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追いかけっこ 一人芝居 戯曲

データ↑

あらすじ↓
初恋と不意の事故のお話。

内容↓

「追いかけっこ」 西 みみ

💡ゆっくり明転

部屋中に写真が散らかっている。机の上には写真立て。部屋に体育座りのミミ。

📢自転車のベル

みみはハッとして窓に近寄り外を確認する。

📢窓の空く音

みみは期待したものが得られないことを確認して机に戻り、写真立てを手にする。

「これは、盗撮した写真だ。右斜め上からの君。正面からの写真は一枚もない。横顔や後ろ姿やピンボケの君」

みみは散らばった写真を手に取り一枚一枚、眺める。

「君の顔を正面から見たのは一度だけ。予報外れの土砂降りの日。駅で帰れずにいいた私に、傘を貸してくれた君」

💡サスCI
📢雨音FI

みみは顔を上げて君の顔を見る

「私は恋に落ちた」

💡サスCO

みみは雨が降ってきたことに気がついて窓とカーテンを閉める

📢窓とカーテンを閉める音

「戸惑いながら、意を決した君の顔は忘れない。土砂降りの中,走っていく君の後ろ姿は忘れない」

みみはゆっくりとテーブルのスマホに電話番号を打つ。

「濡れずに家に帰ることができた。恋を知ることができた。その日、君は私に二つの贈り物をしたんだよ」

みみはスマホを耳に当てる。

📢発信音

「次の日から私の荷物は増えた、傘が一本。会えた時に返せるように。三日後、君を見つけた。駅で。けれども、返せなかった。声をかけられなかった。恥ずかしくて。気圧されて」

📢ツーツーツー

「そして、見かける度に君の写真を撮った。悪いことと知りつつ。いけないことと思いつつ」

📢ツーツーツーCO

「それから、駅で君を見かける度に、声をかけようとする。かけられないけれども。意気地なしの私。見かけた日に自己嫌悪に浸るのが癖になった」

みみはスマホを手から滑り落とす

「それからまた数日がたったある日、にわか雨の後にキレイな虹がかかったある日。虹共々、空を眺めていた私の耳に自転車のベルの音が聞こえた」

みみは窓の方を向く

「窓から下を覗くと自転車から降りる君がいた。そのまま、君は向かいのマンションに入っていく。少しして、私が住んでいる部屋の向かい、二階の一室の明かりがついた。カーテンの隙間から、君の影が見えた」

みみは床の写真を束にし始める。

「色々な感情が生まれた。うれしさや、もどかしさや、らくたんや、きはずかしさ、などなど。ただ、一番強く生じたのは、罪悪感だった」

みみは束にし終えて立ち上がる

「これじゃストーカーと同じだ」

みみは写真の束を持って机に座る。

「君はよく自転車のベルを鳴らす、癖のように。その音は私を窓辺に誘う。君を盗み見る。何枚か、写真も撮った。ストーカーそのものだ」

みみは部屋の隅の傘を手に取りマジマジと見つめる。

「数日後、私は決断をした。傘を返しに彼の部屋を訪れよう。ここ数日、ベルの音が聞こえなかった。ここ数日、駅で君を見かけなかった。そのせいでもあった。傘を持ち、部屋を出た。よく晴れた日だった。マンションに入り、君の部屋の前に着いた。呼び鈴を押す」

📢ピンポーン ドアの空く音
💡サス

「あ、初めましてみみと申します。え、いえ彼女とかではなくてですね、雨が降った日に傘を借りまして、それを返しに来ました。はい。え」

みみは傘を落とす。

「君は死んでいた」

💡サスCO

みみは傘を拾い椅子に座る。

「それから、君のお母さんと思われる人が言っていたことは覚えていない。そして、気が付いたら、自分の部屋に到着していた。それから、無意味な日々を数日過ごした。そして、私は引っ越すことに決めた」

みみは椅子の上で体育座りになる。

「不動産会社に行った。君のことを忘れるための引っ越し。フッと魔がさして、君の部屋を探してみた。見つかった」

みみは顔を上げて机の上にある名刺をなでる。

「次に住む場所は、君のいた部屋にした。引っ越した日、部屋の隅々に君の痕を探した」

みみは名刺を手に取り眺める

「シューズボックスの中の君のと思しき名刺を見つけた。君の名前を初めて知った」

みみは名刺を左手で持ったまま机を右手でなでる

「家具の跡も見つけた。窓がよく見えるこの位置にテーブルと椅子があったとようだ」

みみは窓に目をやる

「君もこうやって外を眺めていたのかな。虹だ」

みみは立ち上がり窓に歩み寄ろうとする
みみは机にぶつかる
机は倒れる
みみは散らばった写真をみる

みみはあばれる

「私にだってわかってる、この部屋でいくら待ち続けても君が帰っては来ないことを。わかっている、君の痕跡を部屋に見つけたって君は復元できないことを。わかっているよ、君の電話番号にかけても、君が出ないことを。君の写真を現像したって君が現れることがないことをわかってる、わかってるんだよ、自転車のベルが君の音ではないことを、わかってるんだ」

みみは座り込む
みみは窓から虹を見る

📢自転車のベルの音

みみは窓に近づき窓とカーテンを開ける

📢窓とカーテンの開く音

みみは窓から下を見る
みみは何かを見つけてハッとする
みみの左手から名刺が落ちる

「あっ」

みみは名刺を取ろうと身を乗り出す

💡暗転
📢鈍い音

「君を追いかけて」

END

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