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【映画レビュー】嘘を愛する女

※この文章は2019年9月27日にアメブロにて書きました。noteに一本化するために記事を転載しています。

映画「嘘を愛する女」をレンタルしました。
2018年公開で、中村和仁監督によるミステリー映画(ジャンルはFilmarksを参考にしました)です。
TCP(TSUTAYA CREATORS' PROGRAM)の2015年のグランプリ作品で、この年の準グランプリ「ルームロンダリング」も映画化され、話題になっていた記憶があります。
TSUTAYA主催でこういった映画の発掘プログラムがあるとは知りませんでした。
 

◆あらすじ

キャリアウーマンの由加利と、研究医として病院に勤める桔平は恋人同士。
桔平の収入が少ないことに不満がありつつも、甲斐甲斐しく家事をこなす彼との同棲生活は既に5年を経過していた。
ある日、桔平がくも膜下出血で意識不明になり、これがきっかけで運転免許証や病院のネームカードが偽造されていたことがわかる。
「彼が何者なのか」を知るため、由加利と私立探偵(海原)は瀬戸内海へ向かう。
 
容姿端麗で仕事で成功している彼女と、面倒見の良い彼氏の姿は、傍から見れば理想そのものですが、それはこの映画が観客に一番初めについた嘘で、由加利の回想から様々な嘘と真実が見えてきます。
全編を通して、海原(吉田鋼太郎さん)とそのアシスタント・木村(DAIGOさん)の存在に救われました。物語を軽すぎず重すぎずのちょうど良い雰囲気にしていたように感じます。
川栄李奈さん演じる心葉は、相手をイラっとさせる表情が絶妙で、出ていない時も思い出してイライラしてしまいました。ゴスロリ姿が可愛いすぎるから余計にイラっとしてしまうのかもしれません。
 

◆由加利について

まず、演じている長澤まさみさんが可愛いです。髪がきれいです。スタイルいいです。
ただ、性格は気が強くて、キツくて、スイッチの入れ方が極端・強引な点もあります。
冒頭では飲みすぎた翌朝の他愛のない会話として感じられたシーンも、無茶な働き方を続けてトゲトゲしくなっている由加利の姿を見るうちに、こういう日々の延長の出来事だったのかと気付かされます。
 
靴についてのエピソードも印象的でした。
桔平と出会ったとき、由加利はヒール高めのパンプスを履いていました。ピンヒールではないですが、通勤にはお勧めできないタイプの靴です。
しかもこの日は東日本大震災で地下鉄が停止しており、長時間の徒歩を余儀なくされた日でもありました。そんな状況下で職場まで歩こうとする由加利と、スニーカーを渡して靴下で雑踏に消えていく桔平。
また、瀬戸内に調査に行くときは素足にパンプスを履いていて、靴擦れを痛がるシーンもありました。
由加利の虚勢や刺々しさ、不器用さ、桔平の柔和さが内包されたシーンだったと思います。

◆人生の嘘

この作品にはたくさんの嘘がありました。そこから、「じゃあ、これは嘘? 真実?」と考えさせられます。
まずは身元不明の男性(桔平)の嘘。
そして、彼に一刻も早く目覚めてほしいと思う気持ちも嘘でした。由加利は、彼が目覚めることで何もかも明らかになることを怖れ、心のどこかで目覚めないでほしいとも思っていました。
 
また、浮気もありました。(由加利の浮気、桔平の浮気、海原の妻の浮気)
私は最近、アドラー心理学について紹介している本『嫌われる勇気』(著者: 岸見一郎、 古賀史健)を読んだのですが、浮気も「人生の嘘」なんだよなぁ…と、思いました。
この本では「人生の嘘」という言葉が何度か出てきます。
「人生の嘘」というのは、様々な口実を設けて「人生のタスク」(仕事のタスク・交友のタスク・愛のタスク)を回避することです。
アドラー心理学では端的に言うと、「すべての悩みは対人関係から」と捉えていて、タスクというのは人間関係に置き換えられます。
また、アドラー心理学では原因論も否定していて、目的を達成するために現在の自分が過去に意味を与えていると考えています。
簡単に言うと、「恋人とうまくいっていなかったし、仕事でも大変で精神的につらくて浮気しました」と言うのは口実で、「他の人と関係を持つ」と言う目的を達成するために、日常生活の不和を持ち出しているのだと考えます。
その日常生活の不和と向き合わないことが「人生の嘘」なんです。
桔平との同棲生活も、彼のことをよく知らない曖昧な状態で始まります。
5年もの間、その後も彼と向き合わない由加利の行為も「人生の嘘」そのものだと感じました。
 
真実は書くと完全にネタバレになって、映画を見る面白さが半減してしまいますので書きません。
嘘はそれ単体では嘘にはなりません。真実を知る誰かがいて、そこから嘘になります。
皆さんも、この映画で明らかになる嘘について、何が真実か考えながら見るとおもしろいと思います。

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