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「最近どう?」から始まる哲学的迷走

例えば、久々に話す友人と通話する場面を思い浮かべてほしい。十中八九、いや99%ぐらいの確率で、最初にするのは、こんな会話だろう。

「久しぶりー! 最近どう?」

もしあなたがそう尋ねられた場合、例えば「この間のライブ行ったんだけど、ほんと最高で!」「いや聞いてよ、最近めっちゃダルいことあってさ」のような返事をするかもしれない。あるいは「まあ、ぼちぼちかな〜。そっちは?」という風に会話を繋いでいくだろう。
 しかしこの「最近どう?」というやつが、自分にとってはかなり厄介な質問なのである。会話の初手から、いつも出鼻をくじかれている。

そもそも「最近どう?」という文章は、二つの要素から成り立っている。

  • 最近

  • どう?

考えてみると、これらはどちらも非常に曖昧な概念である。まず「最近」というのは一体、どこからどこまでのことを指しているのか。十年会っていない人との会話であれば、相手と別れてから今までという膨大な時間のことを指すのだろうか。人生に大きな変化が訪れるのに十分すぎる時間を「最近」なんて二言で済ませてしまって本当にいいのだろうか? そんな風に、相手によって「最近」の幅が変動するのであれば、この質問を受けるたびに「相手と前に会ったのはいつ頃で、それからどんなことがあったのか」を考えなければならない。そうなるとますます簡潔に答えるのは難しくなってくるはずだ。
 そしてさらに厄介なのが「どう?」である。どうって、なんやねん。自分の身に起こった出来事が知りたいのか、あるいは体調のことを知りたいのか。それにどちらにせよ、日頃「最近〇〇だな〜」みたいに近況を自分で噛み締めていないと、最近の事柄を端的に表現するのはなかなか難しい。人とあまり会わない、というか近況を聞かれ慣れていない人間に、この質問はなかなか荷が重い。

先日も、日頃こまめにLINEを送り合っている友人と会話した際に、「最近どう
?」と聞かれてしまった。

あ〜、最近……? まぁ、うーん、それなりに、うん。まあまあ。

必死に何かしらコメントを考えようとするも、最後の方はどんどん小声になっていき、結局相手が気を遣って「ぼちぼちって感じ?」と繋げてくれた。
話し慣れた友人だからまだ大丈夫なものの、初対面の人からすればだいぶ「話しにくい人」になってしまうだろう。


自分が「最近どう?」を苦手なのは、そんな風に色々考えてしまうこと(質問を会話の潤滑剤的に受け流せない)もあるけれど、何よりまず「最近、自分はどうなのか?」が自分自身よく分かっていないからでもある。
 だから、ある程度信頼関係が築けている人との間では、こんな会話をしてしまうこともある。

「最近どう?」

「うーん、最近……逆に、どう見えますか?」

逆にってなんやねん。質問を質問で返すなと怒られそうだが、実際このパターンを何度かやってしまっている。それほどまでに自分のことわっかんねぇなあと思っているのだ。
そして相手から「楽しそうじゃない?」と言われると、最近確かに楽しんでるのかもなーと思い、「しんどそうに見えるね」と言われると、あー、やっぱしんどいのかもなあと思う。自己評価をめっちゃ他人に依存している。

だから、「そんなん自分で決めたらいいんじゃないの?」と言われるたびに目から鱗がボロボロ落ちてしまう。そうか、自分で決めたらいいのか! この人は天才か! 間違いなく信頼できる。よし、この人なら今自分がどんな感じかを言い当ててくれるに違いない(何も理解していないムーブ)

とまあ冗談はさておき(あながち冗談でもないのだが)、いい加減そろそろ自分のご機嫌ぐらいは自分で決められるようになっていきたい。いつも誰かが自分のことを見ていてくれるわけじゃないし、あるいはずっと「しんどそうだね」と言われ続けていたら、本当にずっとしんどいままになってしまう。そうなると、「自分はしんどい状態であり続けていないと、周りから受け入れてもらえないのではないか」みたいな思い込みが加速して、自己嫌悪沼に沈んでいってしまう。

ということで、今日はまあ、悪くはない一日でしたということで。


追記1

色々書いたけれど多分明日には忘れているので、これを読んだ人は「最近どう?」って聞かないでください。せめて「今週はどう?」か「最近眠れてる?」ぐらいの具体性でお願いします。


追記2

タイトルを適当に「哲学的」とか書いたくせに全然哲学にもなっていないので、たぶんヴィトゲンシュタインとかがこういう分野の何かしらを考えた人だということを読んだ気がします、というレベルの雑な補足を。

昔々、あるところに読書ばかりしている若者がおりました。彼は自分の居場所の無さを嘆き、毎日のように家を出ては図書館に向かいます。そうして1日1日をやり過ごしているのです。 ある日、彼が座って読書している向かいに、一人の老人がやってきました。老人は彼の手にした本をチラッと見て、そのま