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ドラマから見た台湾(その1)「我們與惡的距離」(悪との距離)

日本でも多く放送・配信、社会派ドラマの名作!

ベトナムのことを書くことが多い中、でも引き続きメディアやドラマを通じては中華圏への関心も忘れない私。今回は台湾のドラマ「我們與惡的距離」(邦題:悪との距離)を観ましたのでご紹介します。

こちら、現在アマゾンプライムでも観ることができます(2021年9月26日現在)ので、日本語字幕で見られます。その他多くのネット配信サービスや、更には既に日本の地上波でも多く放送されたようで、既にご覧になった方も多いかもしれませんね。

被害者・加害者家族、メディア、心の病を抱える人たちの苦悩

このドラマを語る上で外せないベースとなるのは、数々の殺人事件。それも、動機がハッキリとしない所謂「無差別殺人」事件です。被害者家族は当然理不尽な事態に怒りが収まるわけも無く、それを報道するメディアも世論の怒りと憶測とにかき立てられてエスカレートするばかり。加えて、現代社会におけるメンタルヘルスの問題と、それに対する社会の見方・偏見も拍車をかけます。

犯罪被害者遺族の救済というのは現代のどの国でも大きなテーマですが、同じように難しいテーマと言うのは犯罪加害者側家族が社会とどう向かい合えるかという問題。この問題にドラマは正面からぶつかっていっています。そのドラマチックな展開は是非本編をご覧頂きたいなと思いつつ、私が思い浮かんだのは(こちらも最近よく読んでいる)東野圭吾の小説「手紙」でした。加害者家族が犯罪発生後にたどる道というのはなかなか語られることがありませんが、こちらも是非おススメです。

誰が主人公か、と言うのが難しいほど色々な個性あるキャラクターが登場するこのドラマですが、職場的背景として最も多く出てくるのはメディア。特にデイリーニュースを報道するテレビ局が一番の舞台ですが、他国の例に漏れず「視聴率を採るか、報道の質を採るか」といった問題に葛藤しています。SNSを巡る台湾でのネット世論の様子なんかも垣間見れ、メディアの在り方だけもドラマの主旋律をかなでる一つの大きな要素です。

そして、様々な現代社会問題の過程・帰結としてのメンタルヘルスの問題。日本においても大きな課題ですが、社会の都市化、家族の在り方の変化などがみられる台湾社会でも、このメンタルヘルスの問題が大きな課題なのだなあということが伺え、また日本社会(そしてベトナム社会)との比較も非常に興味深いです。

がっつり見た台湾ドラマ(vs大陸中国ドラマ)

これま大陸中国での留学・仕事経験が6年以上あるのに比すると、実は私にとって台湾は近くて遠い場所。避ける意味等は無いのですが偶々機会が無く、実際に訪れたのは1999年に1回だけということで、知らないことばかり。今回ドラマをきっかけに、もっと台湾のことを知ってみたいなあと思いました。

言葉の勉強にと思って極力字幕を追わず、音に耳を澄ましてみると、大陸の普通話と近いものの、発音がやや違う台湾の「国語」、そして地方都市の場面で出てくる色々な言語のバリエーション(不勉強でハッキリはわからないながら、闽南话だったのかなと)もとても新鮮。

更にドラマという意味では、中国大陸ドラマの40話以上が日常茶飯事の「何でも大河ドラマ」レベルに慣れている身としては、今回ドラマの「10話完結」という凝縮度の高さもまた新鮮。これは日本のドラマを良く観る方にしてみると当然の長さなんでしょうがw。まあ他の台湾ドラマにはもっと長編のものも多いようですが、この「もっと観ていたいなあ」と後ろ髪をひかれるくらいがまた良いということなのでしょう。

そして今回ドラマの一番の印象は、もちろん台湾独自の社会・文化を背景に描く部分が沢山ありつつも、現代都市社会を描くドラマとして、国を超えて、日本でも共感できそうな普遍性というか、親和性というか、そういうものを多く感じました。また、「民主、人権」を訴える人権派弁護士の活躍を、中国語(もちろん台湾の「国語」)で描いているが強く共感できる、これは大陸中国ドラマを良く観ている(観過ぎている!?)私には逆に違和感のような、新鮮なような、とにかくハマりました。

とにかく、今すぐには訪れるのが難しい今の世の中。これをきっかけにこれからは台湾ドラマ・映画もどんどん見て、台湾社会への理解を深めていきたい、そう思わされた良いドラマでした。超お勧めです!

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。