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社会隔離のベトナムー健闘する感染予防とその裏での経済的ダメージ

ベトナムが国を挙げて、新型コロナウイルスに対して非常に強い政策をとっているのはこれまでもお伝えしたところです。日本と比べても段違いに厳しい予防措置に「すごいですねえ」という称賛の声もある反面、「それだけやって経済はどうなっちゃうんだろう?」と思われる方も多いと思います。そこで今回は、まだ断片的ながらも出てきた、ベトナム経済への影響に関してのニュースをまとめてみました。

マクロ経済指標は厳しい見通し

VN Expressが「今後のベトナム経済はどうなるか?」という記事に第1四半期を終わったところを踏まえての各種マクロ経済数値がまとまっていましたので、それをなぞる形でまずは大局的なベトナム経済の様子を。これによりますと、ベトナム第一四半期GDPは前年同期比3.82%増、プラス成長とはなりましたが11年ぶりの低い数値です。とは言え、お隣の新型コロナウイルス感染出発点ともなった中国経済の第1四半期GDPが昨年同期比-6.8%成長とマイナス成長にまで落ち込んだのに比べれば、持ちこたえているとも言えるかもしれません。

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ベトナム自体は強硬な新型コロナウイルス対策が功を奏して、その出口も少し見えてきましたが、まだまだ楽観視できない欧米諸国の情勢を踏まえて、ベトナムの第2四半期輸出額は25%、その後も15%減額となるだろうとも予想されています。ベトナム製品の大口輸出先である欧米経済の立ち直りがあるかどうかによって、今後の数値はだいぶ変わって来そうです。ベトナム国内の研究機関である経済政策研究所は、第2四半期GDPがほぼ間違いなくマイナス成長になること、またそのマイナスもコロナウイルスの影響が長びけば-4.9~5.1%にまでなるであろうと警告しています。

そういった要素(の不透明さ)も鑑みての2020年全体での経済見通しは、国際機関、民間格付け機関なども見方が分かれています。ベトナムとしての今年のGDP成長率目標は6.8%でしたがこれはそのままの実現は難しいでしょう。世界銀行(WB)の基本的なシナリオなら4.9%増、悲観的なシナリオでは1.5%増、またADB(アジア開発銀行)は4.8%増、民間格付け会社Fitch Ratingsは3.3%増と、どれもマイナス成長にまで陥ることは無いとしつつも、その先行きへの見通しには差が出ました。

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影響を直接受ける企業の見方は?

マクロ指標に加えまして、次は個々企業が現状をどう認識しているかについて。ベトナム国民経済大学が4月初に行ったアンケート調査によると、新型コロナウイルスの影響による営業損益はどのくらい減ったかとの問いに、30~50%と回答したのが最も多く34.9%、8割以上減ったという回答も20.2%あるなど、「瞬間最大風速」的な認識とは言え、その影響力は計り知れないものがあります。この調査実施後にベトナムは「全社会隔離」の名の下の厳しい外出制限措置の期間へと入っているので、見通しはあまり変わっていない、或いは更に悪くなっているかもしれません。

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ベトナムの経済界の声を代表するベトナム商工会(VCCI)も会員企業へのアンケート調査で、「5割の会員企業はこのままいけば、あと半年しか経営がもちません」と窮状を訴えています。もちろん、ベトナム政府の経済対策検討時に出されたもので、特に支援の必要性を訴える意味は強いアンケート調査だったとは思いますが、3月の流行第2波から続く激しい抑え込みの影響、営業自粛・停止の影響は相当なものでしたので、4月1日からの社会隔離を経て、企業がそう答えるのも無理はないだろうと思われます。

失業者が増える中、社会は不安定化するのか?

そんな中で世界的に急増する失業者、ベトナムでも例外ではありません。ベトナム政府の支援策検討の中では、4,5月の期間に、失業、或いは無給休暇を余儀なくされた人の数を350万人と推測しており、その数はベトナムにおける労働生産人口(15歳以上)約5500万人に比し約6.3%、これだけの規模での雇用危機は衝撃的です。

ベトナム政府も経済的な影響を受けた個人や中小企業に、3000億円規模の支援策を打ち出しています。この中には、日本でも話題の「現金給付」は、2週間以上仕事を失った労働者には180万ドン(約9千円)/月×最大3カ月、貧困世帯50万ドン/月×最大3カ月などあり、また対象者に「革命に貢献のあった人」(ベトナム戦争時などに貢献のあった人やその家族・遺族)が含まれるのがベトナム的です。ただこの62兆ドンの予算の内、中央政府財政からは約半分強の支出となり、その他は地方政府財政やその他収入からということで、実際にどのくらいの支援がなされるかは実施を見守る必要があります。


特に飲食業、観光業の受けた影響はすさまじいものがあります。海外からの観光客はほぼシャットアウト、国内客も4月1日以降は社会隔離でほぼゼロ。具体的な損失規模は、この厳しい状態がまだ現在進行形なためにまだ明らかにはなりませんが、断片的な数字は上がってきています。

これだけ失業が増えれば治安の悪化なども心配され、ハノイやホーチミンなどでは実際に犯罪が少し増えているというニュースもちらほら。これまで海外各国の中でも「ベトナムは治安が良い」として良く知られていましたが、在住外国人としても少し気を付けなければいけない時期に来ているかもしれません。

もちろん、収まりつつある新型コロナウイルスとの闘いを経て、ベトナム経済には明るい兆しも見えてきています。ただ、ここでは華々しい「新型コロナウイルスとの闘いでの(とりあえずの)勝利」の裏で、ダメージを受けた経済面の各種データ・報道について中心にまとめてみました。「反撃の一手」については、また稿を改めて書いてみたいと思います。



11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。