001規格を指している。これは国際標準化機構(ISO)が決めている規格である。ISO9001という文章番号の規格に品質マネジメントについて書かれている。規格を守り認定団体に監査されてはじめて品質管理を守っていると名乗れる。内部統制改善とブランディングのためにアピールする会社は多い。

よく見る「ISO」はISO9001(品質マネジメント)やISO14001(環境マネジメント)。その他にもISO規格は大量にあり、発行済のStandard(標準)文章は2万を超えて日々増えている。例えば、ISO 1は「製品の大きさを測る温度の基準は20℃」だったりする。

2万もあるので、多分野で大量にある。

ISOの宇宙の規格

ISOはいくつかの技術委員会(TC)とさらにその下に分科委員会(SC)がある。宇宙関係のものは以下の2つ。

ISO/TC20/SC13 Space data and information transfer systems
ISO/TC20/SC14 Space systems and operations

製造する人(自分など)にはSC14が大事になる。ISO/TC20/SC14が発行している標準だけでも170個(審議中のも40個以上)ある。

1個の文章で数千円〜1万円以上で購入可能。高い。しかし必要なので100万円近く課金した。ISO廃課金勢である。

ISOはその名の通り国際規格であり、その下に地域規格や国内規格、団体規格など大量に存在する。日本の国内規格だとJIS(日本産業規格)が有名。

上の規格には合わせる必要があるが、偉いわけではない。通信の規格でWifiやBluetoothの規格などはIEEEという学会が主導して決めた団体規格が世界中で使われている。

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ISOの宇宙関連の規格を知りたいときはSJAC(日本航空宇宙工業会)のページを見ると良い。

アメリカの規格

一番有名なのはアメリカ軍規格のMIL。MILは昔は大量に作られたが、現在では多くを民間の各団体規格に移管している。

アメリカは標準団体が多くある。宇宙開発している中で出てくるアメリカの団体規格を挙げると MIL、IPC、IEEE、NEMA、ASME、ASTM、API、ASCE、SAE、AISC、AWSなどたくさんある。

アメリカの宇宙の規格と関連文書

アメリカは宇宙のユーザーとしてNASAと軍があり、さらに産業界の標準化の推進力も強いために、様々な規格が入れ乱れている。具体的に何個あるかわからないが、宇宙関連だけでも数百以上の標準がありそう。

NASA:NASA標準はNASA全体及び各センターからも発行されている。NASAがサイトを作って公開している。https://standards.nasa.gov/

アメリカ軍MILの他に、各軍各センターの規格がある。特にロケットではUSAF SMC(アメリカ空軍 宇宙ミサイルシステムセンター)の発行しているものが有用。その他にも、AFMAN 91-201 : Explosives Safety Standardsという文章(AF:空軍、MAN:マニュアル)は爆発物の保安距離の参考資料として広く使われている。AFSPCMAN 91-710(AFSPC:空軍宇宙軍団)はロケットの打上げの際の保安文章として広く参照されている。このように多くの有用な規格がある。検索は非常にしにくいが、EverySpecというサイトで一部は公開されている。http://everyspec.com/

AIAA:アメリカ航空宇宙学会。規格は学会員になると無料でダウンロードできる。https://www.aiaa.org/publications/Standards

SAE:米国自動車技術者協会、Automotiveの訳で自動車とあるが、自動車以外にも航空宇宙の機械も幅広く規格として取り扱っている。規格文章は購入可能。番号を知っている以外では探しにくい。https://www.sae.org/

ヨーロッパの宇宙の規格

EUは各国の宇宙機関(日本でいうところのJAXA )が集まって、ECSSという協会をつくり、そこで体系だった規格を作っている。

ECSS:欧州宇宙標準協会。EUの宇宙機関と契約するにはECSS規格に則る必要がある。文章は豊富で番号体系も整理されていて無料でダウンロードも出来る。素晴らしい。背景の違う人達をまとめるために規格によってまとめようという努力が見られる。180個近くの文章が公開されている。

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日本の宇宙の規格

JAXA:国内はJAXA共通技術文書だけである。他の宇宙大国と比べて悲しくなるほど少ない。80個の文章が公開されている。なぜか非公開文章が多い。開示依頼をしたことがあるが、ダメだった。アメリカやECSSで公開しているような文章でもダメだったので謎である。英語読めばいいか、と思って期待しないことにしている。

SJAC:SJAC(日本航空宇宙工業会)が標準化活動を行っているが、こちらは国内でまとめる気はなくて、ISOにどうやって絡めるかの活動だけである。

中国の宇宙の規格

中国の宇宙機関である中国国家航天局はCHINA SPACE STANDARD SYSTEMと言って、EUのECSSを参考にして規格を作っている。その数1400個。桁違いに多い。が、Web上で英語で公開されているのは多くないので読めない。。。中国で多くの民間宇宙ベンチャーが生まれているのには、このような技術を標準化し、国中に広めようという仕掛けを実行しているからは大きいだろう。昔のアメリカ軍のMIL規格は大量に規格を定めたが、細かすぎたのと更新が遅く技術的陳腐化によって機能しなくなり、方針を改めた。中国の宇宙系の規格も数がありすぎてMILと同じような道を歩みそうだが、どうなるのか今後注目。
http://www.cnsa.gov.cn/english/n6465684/n6465689/index.html

補足1:規格について

規格の中には試験方法や検査方法、製造工程、管理工程を規定するものがある。これが統一されていると、他の国の製品を持ち込んだりも可能だし、詳細詰めなくても「この規格の通りだよ」の一言で済んだりするので便利。受け取る方も安心。

ISOではないが、JIS Q 9100という規格は航空宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムで、アメリカのAS 9100や欧州EN 9100という規格と同一だとして、これを満たしている会社のものは航空機レベルの部品に使える品質があると世界的に認知される。

補足2

英語だと規格とその関連文書として、Standard > Handbook = Guideと分かれている。しかし、日本語だと標準と規格という2つの単語がStandardに相当するので読んでいる文章によって表記が分かれる(このブログでも揺れてる)。Handbookはハンドブックとか便覧とか参考書。Guideはガイドラインや案内など。日本語は表現が豊かでむずかしい

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