指輪を付けたかった私と5人の消防士
指輪を切断してもいいですか?
消防署長さんの声。
鬱血した薬指を父にさすられながら、
私はその質問に目をつぶって頷いた。
「 電話をしてもいいですか? 」
署長さんの質問に質問で返した私。
急いで東京にいる、主人に電話をした。
「久しぶりに結婚指輪をはめて出かけたら
みるみる指が浮腫んで、
気づいたら抜けなくて血が止まりそう。
大切な2人の指輪、
切断してもいいかな?」
主人は優しい声で、そして迷いのない声で
「 また買いに行こう。もちろんいいよ。」
と答えてくれた。
産後1ヶ月、里帰りしていた実家で
東京に戻る荷造りをしていた。
そろそろ入るかな。明日つけて帰ろうっと。
と2ヶ月ほど外していた結婚指輪を手に取った。
意外とすっぽり入ったことが嬉しくて、
これから3人で始まる新生活にわくわくして、
左手の定位置に指輪をもどした。
その日は昼から
母が行きつけの美容室でヘアトリートメントを予約してくれていた。娘を見とくからと笑顔で送り出してくれた。母からの粋な出産祝いだ。
トリートメントが終わり家へ戻る中
徐々に感じる薬指の違和感。
抜けるよね、と思いつつ、片方の手で握ってずらしてみても、パンパンで動かない指輪。
おかしいな。まさか抜けないなんてな。
洗面所で石鹸を使って滑らせながら抜いてみよう。
家に帰って、手を丁寧に洗うふりをして指輪を外そうとした。
外れない。
恥ずかしかったが、流石に焦り母に相談した。
すると台所からオリーブオイルを持ってきてくれて
試してみようと一緒に引っ張ってくれた。
抜けない。全然抜けない。
指輪 外し方 で検索。
凧糸を巻き付けて取る方法が出てきた。
この時は同じく帰省していた姉と父も近くによって来てくれて、みんなであの手この手で引っ張る。
鬱血している指を見て叫ぶ姉…
これはもうダメだ。
指輪カッターが消防署にあるという情報を得て、父が急いで車を出してくれた。
消防署に着くと事情を理解した消防署の方が2、3人がかりで、洗面器に入れた氷水と凧糸を持ってきてくれた。
幸いにも通報などがなく、落ち着いた時間だったよう。
私に優しい言葉をかけながらソファに座らせ、
大事な指輪だからもう少し頑張ってみましょう。
と言ってくれた。
署長は手先の器用な新人のAさんがいいかも。と声をかけてくれ快くAさんも駆け寄ってくる。
痛かったら言ってください。
無理はしないので、ダメだったら諦めましょうね。
私の気持ちに寄り添いながら、
指の鬱血状態を確認しながら最後のトライをしてくれた。
これでダメだったらこのカッターで
「指輪を切断してもいいですか?」
電話をしてもいいですか?
これが冒頭のやり取りだ。
結果そのトライで、すぽん!っと
指輪は抜けた…
泣き崩れる私と付き添いの父。
良かった。本当によかった。
自分の情けなさと、安心感、、
止まらない涙。
このnoteで伝えたかったのは
指輪が抜けなくなった時のノウハウでも、
産後はまだ浮腫んでいるから指輪をはめるな。
という教訓でもない。(とても大事だが…)
誰1人私のことを責めなかった、
その「優しさ」を忘れたくなかったから。
浅はかで、迷惑ばかりかけた私の愚かさ。
皆に、ごめんなさいしか言えなかった日。
いい年になって大人の前で泣きじゃくる私に
「 本当に良かった。」と目尻を緩めて言ってくれた5人の消防士。
眠たい目をこすり
1日始まるぞと気合を入れる寒い朝。
娘ももうすぐ起きてくるだろう。
指輪を付けるたびになぜか元気が出るのは
あの消防士さんの笑顔と、みんなに支えられた温かいあの1日を思い出すからかもしれない。
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