ベトナムでの感染第4波は何が違うか?(2021年5月9日夜現在)
本当は平和に引き続き読書週間の余韻に浸っていたかったハノイ在住の私ですが、ベトナムの数少ない連休が終わったら、新型コロナウイルスに関する状況が一変してしまっていました。学校は連休明けから一気にオンライン授業へ、私の職場も在宅勤務へ急に変更。不要不急のサービス業は閉まり始め、サッカーを始めとした多くのイベントは中止が相次いでいます。今回で第4波と呼ばれるベトナムでの感染拡大、これまでとは何が違うのでしょうか?
突然の始まりと現況(5月9日夜段階)
まず現状はどうなっているのでしょうかをみてみましょう。今回の一連の感染が報告され始めた4月27日から約2週間、感染者数は333人、特にハノイ市では100人を超える感染者が確認され、今回感染の中心となってしまっています。当初は、日本帰りのベトナム人の感染確認や、外国人専門家の隔離ホテルでそのホテル従業員がかかってしまったなど、一部隔離施設の管理が徹底していないことが問題かと思われました。ですが、その後すぐに国立熱帯病病院での集団感染が発生し、様相は当初考えられていたより複雑、深刻なことがわかってきました。以下グラフはVN Expressのもので、左は4月27日以来の累積感染者数、右は日ごとの感染者数で、数値は全て市中感染のみです。5月9日の市中感染者は92人で、3桁に迫る勢いです。
4月末、5月初の四連休を経て、各地でソーシャルディスタンス措置、そして更に厳しいロックダウン(首相指示15号、首相指示16号など実施される程度は違いますが、内容の違いに関してはリンク先の在ベトナム日本国大使館HPをご参照ください)が実施され始めています。直近ではハノイのお隣、日本企業の進出する工業団地も多いバクニン省でも感染が広がり、県単位でのロックダウンが始まっています。
それでも数だけ見れば、世界の状況をみるとまだまだ大変少ないのですが、2月の旧正月(テト)に一部地域で感染がみられて以降、この2カ月ほどまた「ゼロ・コロナ」のような状況を維持してきたベトナムにとっては、十分ショッキングな数字です。そして、それがショッキングな理由が他にもいくつかあります。
特徴①ハッキリしない、同時多発的感染源
今回の感染拡大が悩ましいのは、当初これかなあと思われた感染源以外からも、同時発生的に色々な集団感染が発生していることです。こちらについては、ベトナム、ホーチミン市ラッフルズに総合診療医として働く中島先生がFacebookで説明してくださっていますので、是非ご参照ください。
これら同時多発的に起きた(というか発見された、という方が正しいか)集団感染の幾つかが医療機関であることも、大変心配な点です。ベトナムの病院敷地内に入ったことのある方ならわかると思いますが、ベトナムの、特に大きな病院は医療従事者、患者さんだけで既に混雑しているだけでなく、多くの患者さん家族、そしてそれらの方にモノを売ったりする人たちでいつも人があふれています。そういった見舞いの家族の方に感染が広がっているのも特徴の一つで、これがハノイから地方省に感染を広げる要因となっています。
今回感染拡大を象徴するのは、国立熱帯病病院での集団感染でしょう。これについては、同病院の二つの拠点の内、主にコロナウイルス感染者を専ら受け入れているドンアン新病院に勤務する救急科の医師が「海外で感染判明」という経緯も驚きました。実は以下ニュースのように、ベトナムはお隣、感染が広がるラオスに対して医療チームを派遣して、感染防止・治療の経験をシェアしようとしておりました。そのラオスに赴いたチームに同医師は入っており、ラオスでの感染発覚ということだったようです。ベトナムとしては何とも皮肉な感染発覚の仕方となりましたが、逆にこのきっかけがなかったら同病院での感染がいつ分かったことやらと考えると…、不幸中の幸いと考えるべきでしょうか。
特徴②変異種の拡大と隔離期間の延長
そして、今回感染は主として変異種によるものとなっていることが、更に懸念を増します。英国型、インド型が流行していることが確認されていますが、これによる重症化も懸念されます。入念な水際対策を行っているようにみえたベトナムですが、やはり「水も漏らさず」とまではいかなかったようです。コロナウイルスの手ごわさを改めて感じさせられます。
この変異種の手ごわさを鑑みてか、ベトナムにおいて感染者の濃厚接触者となった人、そして日本など海外からの入国者の隔離施設・ホテルでの隔離期間が従来の2週間から3週間に延長されました。確かに2週間の施設隔離後、自主隔離期間中に発症したり、他の人を感染させてしまったりという事例があったので、感染防止、水際対策としては理解できるものの、日本への一時帰国を望むもの(=私)としては、更にハードルが高くなるなあと、故郷を遠く見る目が更に遠くなる感じ…。でもそれだけベトナム政府の危機感も強いということでしょう
特徴③挟んでしまったゴールデンウイーク
そして、潜在的には最も心配なのは、今回第4波が起きたタイミングです。ベトナムでは4月30日が南部解放記念日(ベトナム戦争終結を象徴する日)、そして5月1日がメーデーということで両日が祝日なことから、非常に連休の少ないベトナムで数少ない連休でした。そんな中、今回第4波の予兆というか、第一報ともいうべきニュースはその連休の少し前、そして既に4月27日には以下のようにハノイ市も警戒態勢を強めていました。
しかし、今回はその段階では「旅行は止めろ、動くな」とまではベトナム政府は言いきれませんでした。観光地は各地で大変な賑わいを見せたとして、避暑地として有名なダラット、ビーチが有名なニャチャン、ホーチミンの人にとっての気軽な海水浴場であるバリア・ブンタウ、そして日本人にも有名なダナン・ホイアンなど、多くの人が旅行を楽しんだ、その直後での今回の多数地点での感染発覚です。
隔離施設の管理が緩んだことに加え、ファンミンチン首相は5月3日、ダナンやブンタウなど、多くの人出が出た地域を「たるんでる!」と言って名指しで非難するなど、怒りを隠しませんでした。ですが、もしかしたら一方では、連休前に強い手を打ちきれなかったことへの焦りの気持ちもあるかもしれません。
ワクチン接種に限界あるベトナムに、次の一手は?
引き続き強力な隔離、検査で新型コロナウイルスを抑えこもうというベトナムの基本方針は変わらないでしょう。この春政権交代をしたベトナム政府も、「Chống dịch như chống giặc」(侵略を防ぐように感染を防ぐ)と戦時のようなスローガンを掲げ、激しい感染対策を実施していたフック前首相(現国家主席)の路線は続くでしょう。
ただ変異種の感染力、重症化率の高さをこれまで通りの「徹底追跡、徹底検査、徹底隔離」で抑えきれるのか、チン首相率いる新政権には大きな課題がのしかかります。特に、ワクチン接種を国民に広くいきわたらせるにはまだまだ時間がかかりそうなベトナムには、そうは言ってもまずこれまでのやり方を徹底する他はありません。ベトナム在住日本人としても、暫くはまた感染対策に相当気を使う日々が続きそうです。
11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。