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性格とは何か? 自分探しからの脱却

自分のことが好きですか?

日本人は「自分に自信がない」とか「自尊心が低い」などと言われています。事実、児童期から青年期を対象に「自分のことが好きですか?」という質問をした国際的調査の結果は、欧米諸国に比べて「好き」という回答をする割合が少ないということが報告されています。また、年齢が高いほど、その傾向が顕著になることも明らかとなっています(余談ですが、これらの結果は、教育問題として捉えられていることもあり、教員採用試験によく出題されるデータでもあります)。

私は、新入生に心理学を教える「心理学概論」という授業を長年担当してきました。新入生のなかには「自分の性格を変えたい」とか「自分探しをしたい」ということを心理学に求めている人がたくさんいるように思います。

この記事では、「性格」の捉え方をはじめとして、長所や短所について考えていきたいと思います。

自分の嫌いなところ・好きなところを言ってみましょう!

「自分の好きなところ」や「自分の嫌いなところ」をいくつ言えますか?大学生に書き出してもらうとある特徴がみられます。それは、好きなところよりも嫌いなところを多く書き出すという特徴です。この特徴は、社会人でも同様の結果になることがほとんどです。しかし、私が驚いているのは、好きなところを3つ以上書き出すことが難しいと感じている人たちが毎年たくさんいることです。でも、心配することはありません。自分の嫌いなところは場合によっては「長所」になってなるからです!

私の講義では、1列ごとに「自分の好きなところ(自分の嫌いなところ)を順番に、私が「はい」といったら言ってください」とお願いして、黒板に書き出していきます。私が「はい」と言ってから、答えるまでの時間を測定して、「好きなところ」と「嫌いなことろ」のそれぞれの平均タイムを求めると面白いことがわかります(下のスライドは、黒板に書き出した内容の概要だと思ってください)。

スライド1

「好きなところ」と「嫌いなこころ」の平均タイムは、嫌いなところの方が即答しているという結果にほぼ毎回なります(どちらを先に聞くかという影響性を考慮しても同様の結果が得られます)。

この結果は日本人ならではの特徴が関わっているようです。

1つは、普段からネガティブな自分について意識をしている(ポジティブな自分についてはそれほど意識していない)ということです。普段から自分のダメなところを意識していれば、回答はしやすくなると思います。反対に、あまり意識できていないポジティブな面は回答が難しくなってしっまうことが考えられます。

もう1つは、人前で「自分の好きなところ(または長所)」を言うことが一般的に認められていないコミュニケーションの1つになってしまっているということです。反対に、自分のことを悪く言ったりすることは謙遜として礼儀の一つとされていることもあります。このような文化的影響を強く受けている人は、自分の良さをわかっていても、人の前でそれを言うことはためらってしまうかもしれません。

良いところを悪く言ってみる・悪いところを良く言ってみる

長所と短所は裏と表の関係だと言われることがよくあります。それは、どういうことを意味しているのでしょうか?

友人が自分のことを「私は優柔不断で・・」と言えば、あなたはきっと「慎重なんだよ」と言い換えると思います。反対に、喧嘩している友人が「私は明るいのがいいところ」と言えば、「自分勝手に話しているだけでしょ」と思ってしまうかもしれません。このように、同じ人の同じ行動であっても、人は違った評価をしますし、自分自身が思っていることとは違った評価をしていることが多々あります。

下の表は、先ほどの「自分の好きなところ」と「自分の嫌いなところ」をそれぞれ言い換えたものです。

この表からもわかる様に、人によっては、または、場合(状況)によっては、その人の長所や短所は逆転してしまうこともあります。このことから、私たちが「性格」と呼んでいるものは「ある状況での安定的な行動」と言うことができます。つまり、状況や環境にマッチングしている安定的な行動が自覚されれば、それは自分の長所として捉えられるでしょう。しかし、自己評価というものは万能ではないので、長所も短所も真実というわけではないかもしれません。

スライド2

「自分探し」より「自分作り」を心がけましょう!

過去の自分を振り返ったり、本当の自分を見つけ出そうとすることは、実際には幻想の中で何かを探しているにすぎません。もっと簡単にいうと、過去の自分を評価している自分は現在の自分なので、現在の自分の心理状態や環境によって評価してしまいます。つまり、過去は現在が決めています。さらに、認知行動療法には「過去と他人は変えられない」という標語があるように、過去の事実としての行いは変えられないのに、そのことについて考え続けるのは意味がないのかもしれません。

私は、あるかないかわからない「自分」を探すよりも、これからはこういう自分でありたいという想いを抱きながら自分を作り上げていくことが大切だと思っています。

自分の長所は、誰かにこう言われたから長所だと思う・・というのではなく、自分自身で「これが自分の長所だ!」と自信をもって言いきれるように頑張っていくことが大切だと思います。誰かに何を言われても、自分自身で自分を作り上げられる強い気持ちをどのように持つことができるのか?マインドセットやマインドフルネスの観点から今後も考えていきならが、noteやYouTubeでご紹介できればと思います。

本日のポイント

自分を探したところで、それはその時・その状況での自分であり、それが本当の自分かどうかはわかりません。
過去の自分にとらわれるよりも、こういう自分でありたいという想いで、自分自身を作り上げていくことが大切です。

今井先生は自分探しをしたことがありますか?と良く聞かれることがあります。答えはYESです。高校を卒業してからは、半年働いた後は旅をしたり、好きなことをするという生活を5年間もしました。親に内緒でインドに行って、ブラブラしながら自分を探しましたが・・・見つかりませんでした。いまだに自分とは何者なのか分かりませんが、何者にもなれるように思っています。心理学(認知行動療法)に出会って、私は生きやすくなりました。みなさんにも心理学を使うという視点で、この note に親しんでいただけましたら嬉しく思います。

心理学の知識を楽しくご紹介できるように、コツコツと記事を積み上げられるように継続的にしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。