読まれぬ夜のために
21時、バイトを終えて制服を脱ぎ去り、帰路に就く。さっさと駅に着いたので電車が来るまで構内のレストラン街を眺める。店じまいに入る時間帯ということで照明は落とされ、店先を彩る食品サンプルがくちぐちに陰翳を礼讚している。光線に照らされないのをいいことに本来のプラスチックなつやつやを滲ませて楽しんでいる様子。人間の食欲を喚起する使役動物として生をうけた彼らは、夜間その職務から解かれて戸惑うことはないのだろうか。食品サンプルにおける自由について想い巡らせているうちに時間が経った。降車