あのラーメン屋さんみたいな存在になりたい

事務所の近くに、春頃までとあるラーメン屋があった。

深夜23時ごろからオープンするのに、けっこうすぐに常連客でいっぱいになる。メニューは手頃な値段のラーメンと、ごはんがこんもり盛られる中華定食が何種類か。ちょっとした深夜食堂みたいな場所だった。

看板はない。ある日の深夜、何の変哲もないボロめの小さな建物の前に、行列ができていた。不思議に思ってマップで調べてみたら、ラーメン屋だったというわけだ(なぜか看板は店内に…)。

ご夫婦なのか、関係性はわからないけどたった二人で切り盛りしている店だった。いつもあまりにも忙しそうなので、おかみさんと会話をしたことはなかったけど、水がなくなるといつも良いタイミングで注ぎにきてくれた。

僕はそこに、ちょこちょこ通っていた。仕事が深夜まで終わらなくてどうしようもない時とか、小腹が空いた時なんかに。

一番落ち込んでいた時もふらっと立ち寄った。

ラーメンが来るのを待っている間に、ふと目に入ってきたのはカウンター席で嬉しそうにラーメンを食べる知らないおじさんの笑顔だった。その光景に、あの時少しだけ救われた気分になった。あの感じはたぶんずっと忘れない。

ちょこちょこ通う間に、「ありがとうございました」が「いつもありがとうございます」に変わったのが嬉しかったのも、忘れない。

会話はしたことがなかった。お互いの素性も良く知らない。

ただ料理がおいしかったことと、たくさんの人があの店を好きだったのだけはわかる。

たぶん僕も少し拠り所にしていたと思う。どうしようもなく落ち込んでいたあの時に、立ち寄る場所があってよかった。

そんな存在感ていいな。

自分が、というより自分の描く漫画が、そんな存在になっていってほしい。作品を描きたいという気持ちは、「誰かの行き場をつくりたい」という気持ちに、少し似ているかもしれない。


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