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アナログとデジタルの狭間で文化と子育てを考える。「田舎とリアルドラえもん」


現在6歳の子どもが産まれてすぐ、僕らは熊本県菊池市の田舎に引っ越してきた。
理由は、「豊かな自然の中で様々な物に触れてほしい」というものだった。
それは有機物をはじめとした様々な物質という意味でもあるし、ジャパニーズランドスケープの空気感や肌感覚、色彩、という意味でもあるし、身体に取り込む水や食物という意味でもある。
当たり前に鹿や野うさぎに囲まれていて、飲むにも料理に使うにも、水は近所の湧水で、収穫した野菜は物々交換でまた別の野菜へと変わるなど、想像していた以上に豊かなアナログさに満たされているこの生活は、引っ越してくるに当たって抱いてきた田舎での子育ての展望を、結果として、まるっと全て補完してくれているように思う。

ここにいながら心配する点はただ一つ。それは「豊かな文化的経験を得る機会の少なさ」である。

僕は音楽をやっているので、余計にそう感じるのだけれども、単純に好きなアーティストが、すぐにアクセス出来るような距離に来ることはほとんど無いと言っていい。
これは美術館や博物館でも言えることで、興味のある展示や企画が最寄りの文化施設で開催される事は勿論稀である。熊本の中心部に行ってやっとキャッチ出来るものや、セントラル九州である福岡市内まで行くものもある。しかし距離と頻度で考えても限界があると言える。

僕自身、音楽活動をしながら東京に住んでいた時期もあり、上京してきた田舎者としては、様々な文化的体験との物理的な距離の近さと頻度に驚いた。当たり前だが、毎日興味を惹くようなものが身の回りで沢山開催されていた。
図書館の蔵書の数も全然違う。
田舎では探している本が図書館に無い事が当たり前だった。

日々降り注ぐカルチャーの雨を、地方にいながら浴びるのは難しい。
地方にいる中で感じるのはマスメディアで発信される情報の平坦な流れと、画一化された人間像や会話である。その中で暮らす事に慣れる人もいれば苦しむ人もいるだろう。
(実際に僕は幼少から今まで、この辺りに強い不信感を抱いて生きていたから尚更に)

幸いにも、僕らが住む菊池市は素敵な図書館がある。
菊池市中央図書館は2020年、アメリカの業界誌「INTERIOR  DESIGN]で「しばらく居たくなる世界の12の図書館・書店」の一つに選ばれた。

車は必要だが、セントラル菊池まで10分少々走ればこういった場所がある事は田舎でも恵まれていると言えそうだ。

それでも補えない文化的"体験"の部分だが、最近少しずつ博物館や美術館もオンラインで閲覧出来る企画が増えてきた。
デジタルを介して、家にいながら少しでも体感できる(まだ視覚に偏りはするが)ようになってきただけでも素晴らしい時代かもしれない。

コロナの影響で急速にデジタル配信が進んだ事も大きい。音楽イベントは特に対応が早かったが、最近は音質や映像の部分でもどんどん進化してきている。2021年、静岡で開催された「FESTIVAL de FRUE 2021」の様子が年明けの1/2〜1/3で無料配信されたが、どちらの面でも圧巻だった。
これからの1年で、この分野は更に急速な進化を遂げるだろう。

そうなるとその他の文化的イベントも、高品質な配信で体験出来る日はそう遠くはない。
VRは既に触覚の再現に至っている部分もあるし、世界中の様々な風景、まだ見たことのない新しい世界でさえ、立体的な映像や仮想空間上に再現出来るのも時間の問題だろう。
住んでいる地域や家、触れ合う人々でさえ全く変化しないのに、どこでもドアやタイムマシンで冒険を繰り返すドラえもんの世界は既に目と鼻の先なのだ。

それでも東京に人口や経済、文化が集中する都市構造はさほど変わらないとは思うが、子育てにおいては様々な考え方が出来る。
デジタルによって、これからの子ども達はどこにいても同じような文化的体験を得られるかもしれない。
しかしアナログなフィジカルレベルでの体験は、やはり田舎にいる方が機会は多いだろう。
"デジタルとアナログをバランスよく乗りこなす"といった部分はこれからの子育ての面白い部分だと僕は思っている。

田舎で暮らす事によって、土の匂いや清流の冷たさ、虫の命の短さを肌身で感じながらVRで世界の文化に繋がる。

地方と都市部の間のキャズムがほとんど無くなった時、そこに更にアナログのフィジカル体験を付加する事の出来る地方が、子育てにおいてより沢山の事柄に触れる事が出来る場所となるかもしれない。
"デジタルによって、アナログの価値が見直される時代"

この時代を何より、子ども達自身に楽しんで欲しいと心から思う2022年の1月であった。

※それでも実体験に勝るもの無しという部分はあるので、引き続き機を見て色々な物を見に行きたいなとは同時に思う。

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