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論文紹介:mRNAワクチン接種後の自己抗体の発現および疾患再燃との関連性~1年間の前向きフォローアップ研究の結果~

核酸ワクチンはその分子生物学的・免疫学的機序の特殊性から明確に既存のワクチンとは異なる自己免疫反応促進リスクを有している。また、実際のそれらのリスクを評価した研究も次第に出てきている。私は以前、自己免疫疾患に与える影響というのは、非常に評価しにくいという事を述べた。自己免疫疾患自体が非常に低頻度であり、発症率0.1%の疾患が2倍になったとしても、治験などでは拾われないからだ。また、統計的にも特定疾患の新規発症者数などは纏まるのに数年を要する。したがって、数年後に後ろ向きのコホート研究を行わない限り、明確なリスク評価が出来ないのだ。それを「現時点で認められていない」というだけで、上記の「科学的機序から想定されるリスク」を無視する事こそが何よりも愚かな非科学的姿勢なのだ。

今日は、最近出ていた自己抗体産生と自己免疫疾患患者における再燃の関連性を1年間の前向き研究で調べた論文を紹介しよう。まず言っておきたいが、そもそもこの様な研究が行われた事自体、「まともな免疫学者」はそもそも核酸ワクチンにおける免疫疾患リスクを「あるものとして捉えている」という事だ。

件の論文は「Development of Autoantibodies Following BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccination and Their Association with Disease Flares in Adult Patients with Autoimmune Inflammatory Rheumatic Diseases (AIIRD) and the General Population: Results of 1-Year Prospective Follow-Up Study」(Vaccines (Basel).2023 Feb 17;11(2):476.)である。この論文では、自己免疫性炎症性リウマチ疾患(AIIRD)成人患者および一般集団におけるファイザー社製 mRNAワクチン接種後の自己抗体の発現および疾患再燃との関連を1年間の前向き追跡調査によって調べている。具体的にはAIIRDの成人患者463人の血清における自己抗体(抗核、抗リン脂質、リウマトイド因子)の出現率を、ワクチンの2回目と3回目の接種前、接種後、および1年間の追跡調査時に、一般集団のコントロール55人と比較して調べるという前向き試験である。

まず第一に、この核酸ワクチン投与後には自己抗体産生が上昇する。これはAIIRD患者でも健常人でも生じており、逆に言えば患者群と健常人で差は無い(ワクチン2回接種後4.0%(対6.7%、p = 0.423)、3回接種後7.6%(対0%、p = 0.152)。また、2回目のワクチン投与後よりも3回目のワクチン投与後に自己抗体を発現した患者が多かった(p = 0.004)という事で、投与を繰り返す事のリスクの蓄積は明確である。さらに、AIIRD患者の5.8%と7.2%で、2回目と3回目のワクチン接種後に疾患のフレアが発生し、自己抗体の産生が2回目(p = 0.002)および3回目のワクチン接種後のフレアのリスクを増加させた(p = 0.004)ことが示されている。

以前に、医療関係者における自己抗体の産生についての調査を紹介した事があると思うが(「The Risk of Autoimmunity Development following mRNA COVID-19 Vaccination」(Viruses 2022, 14(12), 2655))、中長期的に自己抗体の産生を増強する可能性は非常に高いと言わざるを得ない。それが現時点で自己免疫疾患の発症につながっていないとしても、その繰り返しは明確に長期的な自己免疫疾患発症リスクの増大である。

また、今回の調査では、過去に報告されていた自己免疫疾患再燃の症例報告に関して、核酸ワクチン投与による自己抗体の産生増強がそのリスクとなるという科学的な裏付けを与えたと言える。今回の調査では健常人において自己抗体が産生されたとしても自己免疫疾患の新規発症は認められていないが、それも調査対象の人数を考えると不思議ではない。問題なのは、その様な現象が、繰り返し投与の中で明確な発症リスクとして蓄積していく事であろう。核酸ワクチンにおける免疫疾患リスク増大という重大な問題は継続して調査研究が行われなければならない。

総合的に考察すると、第一に現状の核酸ワクチンは全ての人間に対して「5~10%の割合で自己抗体産生を導く」ということが言えるだろう。これは核酸認識シグナルの活性化や、MHC-I依存的な自己細胞への攻撃、核酸分子そのものとしての抗原性など想定される機序は複数ある。その中で、以前に紹介した個人差のあるリスク要素(核酸受容体の発現、核酸分子のクリアランス能など)に応じて、一定割合でこの様な免疫学的リスクがあると考える。但し、自己抗体の産生はそのまま自己免疫疾患の発症につながる訳ではない。これはあくまで、「一要素」だからだ。自己免疫疾患の発症については完全に解明されていない。一般的には「遺伝的要因」と「後天的要因・環境要因」の組み合わせで発症リスクが規定される。つまり、遺伝的要因がある人間にとっては、核酸ワクチンなどリスク蓄積以外の何物でもないのだ。実際に、健常人では自己抗体が産生されても多くの場合自己免疫疾患の発症につながらないのは、発症に至る要因の蓄積がまだ足りていないというだけだろう。遺伝的要因など潜在的リスクがあれば長期的に発症しやすくなっていても何ら不思議は無いし、繰り返しの投与はさらにそのリスクを増大させるだろう。また、既に自己免疫疾患を呈している場合は自己抗体産生増強が再燃のリスクと相関する事が今回証明された。この事実は上記の理論を明確に補強するものであろう。

私は断言する:「核酸ワクチン投与は自己免疫疾患発症の大きな後天的要因となり得る」

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