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フェスのプロデューサーがアーティストを選ぶ際に考えていることやその基準

割引あり

はじめに

「どうやってアーティストを選んでいるの?」「どうやったらフェスに出れるの?」と聞かれることが意外と多いので、筆を取ってみます。

まず大前提として、フェスの作り方は100人いれば100通りあるほど千差万別、多種多様です。1人のオーガナイザーが知人友人のコミュニティで企画制作することもあれば、何社もの企業が実行委員会をつくり制作会社に委託する形でつくることもあります。

アーティストのブッキング(お声がけする人を選び、お声がけすること)においても、1人の担当が全アーティストを選ぶこともあれば、ステージごとにブッキング担当が異なる場合や、アーティストごとにブッキング担当が異なる場合など、こちらも多様なケースが存在します。

自分はこれまで全国各地で100以上の音楽イベントやフェスをプロデュースしてきた中で一通りの形式は経験してきましたが、大体どのフェスにおいても少なからずブッキングには関わっていたので、その際に意識していた個人的な考えを、以下より記していきたいと思います。

↑は自分のフェスティバルワークス一部


ブッキングする際の流れ

まずはどういう流れでアーティストをブッキングしているのかを書いてみようと思います。しつこいようですがこれも人によりけりなので、あくまで自分の例として。

①フェスの世界観を現す音楽はどういったものなのか想像する

まずは今回つくるフェスで実現したい世界観やビジョンをもとに、五感体験を設計します。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚すべてにおいてこのフェス”らしさ”を抽出し、具体化します。

例えば上図は現在制作中の新作「RingNe Festival」(リンネ フェスティバル)の企画書の一部ですが、自分の場合世界観を共有するためにまず小説を1本書く(※1)ので、聴覚であれば小説の本文中から抽出できる聴覚的要素と、それを踏まえてフェス内でどのような聴覚体験があり得るかをコンセプトデザインしていきます。(これを五感覚分全部やります)

あとはもちろん事前に会場に行き、その場のロケーションや雰囲気を感じて、その場にあった音楽の方向性を決めたりもします。

※1 この辺りの自分の特殊なフェスの作り方についてはこちらの記事をご参照ください。

②アーティストの洗い出し

そこで抽出した聴覚体験をもとにして、どのようなアーティストがこの場にふさわしいのかを洗い出していきます。どういうジャンル、どういう音色、BPM、ビジュアル、編成、詞の世界観等、様々な要素の中から思い当たるアーティストを洗い出します。

Mud Land Fest

例えば泥フェスことMud Land Festであれば、泥まみれになりながら野菜を収穫して食べられるという体験に沿う音楽なので、土着的な生音、夏の日中に心地よいビート感、トライバルな音色、プリミティブなパフォーマンス、自然と調和するような詞の世界観、など連想できます。

出演アーティスト:RABIRABI、KEIZOmachine!(HIFANA)等

KaMiNG SINGULARITY

2045年以降の世界をテーマにした渋谷の室内フェスティバル「KaMiNG SINGULARITY」では音楽のテーマを”AIと人間が共創する音楽”と”100年前から変わらない普遍的な音楽”の2つをテーマにして交互にタイムテーブルを組むというコンセプトでブッキングをしました。

出演アーティスト:SASUKE×人工知能ラッパー、MATSUMOTOZOKU等

そもそもの候補となるアーティストをどうやってリサーチしているのかについては、自分の場合毎週200曲ほど世界中の新譜を選り好みせずに聴いているのですが、その中から良いと思ったものをジャンルやムード毎に分けたプレイリストにカテゴライズしているので、それを参照していたりします。サブスクに上がってないアーティストもライブで聴いたり、サンプルCD頂いたりで脳内メモリに入っています。

洗い出す際はアーティスト名やレーベル、想定される予算感や編成、拠点などの情報と共にリストアップして、以後の選択フェーズにおいて参考にします。

③お声がけするアーティストを選抜する

そして実際にお声がけするアーティストリストを絞っていくのですが、並行してタイムテーブルも組んでいきます。オープニングは明るく和やかなバンドがいいとか、夕暮れの時間帯はシックなジャズがいいとか、ラストのヘッドライナーを活かすためにジャムバンドをその前に置いて空気を温めようとか、フェス全体のコンセプトや聴覚体験に加えて、タイムテーブルの時間枠や流れも加味してアーティストを決めていきます。

そして各出演枠に対してだいたい3~5組ほどの候補まで絞ります。
アーティストのブッキングは(当たり前ですが)確実にお請いただけるわけではなく、謝礼額やフェスの規模感、主催、コンセプト、ツアースケジュール等の兼ね合いや、お声がけする際のコミュニケーション等々、アーティストやマネージャー、レーベル側も様々な条件の中で出演するフェスを見定めています。

なので優先順位をつけつつ複数名候補を洗い出しておき、NGだったらすぐ次に行けるようにしておくわけです。

そしてこの際にどういった基準でお声がけするアーティストを選んでいるのかは、長くなりそうなので次の章にて後述していきます。

④お声がけする

そして選抜したアーティストにお声がけを始めていくわけですが、自分の場合まずはヘッドライナー(フェスの顔となる比較的著名で影響力のあるアーティスト)枠からお声がけをしていきます。

ヘッドライナー枠が誰になるかで全体のトンマナが変わることもあるので、他のアーティストを選定する上でも、予算のバランス感を鑑みる上でも、まずは一般的に最も高額になり影響力のあるヘッドライナー級のアーティストのブッキングを始め、抑えます。(だいたいこれを開催1年前からは始めます)

ヘッドライナーが決まったら、多くの場合そこがフェスのタイムライン上ピークになるので、そこに至るまでやそれ以降の流れをどうつくるかを検討し、タイムテーブルを編集し、他の出演枠のお声がけ順を調整して、優先度が高い順にお声がけをしていきます。

タイムテーブルの組み方についてここではあまり詳しく書かないですが、体験設計の基本的な考えの1つにピークエンドの法則というものがあります。これは体験中のピークとエンドの総和が来場者の満足度となるという法則です。自分はDJもやっているのでこの辺りの感覚が肌感覚として身についているのですが、ピークに持っていくまでの下準備や、飽きさせないための良い裏切り、コンセプトを象徴するようなメッセージングで美しい終わり方等を意識して、タイムテーブルを組んでいきます。

その後もアーティストやマネージャと細かいやりとりがあるのですが、本記事はブッキングについてのものになりますので、流れについてはここで終了します。

フェスでブッキングするアーティストの基準について

主に下記のような点を総合的に見て判断していますが、全てを網羅している必要があるかというとそういうわけではなく、例えばライブパフォーマンスがあまりに素晴らしいが他は評価が低い、という場合でもその他の出演者とのバランスやフェスのコンセプトやターゲットによっては採用する場合がありますし、シンプルに関係性が良かったり、これまでの実績から信頼できる場合は諸々飛び越えて優先的にお声がけする場合もあります。

①フェスとのマッチング


・前述のようにフェスのコンセプトとの整合性を自分の場合は最も重要視するので、楽曲やパーソナリティ、ライブパフォーマンスや哲学とコンセプトの相性を見ます。

(いやしとアロマをテーマにしたフェスにお声がけしたPredawnさん。聴いてわかる通り圧倒的な癒しと、甘いの花の香りがふわっと香ってくるような柔らかい声)

②ライブパフォーマンス


・いうまでもなくですが、アーティストがどのようなライブをするのかが1つの観点になります。主にYoutubeやTwitterでライブ映像を検索して見ます。リプ欄やコメント欄にどういう評価があるのかも一応気にします。

(Neo盆踊りやKaMiNG SINGULARITYでお声がけしたDÉ DÉ MOUSEさんのライブ映像。特にDJ系のアーティストだと楽曲単体というより全体の繋ぎ、流れの中で世界を作っていくのでMVよりLive映像が参考になります。DÉ DÉさんはライブアレンジも非常に多く、ライブ映像もたくさんアップしてくれているので"今回こんなイメージで"とお伝えもしやすいです)

③SNSのフォロワー数、エンゲージメント率


・フェスとしてはブッキングするアーティストがどういう人たちをどれくらい集められるのかも重要な観点です。主に公式HPから一通りのSNSを見て、フォロワー数やフォロワーの属性、エンゲージメント率を見て選出基準の1つにします。

④ライブ編成


・ステージの広さとライブ編成の人数や展開した際の面積、またPA機材に限りがある場合は準備できるミキサーのCh数や電力との兼ね合い等、ステージ側の条件との兼ね合いを見ます。HPなどでプロットが閲覧できるようになっていると非常に参照しやすいです。

⑤想定予算


・これまでの実績や人伝、アーティストとの関係性から大体の想定予算を見積もります。それがフェス全体の予算感の中でマッチするかどうかが基準となります。

⑥その他出演アーティストとの相性


・例えばヘッドライナーとCo-Writeしているアーティストとか、仲が良さそうとか、並んで出演しているとターゲットに強く訴求できるとか、アーティスト同士の相性から演者を検討することもあります。来場者としてはライブ中にサプライズのコラボなど期待できるため、PRにも繋がります。これに関しては既にブッキングしたアーティストからの紹介で、繋がることもあります。

⑦地域性


・特に地方でフェスを開催する際は、その地域の出身やゆかりのあるアーティストが出ているかどうかが集客や協賛、後援に関わることがあり、アーティストにとっても地元でのライブは特別なものになるのでパフォーマンス的な意味合いでも重要視します。HPやバイオに出身地域を記載していないアーティストの方は入れておくとおすすめです。(地方系イベンターは大体「〜〜出身 アーティスト」などで検索するのでSEO対策しておきましょう)

⑧関係性


・アーティストとの関係性が既にあるかも重要です。具体的にいうとチームの中で繋がれそうな人がいるかどうかという点や、過去出演いただいて良い実績があるかどうかという点などがあります。また、長らく関係性が続いていれば自分の過去作品も知ってもらっている分、コンセプトの文脈を理解いただけたり、ただ出演するだけでなく広報や企画の面でも一緒にフェスをつくっていくことができたり、ライブパフォーマンスにおいても良く作用します。

・以前出演いただいた際に告知を頑張ってくれていたとか、返信が早かったとか、コミュニケーションが丁寧だったとか、開演中に運営サイドのことも気遣ってくれていたとか、ライブパフォーマンスとは関係がないけどフェス運営の苦労を知っていて、少しでも力になろうとしてくれていた、そういうアーティストのことをオーガナイザーは忘れません。そういうアーティストのために出演条件が合う企画を企業に提案して仕事持ってきたり、その人が輝けるステージをフェスにつくったり、極めて個人的だけど人間なのでそういうこともあります。

こんなアーティストはもう呼びたくない

逆に「お声がけすることはないだろうな」とか「もう2度と呼ぶことはないだろうな・・・」というアーティストの条件も挙げてみます。ちなみにこれら全て演者側から見た運営側にも全く同じことが言えるので、運営側も自戒を込めて見ていきましょう。

①連絡が滞る

フェスのスケジューリングって関係者が多い分多分皆さんが想定している以上にシビアです。またプレスリリースやメディア掲載時は出演者所属のレーベルやマネージャー確認がマストなため、余裕を持って確認連絡を取り、確認期限を記載の上段取りを組みます。

その中で期限を過ぎても返信がないと、全体のスケジュールが崩れるので結構困ってしまいます。もちろん不慮の事態ということもあるので仕方ないことではあるのですが、その後何事もなかったように謝罪もなく「確認しました」など期限が過ぎてから返信がくると結構冷めます。

自分のせいで相手に迷惑をかけたらまず謝るとか、ビジネスシーンでは当たり前のことができない方も時たまいて、その分素晴らしく突出した何かがある場合はそういう人だと思ってコミュニケーションを続けることもありますが、そうでない場合は次回以降推すことはないです。

②告知協力をしない

これも度合いの問題ではありますが、どれだけ告知協力依頼をしても全く告知をしないアーティストが時たまいます。また、しても当日だけとか、終わった後の写真だけあげるとか、謝礼額の中にどういう期待や願いが込められているのかを知ってか知らずか、ライブだけすればいいんでしょという方にお声がけすることももうありません。

レーベルやマネージメント会社によって告知のレギュレーションがあるので、こちらの依頼したタイミングで告知をしてもらうことはなかなか難しいことがあるのですが、そういった情報共有もなくそもそも告知協力を無視し続けるアーティストと末長いお付き合いをしたいとは思いません。

③コミュニケーションが雑

あんまり具体的な例を出すとヒヤヒヤするのですが敢えていうと、フェス当日になって必要な機材や道具を要求されるようなことがありました。こういったことは事前にアーティストに送付するヒアリングシート内に記載してもらい、PAや制作スタッフに共有して予算を調整して準備を進めるのですが、当日になって「これ用意できないなら出ないよ」みたいなことを言い出す人がいます。

これは極端な例ですが、そもそも打ち合わせをしたがらないとか、しても早く終わらそうと不遜な態度を取るとか、現場スタッフへ悪態をついたりとか、当たり前ですがそういう人を現場はもう2度と呼びたがりません。内部にファンがいないとどれだけ実力があっても、ブッキングの候補にはあがらないものです。

フェスにブッキングされたいアーティストへお勧めしておきたいこと

最後に、フェスに出演したいというアーティストの方々へやっておくと良いと思うことを並べてみます。

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