#1 束縛太郎


愛されるってこういうことなのか


私が初めて「付き合う」ということを経験をしたのは中学生時代だ。

とは言っても、当時のお付き合いなんて、まともに相手の顔も見れないまま、手も繋がないまま終わってしまったものばかりで、「恋愛らしい恋愛」をしたのは高校生になってからだった。


高校生のとき、3年間付き合っていた彼氏(以下A君)がいた。
A君は、松崎しげるに劣らないくらい真っ黒だった。

A君とはクラスが一緒で、入学して間も無くA君が私に一目惚れしたのがきっかけで付き合うことになった。

彼が言うには、授業中に友達と談笑している私を見て「ビビビ!」っときたらしい。
そんなことって本当にあるのか。というか授業聞けよ、わたし。


A君はとにかく私のことが大好きだった。
自分でも自信をもって言えるくらいなので、今思えば相当だ。

例えば、付き合って初めてのデートの日、なんと私は寝坊して2時間も遅刻してしまった。

でもA君は「待つの好きやし!」と、一切私を咎めず待っててくれたのだ。
遊具しかない公園で、2時間も。
その間何やってたんだろうA君、ジャングルジムとか登ってたのかな。

さらには、A君の家と私の家は自転車で1時間くらいのまぁまぁな距離があったんだけど、遊ぶ約束のある日はA君が私の家まで迎えに来てくれた。

それから自転車の後ろに私を乗せて、また1時間かけてA君の家まで行くというお姫様みたいな待遇を受けていた。

もちろん帰りも、A君は A君の家⇄私の家 を往復しなければならない。

1日でトータル4時間も、A君は自転車を漕ぎ続けていたことになる。

A君の太ももはどんどんたくましくなり、自転車の車輪は悲鳴をあげていた。

平日の学校帰りは毎日家の20メートルくらい前まで送ってくれて、
「家についたらメールしてな!」と言う。
いや、着くもなにも、家すぐそこなんだけど。

また、部活で一緒に帰れないときは、私の自転車のかごにA君からのラブレターが入っていたりする。

メールの文末には、必ずハートマークが最低でも3つ以上つく。
(ハートマーク1つだけのときはちょっと怒っているときだ)

などと紹介しきれないが、こんな感じにA君に尽くされて(?)、
「愛されるって、こういうことなのか」と16歳ながらにして感じたのであった。


ここまですごく幸せそうに見えるかも知れないが、
一つだけ大きな問題があった。

察しのいい方ならもう既にお気付きかも知れない。
というかタイトルで気づくだろう。

そう、彼はソクバッキーだったのだ。


束縛=好きってこと?


付き合い始めてすぐに、「男の連絡先を消して欲しい」と言われた。

当時の私は男友達なんていなかったし、中学時代のクラスメイトのアドレスが残っていたくらいだった。

別に消しても支障はなかったし、「A君が望むのであれば」と思い、言う通りに消した。

しかし困ったことに、それだけじゃあなかった。

男子とは一切喋らないよう要求されたのだ。

うちのクラスは男子の割合が少なかったので、この要求は容易にクリアできるかと思われた。

が、一度だけ破ってしまったことがあった。


私が休み時間に「ピューっと吹く!ジャガー」を読みながら肩をプルプル震わせていたときのこと。
A君の親友の、W君(ルフィに似ている)が話しかけて来た。

W君「あー!ジャガーさんおもろいよな!貸してー!」

私「うん、いいよー」

このやりとりを見ていたA君が、それはもう大激怒の不機嫌ぷんぷん丸になってしまったのだ。

「 う ん 、 い い よ 」

これが私が高校3年間でクラスの男子と交わした唯一の会話だ。

たったこれだけで、不機嫌ぷんぷん丸なのだ。

その日の帰り、A君は私にこう言った。
「W君に漫画を貸すときは、俺に言って。俺を介して貸して。」

16歳ながらにして、これはちょっと相当面倒臭いな、と思った。

でも好きだったし、別れを選択するまでには至らなかった。

何より、「好かれている」という自信に繋がっていたので、どこか心地よく感じていたのかも知れない。

そうやってA君に価値観を合わせていくうちに、私もA君に対して束縛もするし嫉妬もするようになった。

それが恋人の間では当たり前なんだと思っていた。

それが「好き」っていうことなんだと思っていた。

A君とは四六時中一緒にいるようになり、学校のネット掲示板みたいなので「バカップル」と揶揄されるくらい、悪い意味で有名なカップルになっていた。

気づけば私はA君中心の生活になっていて、友達と呼べる人がいなくなっていた。


束縛の反動


A君としか話さない日々が続き、気づけば高校三年生の冬だった。

大学受験が終わり暇になった私は、卒業までの3ヶ月間、アルバイトを始めることにした。

バイト先には、男女問わずバイト仲間がいる。
もちろん、A君の目は届かない。

「男子と喋ってはいけない」というミッションを考えなくてもいい環境はとても楽だったし、久しぶりに男子と話すのは新鮮だった。

「外の世界ってこんなに楽しかったんだ!」という感じだった。

「楽しい」だけで済んでいればよかったのだが、男友達という存在を許されていない当時の私は、「いけないことをしている」感じがあって、背徳感を覚えてしまっていた。
ただ喋っているだけなのに。

その背徳感のドキドキが恋愛感情のドキドキだと錯覚してしまった私は、今なら絶対に好きにならないであろうタイプの、チャラめの先輩に好意を抱いてしまっていた。


ぜんぶA君のせいだ


卒業式の日。

卒業アルバムの裏にみんなで寄せ書きする恒例行事。

友達がいなかった私は、誰に書いてもらえばいいのか分からなかった。

なんだかとても虚しかった。

どうして私には友達がいなくなったんだろう。ぜんぶA君のせいだ。

そんな風に考えてしまっていた。

その日、クラス全員で予定していた卒業パーティーにも行かなかった。

なんかもう、卒業と同時に全てをリセットしたくなった。

そして数日後、私はA君に別れを告げた。

理由は以下2点だった。
・A君のせいで友達がいなくなった
・他の人を好きになってしまった罪悪感

何より、「大学行ったらA君よりもっといい人見つかるだろう」と思っていた。

でも、その考えが甘かった。

当時の私は、この先数年間、A君を引きずることになるなんて思ってもいなかったんだ。


当時の私に気づいて欲しいこと

・「束縛される=愛されている」ではない。
 束縛はただの独占欲。
 本当に愛しているなら相手を信用して自由にさせてあげるはず。
 自分は信用されていなかっただけだと気づけ!

・彼氏が大切なのはわかるけど、友達も大切にしよう。

 友達はほんとうに大事だよ。
 これから先、あなたは何度も友達に救われることになるよ。
 あと友達いなくなったのをA君のせいにするな、自分も悪いだろ!

・異性の友達はいたほうがいい。
 異性と喋るだけで背徳感を感じるのは重症。
 異性を特別な目で見るのをやめよう。男女の友情は成立するよ。


束縛太郎編   終わり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?