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ベトナム経済への痛手はどの程度か?~2020年上半期マクロ経済指数と肌感覚から

2~5月くらいに書いていた「ベトナムにおける新型コロナウイルス流行状況」シリーズ(というわけではないのですが)、最近すっかり書いていなかったことからもお察しの通り、幸いベトナムでは新型コロナウイルスの感染はかなり抑えられています。本日7月5日現在では、80日間連続で市中感染が出ておらず、国内の感染者は僅か15人となっています。

しかし、かなり徹底した隔離政策、そして国境封鎖政策を実施しての感染防止だったので、当然ながら国内経済への影響は大。今回は、こちら4月のnoteに続き、コロナショックがもたらした経済影響について、2020年度上半期の数字を眺めながら考えてみたいと思います。

GDPは何とかプラス成長

まずは大きな数字としてGDPから。ベトナム統計総局の発表に拠ると、2020年度上半期GDP成長率は、前年同期比で1.81%成長となりましたが、プラス成長になってるだけでもよく持ちこたえてるということかなあと。ただ4月の「社会隔離」政策を始め、もっとも直接的な厳しい隔離政策が実施され、外国との往来もほぼ完全に閉じられた第2四半期(4-6月)のGDPは僅か0.36%成長と、こちらもプラスではあるものの厳しい数字となっています。第2四半期、上半期共に、GDP統計を取り始めたここ30年で最も低い数値だそう(以下図の過去10年GDP成長率はVN Express記事より)。

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それでも世界全体からみれば、ベトナムのマクロ経済状態が光って見えるのは間違いないところ。前回経済指標を4月にまとめたnote「社会隔離のベトナムー健闘する感染予防とその裏での経済的ダメージ」執筆時には相当厳しい見通し、その後も更に成長見通しを引き下げていた金融機関、国際機関ですが、これらを引き上げる動きも出ています。従来2020年の経済成長率を1.6%とかなり低く見積もっていたHSBCは、その見通しを「3%成長」に上方修正するなど、マクロ的に見れば経済は持ちこたえていると言えるかと思います。

地域・業種により異なるショックの大きさ

国内経済活動の復活に伴い明るい兆しが見え始めた一方、ショックの大きさは業種、地域によって異なります。特に国際往来がなくなったことにより直接的な影響を受けた観光関連産業、特に海外からの観光客に依存していた地域、業種への影響は深刻です。(どれくらい正確かはわかりませんが)各地方省ごとのGDP数値も出たそうですが、その中でも日本人にも知られる観光地を抱える地方省が軒並みマイナス成長。著しい成長を遂げている中部の中心都市、ダナン市も大きな影響を受けてのマイナス成長となりました。

一向に往来再開の目途が立たない海外観光客に依存している高級ホテル・ビジネスホテルなどは、まだこれから休業に追い込まれるが増えてもおかしくない情勢です。

閉店、失業:街に活気は戻ったが、人々の声は…

行動制限はなくなり、スポーツイベントも始まり、街には活気が戻ってきています。国内経済が回復していく勢いは見られますが、その一方でまだまだこれから影響が出てきそうなエリアも。各種サービス業や飲食業の路面店では「閉店、店貸します」の看板や垂れ幕が目立つエリアもまだまだ多く、むしろこれから「もうこれ以上は持たない!」と増えていくかもしれません。

そうした中で直接に影響を受ける労働者。6月29日労働省の会議では、失業や交代勤務などを強いられた人の数は780万人と発表されています。労働省雇用局長は、特にサービス業、製造業での影響が大きいとしています。

オフィスで働くような人たちには、大分日常が戻ってきているように見えますが、例えば街を走るタクシーの運転手さん、影響を受けやすい業種の一つです。外国人や観光客の利用も多かっただけに、ドライバーさんたちの不満はだいぶ溜まっているようです(以下ツイートの「400万円ドン」は、勿論「400万ドン」の誤記です…)。

そういった苦しい現状の一方で、しなやかに職種を変えるベトナム人の「フレキシブル」な姿、そしてタフさには、日本人としても見習わなければいけないなあと思う点も多くあります。「いや、そういうの経験ないから…」と言わず、とりあえず始めてしまうフットワークの軽さと楽観姿勢は、危機と変化の世界では強いです。

ベトナム政府の対抗経済対策は?

そうした中でベトナム政府は、国内観光産業を振興しようと各種の施策を打とうとしています。国内消費を色々な形で惹起していこうというのは、まずは基本線としてあるようです(が、どこの国もこの状況ではそれしかないですよね)。こちらの内容と効果のほどは、また稿を改めてかなあと思います。

ただ、より中期的な取り組みとしては「早く立ち直ったベトナム」をアピールする、新規FDIの誘致策があります。中国に集中していたサプライチェーンを見直すため、世界の企業が投資計画を再考する中、「今こそベトナムへ」と新たな投資誘致キャンペーンを展開する準備を進めています。今すぐに「工場立地を視察に♬」とは行きませんが、国境が開けられた時に真っ先に候補に上がるように準備を進めるというところでしょう。

実際にアップルが一部製品の生産・組立をベトナムに移したとされるニュースは、ベトナムでもグッドニュースとして大きく取り上げられています。サービス業・観光業は引き続き先が見えにくい情勢ですが、こういったやや伝統的な製造業、チャイナ+ワンとしての生産拠点として新たなチャンスが生まれてくるかもしれません。ただそのためにも、早く国際間往来が復活する世界になって欲しいですね。


11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。