サウナで"整う"を体験したかったのに、あることが気になって整わなかった話

友達がサウナにハマった。最近流行りの「サウナー」ってやつだ。
休日には、県をまたいでサウナに行くらしい。

サウナってそんなにいいものなのか…
話を聞くうちに、サウナーになりたくなってきた。

サウナと水風呂を行ったり来たりすると、何ターン目かで"整う"という状態に至るらしい。
僕も整いたい！
その一心で、近くのスーパー銭湯へ向かった。

シャワーを浴び、お風呂に入る。露天風呂にも行ってみる。
残業続きで疲れが溜まっていたので、これだけでも十分だったが、今回の目的は「サウナで整う」ことだ。
満を持して、サウナの扉を開けた。

視界にモクモクと白い蒸気が広がって、瞬きを2回ぐらいしたら、目の前に7人のおじさんが座っていた。

その七人の侍は、思い思いのサウナの楽しみ方をしていたが、みんな同じ方向を見ている。

侍達の目線の先には、大きなテレビが1つあった。
太陽光と虫眼鏡で黒い紙を焼く実験みたいに、侍達が集中して野球を見ている。
さながら侍ジャパンのベンチである。

僕は野球に興味が無いので、ベンチ入りは果たせなかった。
なんとなく目線を動かすと、テレビの横には注意書きが何点かある。

注意書き①
「テレビのチャンネルは変えられません」

マジかよ…ベンチにも入れてないのにずっと試合を見なきゃいけないのか。
3年生の試合を見る1年生の気持ちにさせられた。

注意書き②
「原則、チャンネルの変更はできませんが、お客様の総意が確認できた場合のみ、変更を受け付けます。」
お客様の…総意…？

侍ジャパンに見えていたおじさん達は、本当は何が見たいんだ？
アンケートを取らない限り、僕はこのサウナの中で、ベンチに入れない1年生のままだ。

「野球以外のチャンネル見ません？」
この一言をかっ飛ばそうか…少し悩む

注意書き③
「新型コロナウイルス感染予防の為、一切の会話を禁じます。」
な、なに！！？
会話ができない！
チャンネルを変えたい場合、どうすればいいんだろうか。会話をせずに。

過去のルールと現在のルールのせいで、チャンネルが永久に固定されるマジックがかかってしまった。
「テレビ＝野球」の世界で、10分過ごした。

ここのテレビのチャンネルを変えるには…どんな方法を使えばいいんだ…
そんなことをぐるぐる考えていたら、いつの間にか露天風呂の座り湯に浸かっていた。

せっかくサウナに入ったのに、水風呂に入り忘れた。
外の空気を吸って、もう一度サウナに入る。
中にいる面々は変わっていた。

僕が入った直後に、おじさんが1人入ってきた。
そのおじさんがテレビに目をやった瞬間に、しかめっ面でこう言った。
「んだよ、チャンネル変えれねえんかよ、野球は見ねえ！」

「すごい喋っちゃってんじゃん！ひとりで」
僕が心の中でつっこんだ。
ドン引きした様子で、周りのおじさん達はみんな去っていった。

僕とそのおじさんの2人になって、この一室の総意は「野球を見たくない」となった。

周りのおじさん達と同じように、僕も黙ってサウナを出た。
さっきのおじさん、大声出してなんなんだよ…

また水風呂に入り忘れた。
銭湯は最高だったが、今回は"整う"ことはできなかった。

〈後日談〉整うことに成功しました ↓