見出し画像

「鰹節に対するEU規制」まとめ

日本食文化を支える旨味。
その重要な原料の一つである鰹節について、YAHOO!ニュースでトップとして挙げられている。
その安全性について関連する知見が多数あり、整理を行ってみた。

***************************************

●鰹節に対するEUの規制の記事-1

http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakaatsuo/20141221-00041692/
YAHOO!JAPANニュース「カツオ節は毒物?EUが輸入を認めない理由」というタイトルの記事で、発がん物質ベンゾピレンが含まれている鰹節について、日本政府が万博で使用する分に限って持ち込みを認めてほしいとEUに要請している点を指摘。

政府の弱腰に、民間がしびれを切らして海外進出を決めたとし、日本の産業空洞化といえるかもしれないとしている。
一方で、食品に含まれる微量の発がん物質に対して、発がん物質の毒性と摂取量のバランスを考えて論理的に判断すべきではないか、とも示している。

http://blogos.com/article/101824/
BLOGOSにも転載。

***************************************

●鰹節に対するEUの規制の記事-2

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201412/2014120900537
時事ドットコム2014年12月9日の記事には、「EUに「万博特例」要請=かつお節、フグ持ち込めず-ミラノ博の和食提供・政府」と言うタイトルで以下の記事を掲載。

(2014年当時)来年5月に始まるイタリア・ミラノ国際博覧会の日本館レストランで使用を予定しているかつお節など国産の水産・畜産物の多くが、欧州の輸入食品の安全規制に触れて持ち込めない恐れがあることが分かり、日本政府が万博使用分に限って持ち込みを特例的に認めるよう欧州連合(EU)に要請していることが9日、明らかになった。

 ミラノ万博は「食」をテーマに開かれ、日本政府は日本館で提供する料理やイベントを通じて和食の魅力を広く海外に伝える方針だ。しかし、関係者によると、かつお節のほかフグや、牛肉以外の国産の肉類、乳製品がEUの輸入規制に触れるため、万博で使用できるめどが立っていない。

 具体的には、かつお節は製造過程でカツオの切り身をいぶす際に生成される発がん性物質「ベンゾピレン」の含有量が、EU基準を超える点が問題視されている。フグは「毒魚」としてEUで輸入・流通が禁止されている。

***************************************

●鰹節に対するEUの規制の背景

JETROのプレゼン資料から抜粋すると、
日本の水産物は、EUのHACCP取得の必要性があるものの、一方で困難な現実があるとしている。
また、鰹節は発がん性物質(ベンゾピレン)に関するEUの規制に適合できないとしている。

http://www.jlgc.org.uk/pdf/20140127.pdf

***************************************

●鰹節に対する関連記事

ジャパンローカルフード協会のFACEBOOKページには、「鰹節はフランスで作る!? ”国産”にこだわらない発想」という記事が挙げられている。https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=728222137202845&id=214320051926392

これに対するプレスリリース「仏ブルターニュ、コンカルノーに欧州初となる鰹節生産拠点を設立」を、ブルターニュ・コマース・インターナショナル(BCI)・対仏投資庁 (略称AFII)・対仏投資庁日本事務所が出している。http://www.invest-in-france.org/Medias/Publications/2613/Communiqu%C3%A9_MFK_AFII_JP.pdf

***************************************

●ベンゾ[a]ピレン等のPAH(多環芳香族炭化水素)について

ベンゾ[a]ピレン等のPAH(多環芳香族炭化水素)は、有機物の不完全燃焼や熱分解等で生成する化学物質で、発ガン性を有する事が知られており、その毒性から、近年、EUや韓国等、国際的に規制が厳しくなってきている。

具体的には、約350〜400℃の高温で、食品を調理または製造する過程において、炭水化物やタンパク質、脂肪などが不完全燃焼された場合に生成される物質。

世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)の発がん物質の分類では大きく4つのグループに分けられているが、ベンゾピレンはグループ1に分類されている。

・Group1:ヒトに対する発癌性が認められる化学物質、混合物、環境
・Group2A:ヒトに対する発癌性がおそらくある化学物質、混合物、環境
・Group2B:ヒトに対する発癌性が疑われる化学物質、混合物、環境
・Group3:ヒトに対する発癌性が証明できない化学物質、混合物、環境
・Group4:ヒトに対する発癌性がおそらくない化学物質、混合物、環境

***************************************

●ベンゾ[a]ピレン等のPAH(多環芳香族炭化水素)の安全性について-1

食品安全委員会としては、「食品に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)(概要)」のファクトシートをまとめている。

http://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f05_pahs.pdf

***************************************

●ベンゾ[a]ピレン等のPAH(多環芳香族炭化水素)の安全性について-2

農林水産省としては、「優先的にリスク管理を行う対象に位置付けている危害要因」の中で、「流通、加工、調理段階などで生成する有害化学物質」として、多環芳香族炭化水素(PAH)を「食品安全に関するリスクプロファイルシート(検討会用)」としてまとめている。http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/pdf/120514_pah.pdf

ポイントとして、
・有機物の不完全燃焼や熱分解などで意図せずに生成し、食品の加工・調理の過程や、環境由来の汚染によって食品に含まれる。
・PAHのうち、代表的な物質であるベンゾ[a]ピレンには発がん性(主に腸管、肝臓、肺、乳腺)がある。その他のPAHの一部についても発がん性を有する疑いがある。
・肉類や魚介類の燻製、直火で調理した肉類などに比較的高い濃度で含まれるものがある。

***************************************

●ベンゾ[a]ピレン等のPAH(多環芳香族炭化水素)の安全性について-3

厚労省・有害性評価書 物質名:No.37 ベンゾ[a]ピレンhttp://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/dl/s0212-9f-10-2.pdf

***************************************

●ベンゾ[a]ピレン等のPAH(多環芳香族炭化水素)に対する有識者の意見

サイエンスライター松永和紀さんが主宰しているFOOCOMで、韓国食品メーカー・農心(辛ラーメンで有名)の回収騒ぎ記事の際に、ベンゾピレンに対する意見を書かれている。
(2012年11月16日、http://www.foocom.net/column/editor/8220/)

***************************************

●鰹節に対する業界団体の動き

農林水産省の監修のもと、平成25年3月鰹節安全委員会((社)日本鰹節協会・(社)全国削節工業協会)は、「かつおぶし・削りぶしの製造における多環芳香族炭化水素類(PAHs)の低減ガイドライン PAHs)の低減ガイドライン(第1版)-安全性の向上のために-」を作成している。http://www.kezuribushi.or.jp/kaiin/H2503-PAHs.pdf

◆以下、関連情報

***************************************

カツオ節は毒物?EUが輸入を認めない理由

(YAHOO!JAPANニュース記事、田中淳夫2014年12月21日 14時19分)http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakaatsuo/20141221-00041692/

来年5月にイタリア・ミラノで開催される国際博覧会。テーマは「食」だ。日本もその場を通じて、ユネスコ無形文化遺産になった「和食」を大いに広めたいところだ。
ところが、日本館のレストランで使用する国産の水産・畜産物の食材の多くが、EUの食品の安全規制に触れて持ち込めないそうである。たとえば毒魚とされているフグや、細かな規制のある(牛肉以外の)国産肉類、乳製品、そしてカツオ節だ。
とくに問題となるのは、カツオ節だろう。「和食」の魅力を広める好機と思われるミラノ万博で、肝心の和食の味を決めるダシを取るものだからだ。
しかし、なぜカツオ節がいけないのだろうか。
実はカツオの切り身をいぶす製造過程でタールや焦げの部分が発生し付着するが、そこに発がん性物質「ベンゾピレン」が生成されるからだという。その含有量がEUの基準を超える点が問題視されているのだ。また、本枯れ節のように乾燥・熟成にカビを使う点も、カビ毒の恐れを指摘するとも言われている。
そのためヨーロッパの日本食レストランでは、ダシにカツオ節は使われず、旨味調味料を使わざるを得ない実情がある。だが、それでは本物の味ではない。
……このニュースを目にして、何を感じるだろうか。
カツオ節って、危険だったんだ! と、素直に思う人。伝統的和食の食材を危険視するEUがケシカランと思う人。そこに和食を締め出そうとする秘密結社の陰謀?を読み取る人だっているかもしれない(笑)。

いうまでもなく、カツオ節そのものは自然界の材料からつくられるものだ。カツオはもちろんカビ菌も、いぶす煙の元の木材も自然物である。自然なんだから安全なはずという思いを持つ人もいるだろうが、実は自然界で危険物質が生成されるケースは意外と多い。毒蛇や毒キノコなどの毒物だってその生き物自身が作り出すものだ。また無農薬野菜では、野菜そのものが天然性農薬様物質を生成するという研究も出ている。それで我が身をかじる虫を追い払うのだという。

とはいえ、本当にカツオ節が危険なのかどうか。本来は、毒性と摂取量のバランスを考えて論理的に判断すべきなのだが……。

日本政府は、万博で使用する分に限って持ち込みを認めてほしいとEUに要請している。安全性に問題がない点を説明した上で、万博会場以外で展示・提供しないからと、万博特例として国産カツオ節などの食材の持ち込みを認めるよう求めている。

しかし、これだって、厳密にはヘンだ。安全だと言いつつ規制そのものの撤廃を主張するわけではないのである。

ところで2015年夏に、フランスの大西洋沿岸のブルターニュ地方のコンカルノーにカツオ節工場を建てる計画が進んでいる。鹿児島県枕崎市の枕崎水産加工業協同組合などが出資して建設するのだ。原料のカツオはインド洋で調達し、技術指導も日本がして製造するという。

つまり政府の弱腰に、民間がしびれを切らして、海外進出を決めたのである。ある意味、これも日本の産業空洞化といえるかもしれない。そのうち和食の素材は全部海外調達になる?

***************************************

「消費者の不安を考慮して、国が自主回収を要請?」

(FOOCOM記事 2012年11月16日)http://www.foocom.net/column/editor/8220/

韓国のインスタントラーメンの回収騒ぎが、10月下旬に話題となった。日本にも輸入されて出回っていることがわかり、日本の厚労省は10月26日、自治体に自主回収を指導するように通知し、検疫所でも輸入届出があった時には積み戻しを行うこととした(韓国産即席めんの自主回収指導について、韓国産即席めんの取扱いについて)。

 これを受けて、問題となったラーメンメーカーの日本法人、「農心ジャパン」は同日、「ノグリラーメン(袋)の回収に関するお詫びとお知らせ」を出し、回収を告知している。

 問題となったのは、発がん物質ベンゾピレン。韓国では、食品にベンゾピレンの基準が設定されており、問題のインスタントラーメンは、基準値を超えたかつおぶしを原材料に使っていた。

 国内では、食品中のベンゾピレンにかんする基準はない。コーデックス委員会も基準は設けていない。だが、厚労省輸入食品安全対策室は、自主回収を求めた。このことについて、同室は「韓国が回収しているので、国内でもないほうがいい、ということ。消費者の不安を考慮した」と説明している。

 どうも引っ掛かる。ベンゾピレンのリスクについて、考えてみたい。

●ベンゾピレンの基準がある韓国

 ベンゾピレンは、多環芳香族炭化水素類(PAHs)の一種で、国際がん研究機関(IARC)ではグループ1(発がん性があると断定できる証拠が十分にある)に分類されている。本サイトでは、田中伸幸さんの連載「調理と化学物質、ナゾに迫る」で解説されているので、ぜひご覧いただきたい。

 また、瀬古博子さんの連載「今月の質問箱」の「韓国製ラーメンに発がん物質が入っていたっていうけれど?」で取り上げられている。

 朝鮮日報によれば、韓国は食品に基準を設けており、かつおぶしの基準値は10ppb、つまり10μg/kg。ところが、韓国食品医薬品安全庁(KFDA)の検査で、ある業者が生産したかつおぶしから10.6〜55.6ppbが検出され、そのかつおぶしが食品メーカー「農心」などに納入されていたことがわかった。同庁は当初、インスタントラーメンの検査を行ったが、基準値を大きく下回っていたため対策を講じなかった。しかし、議員らが問題視したことを受け、一転して回収を命じたとのことだ。

 韓国は、ベンゾピレンについては今年7月、基準を超えたかつおぶしの流通販売禁止と回収を行っている(畝山智香子さんの食品安全情報ブログ[KFDA]基準・規格不適合“かつおぶし”製品などの流通販売禁止及び回収措置)。また、9月にはごま油も同様の措置がとられた(同[KFDA] ベンゾピレン基準超過‘ごま油’製品流通販売禁止及び回収措置)。

 食品医薬品安全庁は、家庭の炭火焼等でベンゾピレンが発生するのを減らすための注意喚起もしている(同 [KFDA]調理中、自然に発生する有害物質の低減化方法を提供!)。そうした背景もあっての回収なのだろう。

 だが、当然のことながら、リスクの大きさは発がん性の有無だけでなく摂取量によって変わる。インスタントラーメンに使われるかつおぶしの量から考えて、インスタントラーメンのベンゾピレン含有量がごくわずかであることは明らかだ。

 なのに、回収命令が出されたことに韓国のメディアも批判的。朝鮮日報は10月30日付社説で「国民が一生に食べる即席ラーメンを全て問題のラーメンと考えても、ベンゾピレン摂取量はサムギョプサル(豚の三枚肉)を焼いて食べたときに摂取する量のわずか1万6000分の1だということが分かった」などとして批判した。

● 国産食品のベンゾピレン含有量は、結構高い?

 韓国は、トランス脂肪酸の義務表示を行っているし、食品の原料原産地表示の義務化にも熱心。個人的には、リスクの大きさに見合った管理が行われにくい国、という印象がある。

 それはともかく、生産国が回収したから我が国でも、という日本の厚労省の判断をどう考えたら良いのか。なぜならば、日本国内の食品にも、ベンゾピレンが結構な量、含まれているからだ。

 農水省は、「優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」というものを作り、含有量や摂取量の実態調査をしながら時々、リストも更新して、リスク管理のための監視や指導に役立てている。ベンゾピレンを含むPAHsもこのリストに入っており、プロファイルシートがまとめられている。

 さらに、同省は10月31日、「有害化学物質の含有実態調査の結果をまとめたデータ集(平成15~22年度)」を公表した。

これは、これまでの調査結果8年分をまとめたものだ。そこで、ベンゾピレンを調べてみるとー。

 調査対象となっているのは、かつお削りぶし等(国内で製造・販売されたかつお、まぐろ、さば等のふし又は枯れぶしを削ったもの)50点、固体だし(かつお削りぶし等を風味原料とする固体調味料)16点、液体だし(かつお削りぶし等を風味原料とする液体調味料)34点。かつおぶしは以前から、ベンゾピレンが多いことが知られているため、集中的に調べている。

 その結果、ベンゾピレンはかつお削りぶし等では、最大値200μg/kg、最小値0.16μg/kg、平均値29μg/kg、中央値27μg/kgだった。

 固体だしでは、最大値21μg/kg、最小値0.15μg/kg、平均値5.6μg/kg、中央値2.2μg/kg。液体だしは、最大値11μg/kg、検出限界(0.11μg/kg) 未満31点、平均値0.38μg/kgである。農水省は、データ集の中で「かつお削り節等に、比較的濃度が高いものがあり、製品によって PAHの濃度差が大きいことが分かりました。国内外の情報収集を継続し、低減対策を検討していきます」と説明している。

(データ集のP188から、ベンゾピレンを含むPAHsについて記述されている)

 つまり、日本のかつお削りぶし等のベンゾピレン含有量は、この調査結果を見る限り、多くの製品が韓国の基準である10μg/kgを大幅に上回っている。

 日本では、だれも気にせずに日本製のかつおぶしを食べ、かつお出汁のうどんやそばを食べている。そして、これらの食品からの摂取量は、直火で調理する焼き鳥、焼き魚などによるベンゾピレンの生成と摂取に比べて決して多くないこともはっきりしている。ところが、韓国の論法に習い、さらに韓国に同調して厚労省が自主回収を命じた論法に従えば、日本のかつおぶしやかつお出汁は韓国では、「恐怖! 日本製発がんかつおぶし」「日本のインスタントラーメンは、発がん物質入り」などと新聞や週刊誌に書き立てられても仕方がない。

 「よその国が回収したものを国内で売るわけにはいかない」という厚労省の今回の行政判断を、理解できないわけではない。でも、ベンゾピレンのリスクに関しては非常に低いと見られるインスタントラーメンの自主回収を厚労省が要請したのは事実である。それを伝えるマスメディアを見聞きして、大勢の人たちが「韓国のインスタントラーメンは危ない」と思い、その一方で、それよりはるかにベンゾピレン含有量が多い国内食品がごまんとあり食べている、という現状をどう考えたらよいのだろう。

 「消費者の不安を考慮」することは、どこまで可能なのか。どこまでなら許されるのか。違う物質、別の国で同様なことが起き、日本に輸入されていた時に、同じように不安を理由に国産ならまったく問題のない食品に対して、自主回収を要請するのか。

 消費者は、発がん物質のリスクの評価や管理にかんする考え方をあまり知らない。自主回収を要請するにせよ、もっと説明しておかないといつか、「日本食品は危ない」と日韓両国やほかの国の国民に言われてしまうのでは? 私の杞憂であればよいのだが。

(2014.12.21 facebook ノートから転載・改編)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?