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海沿いの塀の上


海沿いの塀の上を歩く。できるだけ、風と同じような速度で。プランクトンの死骸の匂いと、どこかの家から流れてくるお昼のカレーライスの匂い。進行方向に対して左側を向くと、青白く光る海が浮かんでいる。ふと人の話し声がして、前方を向くと私の家の近所に住んでいる三人の男子小学生が歩いていた。みつる、しげる、とおる。三人共最後に<る>がつくので、私は<ルー三兄弟>と呼んでいた。彼らは私を見つけると、にまにまとまるで嬉しそうにこちらに向かってきた。私もからかうような笑顔を向けて彼らに向かっていった。
「おはよう、少年諸君。今日は幼稚園はお休みかね?」
「へっ、幼稚園じゃねーよ。俺たちもう小学生だって。」みつるが言う。
「お姉さんこそ、高校はどうしたんですか?」とおるが言う。
「いや、あまりにもつまらなかったので家にあった灯油をぶちまけて火をつけてやったぜ。いい匂いがしたな、焼き菓子みたいだった。」
三人は、輝いた目で笑う。無論こんなことは冗談だと言うことはわかっているのだろうけれど。そんな冗談を知ってなお本当にそうであるかのように無邪気に笑う。
ここにいる全員が、午前中に学校を抜け出してきてしまったのだ。
「そうだ、お姉さん僕たちの秘密基地に来る?」としげるが唐突に言う。
「ばかっ、言うなって。」と、とおる。

「秘密基地?」
私はその、アイスクリームみたいな懐かしい言葉の響きを味わった。久しぶりに聞いた。高校生くらいになると、みんな秘密基地なんかより、成績表のほうを秘密にしたがる。

「ルー三兄弟がつくったの?。」
三人はうなずく。りんごまでは行かなくてもさくらんぼのようにほほが赤く染まっえいる。
「大人には内緒にしているんだけど…」、としげる。
「ばかいえ、お姉さんが大人なわけあるかい。大人だったら平日にこんなところプラプラしてへんよ。」と、みつるがからかうように言うと彼らは全速力で走り出した。
「なんだとー」と私も彼らを追う。

間違ってはいない、私は確かに、あのとき子供だった。けれど、目もくらむような夏の太陽の光にてらされて過ごしていると子供のままでも全然良かった。

「早く着いてきなよおねえさん。秘密基地は山の上だ。」


映画を観に行きます。