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嫉妬のその先へ

漫画家なのに、漫画を読むのがけっこう苦手だった。

苦手というか、なぜだかあまり頭に入ってこない・どこか楽しみきれない状況が、かなり長く続いていたのだ。

それがなぜだったのか、最近ようやくわかった気がする。

すごくしょうもない話。
しょうもないけど、誰にでもあるあの感情の話。


漫画に近づききれない現象

僕が本気で漫画を描きたいと思ったのは、20歳くらいのとき。実際に描き始めたのが20代半ばくらい。

漫画をたくさん読んで勉強したいと思っていたけど、想定していた量よりも全然読むことができなかった。

子供の頃から姉の方がよっぽど漫画を読んでいて、実家にあった数々の手塚治虫作品やあしたのジョー、こち亀、名探偵コナン、etc…それらをしっかり読破していたのは姉の方だった。

僕は絵が好きじゃないと漫画が読めないタイプ(今はそうでもない)で、おまけに字が多い漫画は未だに苦手だ。

”漫画読み”としての素質は姉の方が全然ある。
でも、今日話したいのはそこじゃない。


「これ読みたい」「これが面白いらしい」と自分でちょこちょこ買ってきた漫画の単行本を、僕はなかなか読めないことも多々あった。読んでも、「ここを吸収しよう!」という気が起こらなかったり、斜に構えて読んでしまう時もあった。

なぜだか漫画を遠ざけてしまう。そもそも直視できてないような…

え、この感じ何…???

本当は好きじゃないってこと?
描きたくないってこと?いや、そんなはずがない。めちゃくちゃ描きたいものが確かにあるのに。

でもまるで漫画と自分の間に見えない壁があるみたいで、その正体が僕はよくわからなかった。

そしてその壁は、かなり最近まで僕の前に立ち塞がっていた。


見えない壁の正体

SNSを見ていると、避けては通れない感情がある。

嫉妬や焦燥感。

僕は漫画家とイラストレーターをやっているので、同業者や友人知人がバズっているのをよく見かける。とくにコルクラボマンガ専科がはじまってから、嫉妬の回数は正直かなり増えてしまった(書きたくないけど書いちゃうw)。

僕の漫画はSNSに載せても今のところバズったりはしない。漫画を読ませる力が足りてないってことでもある。

でも本当にここ最近、嫌でも嫉妬という感情に向き合う中で、だんだん考え方が変化してきた。

嫉妬を感じた時、何に対して感じたのかを見つめること。
その対象に参考にできるところがあるのなら、それを数十秒でもいいから分析して、吸収してみること。(←ただし精神状態が悪い時とかは、無理にやらなくていいし、SNSも見なくていい)

そんなふうにゆっくり見つめてみると、別に嫉妬する必要のない対象に嫉妬してる時があると気づいたりもする。評価されている作品には必ずいいところがあって、理由なく評価されるものなんてないこともよく分かる。嫉妬から、ほのかな敬意に変わることもある。

こんなふうに嫉妬にちゃんと対峙したのははじめてかもしれない。

心のブロックが外れてきたのは、たぶん最近良い作品に出会えたことが大きい。


ブレイクスルーの兆し

マンガ専科がはじまってから、「とにかく色んな漫画の第1話を読め!それが漫画を読む力、描く力を一番鍛えられる」と教えられた(ざっくり要約)。

漫画を読み解く力と、描く力は繋がっているらしい。なるほど。

それからEvernoteにリストを作って、色んな漫画の第1話の構成やら感想やらをメモしていく…というのをやっている。

最初のうちはけっこう淡々と読み歩いていたのだけど、4月に入ってようやく心を掴まれるような作品や、圧倒される面白さの作品と出会えた。

その中で一番突き刺さったのがこちら。
「ゆびさきと恋々」

まさかの少女漫画…!自分でも意外。

僕はストライクゾーンが狭いのかなんなのか、作品や人に対して、惚れ込むほど好きになることが本当に滅多にない。

この感じ、超久々だなぁ…なんか、嬉しいな。研究対象として〜とかを差し置いて、純粋に読者として喜んでいる自分にも久々に出会えた。

そうかこのくらい、心を掴まないとダメなんだ。

これを体感できたことがすごく大きくて、グッと意欲が増した。淡々とやっていた1話読み歩きもだんだん楽しくなって、「吸収したいもの」を反射的にさがすように変わってきた。


最初の話に戻るが、僕が漫画(とくに商業漫画)を直視しきれなかったり、あんまり頭に入ってこなかったのって…きっと無自覚の嫉妬心を抱いていたからだ。それはきっと自分も漫画を描きたいと本気で思い始めたこと(20歳ぐらいの時)がきっかけだったのだと思う。

「すでに自分の叶えたい夢を叶えている人々」に、きっと嫉妬していたのだ。そういえば自分がデビューする前、本屋の漫画コーナーに行くのが嫌だった時期もあった。あれも嫉妬だったわけだ。

その気持ちが壁となって、僕を漫画に近づかせなかった。

そしてその壁の成分には、もうひとつ。「漫画を描く覚悟の出来てなさ」が入っている。

とてもしょうもない話だ。しょうもないけど、壁がどんな成分で出来ているのかわかってきたのは、これまた大きい収穫だ。

嫉妬をひっくり返そう。ひっくり返して、敬意に変えてみよう。その対象にはきっと、自分が学ぶべきものがある。もちろんすべての対象に対してそう思えるほど、人間できてない。だけどそんな考えが芽生えて、すっと胸が軽くなった。

今日の話はめちゃくちゃ言語化が難しくて、そもそも読まれたくなさが凄いのだけど、でも区切りを付けたくて、あえて書き残してみた。

漫画を読むこと、いま一番楽しめてる気がする。描くことも、もっと楽しめるようになりたい。

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