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「わからないことがわからないこと」にならないために実践していること


 心の悩みを相談に来る患者に、指示的な態度をとらず、患者自身に自ら悩みを自由に話させていくうちに、患者自身が自らの問題点と解決策を発見する
 臨床心理学者 カール・ロジャーズ

「わからないことがあれば、なんでも聞いてね」と声をかけたとき、若手が上司に、質問を返してくれることはありますか?

 若手が質問をしてくれないのは、「わからないことがわからない」のです。

「わからないことがあれば、なんでも聞いてね」は一見、優しそうですが、寄り添う気持ちのない、冷たい言葉を投げかけているだけではないでしょうか。

現場所長はすきま産業である

 立場が変われば悩みも変わます。上司と部下。先輩と後輩。それぞれの立場で仕事内容が違えば、考えていることも違います。所長はトータルにマネージメントをする立場であって、ふんぞり返る立場ではありません。
 俯瞰的に全体を眺め、全ての人が働きやすい状況を、目指さなくてはならないのです。

立場の溝を埋めるには、その子の仕事を一緒にやればいい。

 例えば、新人は右も左もわからない状況で、上司からも職人からもいろいろ言われ、その間に挟まれ、アップアップでパニックな状態に陥ります。手が止まり、思考の停止。この場合ただちに、「わからないことがわからない」状態であることを、気づいてあげる必要があります。

 その新人の業務を一緒になって作業し、「何に時間が掛かっているの?」「何がうまくいかない?」などとヒアリングすれば、必ず答えてくれます「なにがわからないか」を。自分はこの寄り添い方をその子の立ち位置に、「ダイブする」と呼んでいます。たった10分でもいい。一緒に、同じことをする。それだけでいいのです。

 人はそれぞれ異なる好奇心や価値観を持っており、それを知り、違いを生かすことが強みを創る

 誰しも、苦手なことやできないことはあります。ならばお互いに補いながら、心からがむしゃらになれるように、その機会をつくることが近道だと思っています。向上心が腹の底から湧き上がるような状況づくり、それこそが寄り添うことにつながる近道だと思います。

 黙っていても何も始まらないし、言葉をかけても、何もリアクションがない。そんな一方的なキャッチボールはやめて、各個人の思いが溢れ出る機会づくりを目指したいと思います。

「わからないことがわからないこと」にならないために、現場で実践していること

一番の若手と毎日現場を廻る

 あれがダメ、これがダメだと人の悪いところを見つけるのは簡単です。若手との対話を、楽しむことを自分のルールにして現場を歩きます。人の良いところを見つけようと自分に言い聞かせます。

 だけれども、すっかりそのこと忘れてしまいます。「その仕事は今じゃなくてもいい」「優先はこっち」「この業務はこうすると、もっと効率的になる」など仕事の中身や量を捨てる手助けをしようとします。さもすれば、どんどん一方的になっていきます。

 この一方的が良くない。自分もつまらないし、相手も同じです。それを毎回、反省しています。その反省が何度も続けば、いつしかダメ出しではなく「なぜこうなった?」など、質問形式で対話しながら巡視するようになります。

 その質問のやり取りが若手と所長の距離を寄せ、価値観を共有できるようになっていきます。トップが一番の若手と、一緒に廻ることがミソです。

月一勉強会

 共に、勉強するスタンスです。教わる側以上に教える側は、勉強しなければなりません。現場の工程に合わせてピンポイントに、工種毎に月に一度、勉強会を企画します。はじめに所長は、現場でよく間違えるポイントを中心に、そのあとメーカーさんによる材料学や技術的なお話を、失敗事例をまじえてレクチャーしていただきます。

 例えばシール工事であれば、工事着手の2ヶ月ぐらい前に実施します。そうすれば、シール工事を着手するときにはインプットした知識を忘れずに、現場でチェックできます。いま、1年後の工事の勉強しても忘れてしまいます。タイミングは間延びしないように、気をつけます。また内容は、ただシールを打てばいいではなく、防水性能を発揮するためにシール幅や高さ、材質が重要です。「そのシール!ここが大事なんだよ!」と、知識の底上げと価値観を擦り合わせていきます。

 ルールは一人ひとつ質問をすることです。先生としての所長も、細かい内容を忘れているので、必死に勉強して臨みます。居眠りさせないよう工夫します。寝たものが悪いのではなく、寝かせた方が悪いのです。共に勉強し、成長できるいい機会です。

あえてマンツー

「わからないことがわからない」アップアップ所員がいれば、あえてマンツーで時間を決めて、週に一度、2時間ぐらい定例打合せをします。宿題の確認と悩みを聞く時間をつくり、だらけてきたらやめます。もう卒業です。

 例えば、内装の工程表を作成するにあたり、描いたことのない所員に、「内装工程描いとけよ」といっても、現代ではアップアップになるだけです。知らず知らずのうちに、描けてるぐらいの少し長いスパンでみる必要があります。エスキスするように毎度、「あーでもないこーでもない」とスタディする必要があります。

 1回目、どの部屋にどんな仕事があるのか。0工程。2回目、どこから攻めてどこで終わるか。ゾーニング。3回目、歩係り。4回目、いかにラップさせるか?工程短縮のアイディア出し。5回目、わかりやすい工程表の表現。色表示や注釈表現。6回目、この工程で施工可能か?業者への確認。7回目は最終確認。他の業務もあるので、これぐらいのスパンで練り上げる必要があります。そのスタディとエスキスを繰り返す中で、ロジャースの3原則を意識して、若手と対話を繰り返します。以下はロジャーズの3原則です。

ロジャーズの3原則

1.共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
2.無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。其のことによって、話し手は安心して話ができる。
3.自己一致 (congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。

最後に

 「わからないことがわからない」状態をつくってしまったら、それは所長の問題です。がむしゃらに目的意識を持って、向上心あふれる現場をつくれるか?

 機会を企画し、実施します。

 ダメでもトライアンドエラーで、まずはやってみることです。
 その現場に、あったやり方があリます。

 毎度、建築のつくりも関わる人間も環境も違います。もともと原っぱだったところに、建築という構造物を、具現化していくことはそう簡単ではありません。皆でいい機会を創出し、強みを得ていきたいと願っています。

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