No.12|育児・教育|視線の心理学#2:ヒトはどうして人の目を見るのか?
相手の目を見ることの進化的な理由とは?
「目は口程にものを言う」という諺や、目に関する慣用句は世界中に多くあることから、ヒトは目が何らかのメッセージを読みたったり、目で主張することが多い生き物だと思います。今回のテーマは、ヒトはどうして他人の目を見るのかということについて、進化論的な話題もふまえながら紹介したいと思います。
「目」は顔のパーツの中でもかなり特殊なパーツかもしれません。というのも、「眼球」は臓器の1つなのですが、剥き出しになっている臓器は眼球しかありません。そして、さらに特殊なのは人の瞳です。他の動物と異なっている特徴がありますが、下の写真からその違いを見つけてみてください。
人の瞳は黒目(角膜)と白目(強膜)の境界がはっきりしています。チンパンジーの写真をみると白目の部分が見当たりません。身近な動物(犬など)の瞳を見ても、まぶたを大きく開かないと白目は少ししか見えません。
何故、ヒトは黒目(角膜)と白目(強膜)の境界がはっきりしているのでしょう? 進化論的な観点からは「共感」が関与していると言われています。自然界で生きている動物たちは、常に戦いの中で生きています。その際に、自分の意図がバレてしまうのは命の危険に関わります。たとえば、インパラとライオンが対面している状況を想像してください。
お互いの動物が、黒目(角膜)と白目(強膜)の境界がはっきりしている時には厄介なことが生じます。
ライオン:「インパラさん・・右に逃げようとしているな」
インパラ:「ライオンさん・・左の方を見ているからやばいな・・」
実際の自然界ではこのような対峙する場面や時間的な余裕はないかもしれないですが、角膜と強膜の境界がはっきりしていると、こんなことになります。つまり、自然界の動物たちは、自分の気持ちを読まれない方が生存に適していると言うわけです。逆に考えると、ヒトは「相手の意図を知りたい・伝えたい」ということが必要な動物として進化したと考えられており、今のような瞳に進化したと考えられています。
ヒトの目の威力は強大?!
ヒトの瞳の威力は強力だということが様々な実験でわかっています。先ほどのチンパンジーと2歳児の写真をモニターに映し出して、子どもたち(4〜6歳)が顔のどのパーツを長く見ているのかということを視線追尾装置を用いて測定してみました。
上のスライドは、長くみた所ほど色が赤くなるようにコンピュータ処理をした画像イメージです。共通点は「目」をみている時間が長いことです。また、チンパンジーよりも子ども画像の目を長くみていることがわかります。この結果は、2歳児の私の子の写真が可愛いから長く見ていたのでは?という親バカな仮説も立てられなくはないですが、残念ながら、同じような結果が得られています。つまり、人の目(特に同年代の子どもの目)をより長く見るという結果が得られています。ヒトは生物的に自然に目を見てしまうという習性があることがわかります。
人の目の威力が皆さんにももっと実感してもらえる不思議な実験について、ご紹介したいと思います。
下の写真から目の合う顔写真を素早く1枚見つけてみてください。
どうでしたか?数秒もかからないうちに見つけられたと人が多かったのではないでしょうか(正解は左から三列目・上から2行目が交差する顔写真です)。この実験の何が不思議かというと、顔のイラストだと見つけるまでに時間がかかってしまうということです。
この実際の顔写真の「目」の効果を利用した面白い応用としては、研究室のコーヒー代金を払うために、集金缶に顔写真を貼ったという事例があります。コーヒーを飲んだら100円を集金缶に入れるというルールがなかなか実行されない状況をみて、缶やコーヒーメーカーの近くに「100円を入れよう!」という顔写真を貼ったら集金率が劇的にアップしたという報告があります。「人の目が気になる」とはよく言ったものですが、物理的に「目」を提示することは強力な威力を発揮しそうですね。
今日のポイント
ヒトは相手の瞳に自然に注目してしまう傾向があります。それは進化の過程で、目から相手の意図を読み取ろうとしたり、目で訴える必要性が他の動物よりもあったと考えられています。
ヒトは目をみてしまう習性(目を見せる習性)をもっていることはわかりますが、私たちは言語をはじめとした多様なコミュニケーション方法を獲得していますので、目を合わせることだけが全てではないと個人的には思っています。
実は目を合わせるのが苦手な人たちの中にも、視線追尾装置を使うと目を合わせていたり、逆に、「目があっていた」と言っていても実さには目をみていなかったりと、さまざまなタイプがあります。そして、それぞれに理由があります。このシリーズでは、視線の心理学について紹介しながら、視線とは私たちにとって何なのかということを考えていきたいと思っています。そして、視線に関する様々な誤解を解ければと思っています。さらに、最終的には、物理的な視線という観点から、精神的な「視点」という観点との接点について議論を展開していきたいと思います。
心理学の知識を楽しくご紹介できるように、コツコツと記事を積み上げられるように継続的にしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。