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せっせと

日に焼けた肌。の、小さな少女が読書にいそしんでいる。ばりばりと本を読むさまを見て、『静岡』を半分過ぎたか過ぎないかのあたり。わたしもぱりぱりと本を読み始めた。鞄のなかでは食べきれなかったベーグルが揺れている。傷んだかな。わたしもそれくらいの頃は、読まずには居られなかったよ。いつから変わってしまったかな。口には出さずに思う。焼けた肌と反対色の白いソックス。無垢になりたい、無垢になりたい。とこころのなかで何回か唱えてみた。届かない。そして、もどれない。痛感す。ここはおそろしい場所だ。


墓に「埋められた」ではなく、「植えられた」と言ってしまう。なにが咲くわけでもないのに。田んぼに囲まれた気持ちの良い墓場を車窓から見て、首を傾げた。わたしも死んだらああなれるのか。魂はどこに行くのかしらない。ただ、骨のある場所だけはいつも知っている。


京都の町並みは異質。眠っていて、起きて。ぱっ、と窓の外をみても京都を走っているときだけはよく分かる。ここが肌に馴染むと気持ちが良いだろうな、と思いながら いつも一気に駆け抜ける。


さくらの開花時期ばかりを気にしている。ほんとうはいつだってひとりだ。そう思いたくないだけで。反故にしたくない。すべての繋がりを切って、ひとりで慎ましく暮らしたい。いらないものなんて、言ってしまえば文章に関連しないすべてだ。筆が止まっている。理由はわかっているはずなのに。

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