カエル、ナツメヤシ、冷蔵庫。

・カエル
・ナツメヤシ
・冷蔵庫


彼女がウシガエルを拾ってきたのは、まだセミが鳴り止んでいない夏の終わりくらいのことだった。そんなものを拾ってきて一体何に使うのかと問いただしたところ。彼女はなんの迷いもなく。
「食べるのよ。」と一言だけ言った。
そして、子供のようにカエルを抱えて庭へと消えてしまった。

翌朝、私はホームセンターに水槽を買いに行った。

スイソウの中にウシガエルを入れると、彼は特に変わった様子もなくその喉を心臓の呼吸と同じくらいの速度で喉を膨らませ萎ませた。彼女はあれ以来カエルに興味を持つことはなく、それよりか次のコンサートのピアノのレッスンをするのに夢中になっていた。室内に響くピアノの声。ウシガエルは迷惑そうに「ヴオー。」と鳴いた。カエルにもクラシックがわかるのだろうか?まいったな、私にもわからないというのに。

私は彼をナツメヤシと名付けた。彼女は私に対してセンスがないと言い放った。

日曜日の午後だというのに妙に急かされるような暑さだ。喉の奥から汗の匂いが滲み出てきて、Tシャツは三分ほど前から汗の重さで体に張り付いている。遠くの方に見える蜃気楼が私にはよく見えない。外に出るものではなかったと毎回のように思う。ナツメヤシの世話をしていたほうがまだマシだった。

彼は、昨日彼女に食べられてしまった。コンサートがうまく行かなかったらしい。家に帰ってくると、すぐさま白く細い腕をスイソウに伸ばして、ナツメヤシを掴んだ。私は、新聞を広げながらその様子をまるで、ワイドショーをみているかのように眺めた。
まな板の上にもっていくと包丁を取り出して、カエルを切り刻んでいく。ナツメヤシは自分の体になにが起こったのか把握できていないみたいに、その目をただ虚空に向けているだけで一言も発しなかった。彼女はなんの迷いもなくフライパンへと、カエルだった肉片を入れていった。
「あなたは、たべるの?」
「いらない。食欲が無いんだ。」
「そう。」
そう言うと彼女は、少しだけ下を向いてつぶやいた。銀色のイヤリングが室内の電灯に照らされて、キラリと揺れた。
「残念だったと思うわ、蛙のこと。」
「ナツメヤシだ。ウシガエルのナツメヤシ。」

彼女は四分の一ほど、カエルをたべてしまうと残りは冷蔵庫にしまった。

その肉片は、彼女が出ていった後もそこに残り続けていた。


映画を観に行きます。