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【旅日記】 汁飯香の店 隠居うわさわを訪ねて(栃木県/下今市〜奥日光)

お気に入りの飲食店が明日もやっている保証はどこにもない。

私には、行っていたときは月1で足繁く通うレベルで気に入っていた朝食屋さんがあった。日光・下今市にある「汁飯香の店 隠居うわさわ」という店だ。もともと、うわさわは日光名物のたまり漬けを製造している商店である。そして、そのうわさわ家の古民家を改装して作ったのが先の朝食屋さんである。

汁飯香の名前の通り、日光産のご飯と味噌汁に、うわさわのたまり漬けの漬け物がついた朝食を出してくれる。The日本食といった感じだ。
ご飯は土鍋で炊くので注文してから20〜30分はかかるが「ご飯ってこんなに美味しいものなのか!」と感動するほど、炊きあがったご飯は粒が立っていてうまい。ふわっととしていながら、粒が潰れることがない絶妙な加減だ。

そして、うわさわ自慢のたまり漬け。普通の漬け物は加熱殺菌しているのだが、うわさわの漬け物は違う。加熱していないため、生野菜を食べたときのようにパリッとした食感と風味を残している。この絶品の漬け物に炊きたてのご飯を頬張る。日本人でよかったと思える瞬間だ。

味噌汁も「今日はどんな具材が入っているんだろう」と地味に楽しみにしている1つだ。日光名物のゆばが入っていったり、夏はズッキーニ、冬はかぼちゃといった具合に旬の具材が入っており、季節を感じさせてくれる。

汁飯香 + なめこのたまり炊のたまごとじ

ご飯の炊きあがりに時間がかかるため、注文して朝食が出てくるまでに時間がある。その時間は、読書をしながら古民家の庭園を眺めつつ、ゆったりとした時間を過ごす。冬には石油ストーブが焚いてあり、夏には扇風機が回っている。都会の喧騒から離れて日光・下今市で過ごす至高の時間だ。

テーブルからの眺め

去年の10月頃だろうか。数カ月ぶりにその「隠居うわさわ」に予約を入れようとしたときのこと。女将さんが体調を崩されて来年(2024年)の春まで休業するというお知らせが飛び込んできた。
とても気に入っているお店だっただけにショックが大きかった。もう二度と、あの店で朝食を食べることができないのではないかと思い、愕然とした。

今年(2024年)に入ってから、ちょくちょくホームページを訪れては「まだ再開してないのかなぁ…」と気になっていた。そんなある日、Googleの口コミ欄から「3月から再開するようで、予約が入れられるようになっている!」という情報を得た。思ったが吉日、「すぐに予約を入れなくては!」と思い、再開初日の最初の時間帯に速攻で予約を入れた。

予約を入れたのは3月の最初の休日。3月から新しい職場で仕事を始めるタイミングだったこともあり、リフレッシュも兼ねて「どうせなら日光を観光してまわろう!」と思い立った。
日光というと日光東照宮が有名だが、何回かいったことがあるので、奥日光の方面(中禅寺湖や戦場ヶ原)を見て回りたいと思った。奥日光には温泉宿があるということを発見し、良さそうなホテルに予約を入れた。

当日、8:30前に着けるように、東武特急リバティに乗り下今市まで。

下今市駅からの眺め

駅から歩いて15分弱。隠居うわさわが見えてくる。店構えは店らしくなく(古民家なのだから当たり前なんだが)、中庭のある名家に訪問しに来た感じだ。最初来たときは、「本当にここから入って大丈夫だろうか?怒られないかな?」とビビっていたものだ。

汁飯香の店 隠居うわさわ

暖簾のかかった門をくぐり、中庭を眺めながらゆっくりと石畳を歩いていくと玄関が見えてくる。ガラガラと玄関の扉を開くと、「ようこそおいでくださいました」といつものように女将さんが出迎えてくれる。お店というより、まるで実家に帰ってきた感じだ。

玄関の扉を開くまでは、女将さんはまだ療養中で別の方が出てくるのでは?とも思っていたので、いつもどおりの元気そうな女将さんの顔を見て安心した。

「体調の方はもう大丈夫なんですか?」と聞くと、「おかげさまでもうすっかり」とのことで、少しホッとした。もう一人いつものスタッフの方がいて、その方も健在だったので良かった。休業してしまうといつものスタッフが辞めてしまうこともあるから、それも心配だったが杞憂だったようだ。休業明けも何も変わらない隠居うわさわがそこにはあった

中には花束を持ってきた人やお歳暮的なものを贈った人もいたようだ。私はただ店に来ただけだったので、ちょっぴり恥ずかしいやら申し訳ないやらという気持ちになった。もっとこう、何かできたのかなと。

通された部屋に、前来たときには見かけなかった掛け軸がかけられていた。そこには「喜ぶものは扉を開く」という言葉が書かれていた。喜ぶとは他人の幸福を、ということなのだろうか?色々解釈はできると思うが、他人の幸福を素直に喜べる気持ちを持てることは心にゆとりがあり、人として豊かだと思う。

喜ぶ者は扉を開く

などとぼんやりと考えにふけっていると、女将さんとは別のスタッフの方が、お水と先付の何かのすりおろし(忘れてしまった)を持ってきてくれた。「今日は庭に霜が降りていて寒いですね。もう、3月なのに」と言ったら、「昨日は雪が降っていて、今日はまだ暖かい方なんです」と言っていた。距離はそこまで離れていないが、東京と比べて、日光・下今市の方は意外と寒い

このスタッフの方の気配りも心温まるものがある。お客が見えない角度で控えていて、飲み物が足りているか、膳を下げてデザートを出していいかどうかなどのタイミングをはかっている(その様子を過去にチラッと垣間見た。まず気が付かない)そういった細やかな気配りが心地よい空間を演出しているのだと思う。

出てくる料理は前述の通りなので、追加で話すことはないだろう。
店を出る前に用を足したくなり厠に向かうと、電気がついていなかったので人が入っていないのだろうと思い、電気をつけたら「入ってます!」と声がした。「しまった!」と思い、すいませんと謝ってその場を離れた。少し気まずい感じになってしまった。
最後にちょっと失態を犯したが、最高の朝を満喫したところで、日光に向かうことにした。

春になったらまた来ようと思った。


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