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答えのない問いと向き合う【SDGs表現論DIALOG#8】

 こんにちは。インパクトラボの中西です。

 「SDGs表現論 -プロジェクト・プラグマティズム・ジブンゴト」書籍化にあたり、SDGsに取り組む大学生・高校生と、書籍の内容をもとに「SDGsに取り組む」ことについて対話する企画が「SDGs表現論DIALOG」です。
 著者である山中 司(立命館大学生命科学部教授)と上田 隼也(一般社団法人SDGs Impact Laboratory 代表理事)とゲストの方々との対話をお届けします。

SDGs表現論は、一人一人が「自分ごと」としてSDGsをどう捉えるべきかについて、考える機会を提示するものです。キーワードは哲学としてのプラグマティズムと、方法としてのプロジェクトです。個々の興味、関心、問題意識は、必ずSDGsにつながるという信念のもと、一人一人がマイプロジェクトを立ち上げ、そこにSDGsを乗せ、まず活動してみることを提案します。戦略的にSDGsの視点を入れ、一人一人が社会を変える主役になるべきことを強く訴えます。2019年度立命館大学教養ゼミナールとして開講され、2020年には大規模オンライン講座JMOOCにて開講し、約5000人に受講されました。


 今回は、立命館大学Sustainable Week実行委員会の佐藤彩香さん(立命館大学食マネジメント学部2回生)、関根由夏さん(立命館アジア太平洋大学2回生)、藤枝樹亜さん(立命館大学経営学部1回生)をゲストにお招きしました。学校の授業でSDGsやプロジェクトに取り組んできたSDGsネイティブの皆さんとの対話をお届けします。

はじめに -自己紹介-

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佐藤 食マネジメント学部新2回生になります。Sustainable Week実行委員会の活動や他の団体でも「食と地方創生」に興味を持って様々な活動をしています。

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関根 APU(立命館アジア太平洋大学)新2回生になります。1年前にTwitterなどのSNSでSustainable Week実行委員会の活動に興味を持ち参加しました。現在は放置竹林の問題に興味を持っており、プラスチックの代替品としての活用を考えているところです。

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藤枝 経営学部新1回生になります。NLP(立命館ネクストリーダープログラム)に参加したときに、Sustainable Week実行委員会に入りたいという話をしたら上田さんからお誘いいただきました。立命館宇治高校出身です。

肩書きや組織の価値は変化していく

上田 それでは早速、みなさんからの本を読んだ感想をもとにダイアログを始めていきたいと思います。SDGs表現論のオンライン講座も受けられた関根さんいかがでしょうか?

関根 オンライン講座のよかった所としては、先生の授業を本当に受けている感覚を味わえたことです。大学の授業が始まる前に受けると、大学の授業の雰囲気を知ることができました。今回、本になったということで動画を見ただけでは忘れてしまう部分も手軽に読み返すことができるのがとても良いなと思いました。
 本にあった「肩書きにとらわれず行動する」というところで、Sustainable Weekに所属しているという肩書にとらわれず個人の活動もしっかりしていくことが大事だと改めて感じました。

藤枝 私は普段車椅子に乗って生活をしています。高校生のときに生徒会長になったことで「車椅子に乗っている」という印象から「生徒会長」というイメージに切り替えたれたことは肩書きのよかった所でもあるなと感じています。

山中 Sustainable Weekも今となっては、「SDGsに学生主体で取り組んでいる団体」として大学内でも確立された存在となっていますが、立ち上げ期は、周りの方々に活動を理解してもらうのには苦労したと思います。
 とはいえ、「Sustainable Weekに入れたことが嬉しい」と言ってもらえるようになったのはとても喜ばしいことで、そんな人が作り上げていくSustainable Weekの新たな活動や組織の存在価値を改めて考える必要はありそうですね。

佐藤 SDGsへの関心が高まり挑戦する人が増えていく中で、活動をサポートしてくれる仕組みや体制が整っているところは少ないなと感じています。Sustainable Week が学生のマイプロジェクトをサポートできるような組織になれたらいいなと考えています。

答えのない問いとの向き合い方

藤枝 私が印象に残っているのは、「答えだけで示されている社会」というところです。高校2・3年生のときにSDGsの授業を受けており、PBL(Project Based Learning)でテストのない授業で、自分でプロジェクトの成功度合いや評価基準を決めて先生に成績の交渉をしにいくこともありました。
 この授業のような、SDGsのプロジェクトという「答えのない」ことに取り組む経験があったのでこの部分にとても共感しました。

山中 SDGsに取り組む上で1番大事なことは「ジブンゴト」です。藤枝さんが受ていた授業でもプロジェクトの問いから評価までを自分で決めさせ、責任をもたせるというところが生徒の主体性を引き出し、SDGsを「ジブンゴト」にするという工夫が感じられますね。
 しかし、このやり方で難しいのは「いくらでも手を抜けてしまう」というところです。簡単にできたことを、大変だったと報告すれば評価されてしまうこともあります。

佐藤 私も附属校(立命館守山高校)の出身で、答えのない問題に向き合う機会は多かったです。SDGs表現論のマイプロジェクトとして取り組むという考え方は、取り組む個人のモチベーションが上がりとても良いと思いました。
 SDGsやマイプロジェクトというような「答えのない」問題に取り組むことも大切だと思いますが、私は論理的思考や一般的な教養を身につけるという点で「答えのある」ことについて学ぶのも大切だと感じています。

上田 答えのない問題を解くのが得意な人、答えのある問題を解くのが得意な人はいますね。どっちがいいかを決めるのは時代だと私は考えています。
 今はSDGsが流行っていたり、変化の多い世の中ですので、答えのない問題を解く力が求められているなと感じます。
 今後、SDGsや社会課題解決の指標ももっと明確になれば、いかに早く達成できるかについて正確に早く答えを出す力が求められると思います。

プロジェクトを成績で評価してもよいのか

佐藤 答えのない問題に取り組むようなPBL型の授業の評価について、先生の裁量になってしまうし、正しい評価ができているのか疑問に思っています。どうやって成績をつけているのか、この機会に高校や大学で授業をしているお2人に聞いてみたいです。

山中 経験上、プロジェクトの評価はどの先生が評価をしても妥当なところに落ち着くような傾向があります。
 しかし、プロジェクトの内容を評価するのはとても難しいところで、大人顔負けの経験や発想を持っている高校生がたくさんいる中で、先生だからという立場で評価をつけていいものなのかと考えさせられることはあります。
 学生にとって「この人(先生)になら評価されてもいいな」と思ってもらえるか、厳密にあらゆる観点から数値を出して評価の納得性を上げるかの2択にはなりますね。
 これは、学校だけではなく、企業の社員の成果を評価する時にも問題となってくることです。プロジェクトの成果は、誰が評価するべきなのか、どうやって評価するべきなのか、とても本質的な問題だと思います。

上田 高校で探究の授業を担当しており、成績会議に参加したり自分のつけた成績に対して責任を持つ立場を経験して、生徒の人柄や生活態度、他の科目の成績で探究で取り組んでいるプロジェクトの評価にバイアスがかかってしまうなと感じました。
 そうなってしまうと、評価が単一化されてしまい「探究が得意です」という学生がいつまでたっても生まれないんじゃないかと思いました。
 私は、週1回、探究の授業の時間しか生徒と接することはないので、自然とプロジェクトを評価するしかありませんでしたが、外部講師など学生が取り組んでいるプロジェクトを違う目線から評価してもらう必要があるのではないかと思います。

藤枝 生徒の目線からも、生活態度や他の科目の成績のバイアスがかかってしまうのはとても感じます。先生と生徒という上下関係みたいなものもありますし、評価する先生も感情を持った人なので、完全にバイアスをなくそうとするのは難しいですね。

山中 結局のところ、SDGsやプロジェクトと成績評価ってとても相性が悪いですよね。そもそも、いま学校で探究を教えている先生は探究に取り組んだことがないわけですから、「やったことがない人に何が分かるんだ」と指摘されたら痛いところではありますね。

上田 数学や国語などの教科学習は、どんどんAIなどに置き換わっていくと言われている中で、成績評価も含めて探究や授業の形態がらりと変わりそうな予感がしています。
 例えば、AIによって教科学習の授業時間が圧縮されることで、生徒にとって学校は探究活動をしに行く場所になるかもしれません。そのような時代を見据えて今から生徒にとって探究は楽しいものだと思ってもらえることが1番だと考えています。

人を巻き込むには自分を知るところから

関根 Sustainable Weekの広報をしていたり、友達に自分がしている活動について話したりすると、SDGsや社会課題に興味を持ってもらうことってすごい難しいことだなと感じます。SDGsの認知度が上がってきたといっても興味がない大学生が大半です。多くの人に知ってもらいたいと、自分なりに頑張っていたとしても、周りの人達に興味を持ってもらえず、社会を変えることができずに人生終わるんじゃないかと思うくらい悩んでいます。

上田 私もその問題については学生の時から悩んでいましたし、よく議論されていることですね。何年かSDGsに取り組んできて得られた答えとしては、「自分の存在意義をメタ的に捉える」ということです。数あるSDGsの取り組みの中で、自分の取り組みはこのポジションにいて、世間より2-3年先回りしてチャレンジしているのだと説明できれば自分自信でも何のためにやっているか納得できます。
 僕自身もSDGsの社会への広がりの可能性を感じて、まだSDGsが世間一般的に浸透していないときから活動をはじめ、今となってはSDGsの若手実践家として「先見の眼がある」と評価されるようになってきました。
 SDGsだけではなく、何事においても2-3年先の社会の動きを考えることは、学生のうちに身に着けたおいたほうがいい社会人に必要なスキルだと思います。

佐藤 私は、まだ自己分析をしている最中で、自分で自分のことが全然分かっていないので、上田さんの話を聞いて改めて自分のことを知るって大事だなと思いました。

上田 「自分のことは自分が1番分からない」と気づき、その上で、自分のできること・できないことや提供できる価値について考えることが大事だと思います。
 自分を知るというのは組織運営でも大切なことです。組織運営で1番大切なことは、自分より「すごい」と思う人、自分にはないものを持ってる人をいかに巻き込むかということです。自分にできることをやってもらう人を増やすような組織運営は失敗します。
 自分にはないものをこの人は持っていると割り切り、信頼して物事を頼めるようになることがチームワークを築くということだと考えています。

山中 自分自身も周りからも、自分の立ち位置を理解してもらえるチーム作りって本当に大切なんだなと上田君を見ていて感じます。自分の土俵に立って発言できるってとても大事なことで、そこが食い違ってくると、発言も行動もどんどん空回りしていってしまいますね。

新体制で目指す新しいSustainable Week

上田 Sustainable Weekはこれまで「周辺地域を巻き込んだSDGsエコシステムを創る」という理念のもと様々な活動をしてきましたが、地域や大学内に目を向けているとグローバルな視点が抜け落ちていたなと感じていました。
 そこで、APUに所属している関根さんやベトナムに在住していた経験のある藤枝さんを筆頭に、グローバル化を進めてほしいなと考えています。

佐藤 藤枝さんに聞いてみたいなと思っていたのですが、日本は先進国という立場で、ベトナムなどの発展途上国に支援しなければいけないという考えがあると思うのですが、そのような国から日本が学べることってありますか?

藤枝 たしかに、ベトナムに対して「学ぼう」という姿勢で来る日本人は少く、支援してあげようとか、少し上からに感じてしまうこともありました。
 日本に比べてベトナムの生活には不便なところもありますが、そんな社会だからこそ「人の優しさ」で成り立っている部分は多くあります。人情というか、昔の日本にはあったが、なくなっているような人の温かさもベトナムでは感じられます。
 おそらく、来たことがない人が想像しているよりも東南アジアやアフリカの発展途上国は発展していると思います。

関根 発展途上国はみんな貧しい。というイメージはメディアで取り上げている一部分だけをみて全部がそうだと思ってしまうところから来ていると思います。私もAPUで発展途上国の出身の学生と交流し現地での話を聞いたり写真を見たりして、むしろ日本より進んでるんじゃないかと思うこともよくありました。

佐藤 私が持っていたベトナムや発展途上国のイメージと全然違いました。正しい情報を発信するとか、ちゃんと住んでいる人や行ったことがある人に話を聞くことがとても大切だと思いました。

上田 グローバルな視点で学んだことを私達の生活に落とし込み、Sustainable Weekとしてのコンセプトのもとで新しいことにチャレンジしていきたいなと思っています。佐藤さん、関根さん、藤枝さんの今後の活躍に期待です。

さいごに

 対話を聞きながら、答えのない問いに対して、自分なりに仮説を立てて取り組み発信することが当たり前になってきているなと感じました。
 学校の授業や職場で、何かSDGsに関連したプロジェクトを立てないといけないという状況にある人も増えてきているのではないでしょうか?
 そんな状況を、ただ受け身で過ごすのではなくSDGs表現論のマインドを取り入れることで、人生が豊かになるマイプロジェクトに出会えるきっかけになるのではないかと思います。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。インパクトラボでは、SDGs表現論などSDGsと教育に関する講演やセミナーを実施しております。気になる方は、インパクトラボの公式HPから活動をご覧ください。



 




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