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【読書記】北関東「移民」アンダーグラウンド;ベトナム人Bộ Độiから見える日本社会の変化

毎回読ませる!安田峰俊さんのルポ

今回ご紹介するのは、これまで自分の読書記で何度も紹介している安田峰俊さんの最新作、「北関東「移民」アンダーグラウンド」です。彼が元々得意としていた中国関連から、現在はその取材力を発揮し、在日外国人、特にベトナム人に関して、多くの面白い記事を書いています。今回も読む前から、その刺激的タイトルと表紙からして期待大でした。

ボドイの日常=日本の非日常(けど現実)

自分のnoteを読んで頂いていくれている方には、在ベトナム、或いはベトナム語に何らかご関心の方も多いかもしれません。彼がボドイと呼ぶその言葉は、これはベトナム語のBộ Đội、漢越語では「部隊」となり、所謂軍隊、兵隊の意味です。đi Bộ Độiと言うと従軍する、軍隊に入ると言う意味になり、軍の存在が割と身近なベトナムではよく耳にします。

技能実習生としての境遇から諸々の理由で脱走し、不法労働となった人達を前線でゲリラ戦を行う兵隊に見立ててボドイと呼ぶそうで、本著はそういう彼ら・彼女らのリアルを、中に進入して描いたルポルタージュです。以下ツイートのように、既にネット上でも多くの安田さん突撃ルポがありますが、それらを更に濃厚に閉じ込めた一冊です。

不法滞在、不法就労、無免許運転、違法な車両入手、ひき逃げ死亡事故、賭博・・・(以下略)。日本の大都市を少し離れた地域で、深いベトナム人社会・経済が動いている現実には、ベトナムにはドップリ浸かりつつも日本滞在は最近機会がない自分にとっても新鮮そのもの。「最近はコンビニにベトナム人店員が多いですね」では語りきれない、きれいごとだけでも済まない、日本社会の労働事情がこれでもかと登場します。

「かわいそうな人たち」だけではない、でも「悪い人たち」だけでもない

今は技能実習生、外国人労働者を巡るニュースは日々テレビ・新聞・ネットを賑わせています。ただ、問題の描かれ方は紋切り型と言わざるを得ません。報道のストーリーは「①技能実習生制度は現代の奴隷労働制度だ!」と「②外国人犯罪者は増加して日本社会の安全を脅かしている!」の両者を行き来しつつ、その間にある複雑性を切り捨てています。その間にあるリアルを、丹念に当事者にあたりながら本著は埋めているように感じます。

著者も書いているように「偏った理解は日本社会の更なる迷走を生む」との見方には本当に同感です。技能実習生制度も大きな改革が議論されていますが、そこでもきちんとリアルを把握しないと、また歪な制度が出来上がってしまいかねません。

読むのをためらった心の経緯

相変わらず読ませてくれる、安田峰俊さんのルポルタージュ。特に今回は、現在自分が在住するベトナムから日本に行った若者たちが、日本の中で繰り広げている地下社会・経済がテーマでしたから、刊行当初から直ぐに読みたいなあと思う気持ちはなおさらでした。その一方、ベトナム人を妻・家族とする自分の心に「ベトナムの若者たちの目に余るやんちゃぶりを、特にそれが日本での犯罪行為にまで至ることの詳細は、正直ちょっと見たくない」という、若者たちの親戚のおじさん心のような変な思いも少しあり、本著を手に取るのを少し躊躇しました。

「ベトナム人は日本で今どのように見られているのか?」そこを考えるとつい、ベトナム人の血が半分流れる我が子たちがどう見られるのか、ということを潜在的に思ってしまうのかもしれません。考え過ぎなのでしょうが、日本人の中でのベトナム人イメージにやや敏感に反応する自分がそこにはいました。でもそんな葛藤はありつつ、やっぱりよりよく知りたいという思いで手に取ったという経緯でした。

一気に読み終えて、やはり読んでみて良かったという読後の満足感と、今後のベトナムと日本の関係・立ち位置の変化を憂う思いとが入り混じり、色々考えさせられた、そんな一冊でした。でもやはりおススメです。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。