『ボードゲームよもやま話』ルールに「勝利を目指すこと」は記載されているか?
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■はじめに
今回のテーマは『ルールに「勝利を目指す」は記載されているか?』というとなります。
時々ネット上で話題になるのが「勝ちにこだわり過ぎるプレイは是か非か」みたいな話だったりします。その時に「ルールには勝利を目指すことが書かれてない」などと言われたりします。
確かに、書いていない事を強制する事は良くないことだと思います。ですが、そこで思ったのが”それって本当に書いていないのかな?”ということ。
今回の記事は50前後のボードゲームのルールから、その一部を抜粋して本当に書いていないのかを確認して行こうかと思います。
また、その抜粋は研究目的のもので著作権を侵害する用途のものではないことを先に断っておきます。
■概略・目的・ストーリー・導入
勝ちを目指すにも様々なレベルでのニュアンスがあると思います。例えば、何が何でも勝つ姿勢として「相手を騙すような言葉で持って誘導する」とか「長考してあらゆる手を考え切ってからプレイする」とか「あくまでフェアプレイの中で考えられる事を想定してプレイする」とか色々とその度合の濃淡があると思います。
ですが、今回はその程度について論ずることはしません。何が何でも勝つようにすることと、フェアプレイの中で勝つように努力すること、特定の同卓者に勝つように手助けをすること、面白そうという突飛な選択をし続けること、などなど様々な状況における是非はその状況ごとに考えるべきだからです。
なので、程度問題についてはまた別の話として脇に置いておきます。
個人的にこれまで自分は「ボードゲームは勝利を目指すもの」と思っていました。そして、ルールにもそれが書かれていると思っていて、それはゲームの終盤には得点計算などの勝敗の記述があるからです。
それなので少なくとも「ルールには勝利を目指すことが書かれてない」という様な事は誤りであり、そいういった言葉は使わない方が良いのではないか?というのが自分のスタンスです。
そして、得点計算での勝敗の記述だけでは不十分ならばより確度の高い「勝ちを目指す」と示されている記述を拾い出してみようというのが今回の試みです。具体的には各ゲームのルールからその箇所を抜粋して計数していきたいと思います。
①概略・目的・ストーリー・導入
そこで着目するのがボードゲームのルールにおける概略・目的・ストーリー・導入の部分です。
ボードゲームのルールにおいては章立ての流れがある程度は共通していることが多いです。
概略(overview)の章があり内容物(components)の章がありゲームの準備(setup)の章があり、という風に展開の仕方が似通っています。ルールを効率的に伝える為にはフォーマットとしてこの流れにした方が伝え易いからです。
その中でも冒頭部分の概略(overview)についてはルールブックの最初に登場して、そのゲームの基礎的な枠組みを伝える部分であり、そこに「勝利を目指すこと」について言及してあるのならば、そのゲームのルールブックでは「勝利を目指すこと」を設定されていると判断する、というのが今回の記事を書くうえでの第一の基準です。
また、概略以外にも目的(Objective)ストーリー(Story)導入(Introduction)についても同じ扱いをします。その基準を満たすパートとして計数します。
建付けとして、目的については単純にゲームの目的を示しているので、ストーリーや導入についてはゴールとして勝利を設定して伝えているのならば制作者の側から明示されていると解釈出来るからです。それは概略と同じことですね。
まあ、細かい事を指摘するならばわざわざ「概略/目的/ストーリー/導入」と章題をつけてないこともあります。またストーリーや導入については世界観やフレーバーについての表現が強いものもあるかと思います。
②度合いを3つに分類する
今回は概略・目的・ストーリー・導入の記述について、3つの段階で分類していきたいと思います。
A.明記されている。
B.明記されてないがそう解釈できる記述である。
C.上記の記述が無い。
Aに関しては簡単です。具体的に「勝利をめざしましょう」等と書いてある場合はAに分類します。また、複合的にそう解釈出来る場合などは理由を示しつつAとして分類します。
Bに関しては勝利条件などが書いてあれば勝利することを示していると判断します。「概略/目的/ストーリー/導入」において勝利条件などを提示することはそのように解釈するのが妥当だと考えるからです。具体的には「勝利的んを一番多く獲得したプレイヤーが勝利します」などと書かれている様な記述の場合ですね。
また個別でそう解釈出来る記述であれば理由を示しつつ、このBに分類します。
Cに関してはAやCと判断出来るような記述が無い場合に分類します。また、表現としてフレーバーに寄りすぎていたり、システムを十全に説明しきれていない場合など、複合的にそう解釈出来る時は理由を示しつつCとして分類します。
③日本版ワンハンドレッド+からセレクト
とりあえず、調査する作品タイトルは日本版ワンハンドレッド2023年版からリストアップすることにしました。ただし全てのゲームを持っているわけではないので、確認出来る一部だけをと調査していきました。また、英語版ルールの公開があるものも一部セレクトしました。
日本版ワンハンドレッドだと重量級ゲームに偏る感じがあったので、一部はオールタイムベストと自他ともに言えるようなゲームでカードゲームと軽量・中量級ゲームを入れようと思います。
サンプル数は多い方が良いので、なるべく頑張りましたが面倒臭い作業なので「まあ、このタイトル数なら良いだろ」と個人的に思えるくらいにとどめました。
■先に結論
まず先に3つの分類の例を提示したいと思います。
■オルレアン A
オルレアンの「ゲームの目的」の章題ではしっかりと「ゲーム終了後に誰よりも多くの勝利点を獲得することがプレイの目的となります。」と書いてあります。
また、今回の記事では版の違いや和英の言語の違いや私訳の区別をつける事をしていません。基本的にボードゲームではその時与えられたルールでプレイするしかなく、必ず様々なバージョン違いのルールを確認することが必須ではないからです。
■ブラス:バーミンガム-B
ブラスバーミンガムでは「ゲームの目的」の章にて「最も多くの勝利点を獲得しているプレイヤーが勝利します」とあるのでBとしました。
先に説明した様に「目的/概要/ストーリー/導入」に勝利の条件等が示されている場合、それをするように明示していると解釈出来るからです。
■キャット・イン・ザ・ボックス C
キャット・イン・ザ・ボックスでは「目的/概要/ストーリー/導入」と判断出来る箇所に「どのようにしたら勝利するのか」が書かれていません。色々なゲームタイトルの「目的/概要/ストーリー/導入」をざっと見てきましたが、ここまで書いて無いのはあまりなかったです。
キャット・イン・ザ・ボックスの「目的/概要/ストーリー/導入」ではゲームで一番重要な「色が明記されておらず、手札からそのカードを出したときに宣言した色になります。」が説明されています。
キャット・イン・ザ・ボックスのデザイナーが「目的/概要/ストーリー/導入」のパートを重要視して記述している事がわかるかと思います。
■構成
A=6
B=25
C=6
合計=37
オルレアン A
ブラス:バーミンガム-B
キャット・イン・ザ・ボックス C
ブルゴーニュ B
アーク・ノヴァ 新たなる方舟 B
コンコルディア B
ダーウィンズ・ジャーニー B
バラージ A
アグリコラ A
オーディンの祝祭 B
テラミスティカ:ガイアプロジェクト B
グレート・ウェスタン・トレイル B
SCOUT A
モダンアート B
ザ・クルー 第9惑星の探索 B
ラミィキューブ B
ナナカードゲーム B
パンデミック A
アズール A
グランドオーストリアホテル B
アクワイア B
カタン C
エバーデール C
カヴェルナ:洞窟の農夫たち B
クランズ・オブ・カレドニア C
ロレンツォ・イル・マニーフィコ B
カーネギー B
チグリス・ユーフラテス B
オラニエンブルガー運河 B
チケット・トゥ・ライド B
ヌースフィヨルド B
レース・フォー・ザ・ギャラクシー B
村の人生 B
アルルの丘 B
ニムト C
ハゲタカのえじき C
プエルトリコ B
■結論として
というわけで「勝利を目指すこと」を明示しているのAが6タイトル、明記されていないがそう解釈できる記述であるBが25タイトル、そのような記述が無いと解釈できるCが6タイトルという集計になりました。ちなみに総数は37タイトル。
それぞれのタイトルの中には解釈上それに分類出来るというものもあります。
例えばカードゲームのスカウトについては「多くの得点を稼ぎましょう」と「合計得点が一番多い人が勝者です」の両方の記述からAに分類しています。つまり「多くの得点を稼いで勝者になりましょう」と複合的に伝えていると解釈しています。
分析的に語ればAとBのタイトル数においては、ゲームにおいて重要な要素である「勝利を目指すこと」をルール冒頭の「概略/目的/ストーリー/導入」で提示はするけれど、直接的に「プレイヤーは勝利を目指してください」とまで書いてあるものは少なかったという事になります。
AとBの分量としては総数から大きい割合を占めているので「勝利を目指すこと」が多くのボードゲームのルールでは伝えていると言えるでしょう。
「勝利を目指すこと」が多くのボードゲームのルールでは伝えている
この記事の出発点は「勝利を目指すこと」がボードゲームのルールでは決められていないと言われるが、本当にそうなのだろうか?という所だったので、これが私が出した結論です。
先に説明した通り、どの程度の熱量で「勝利を目指す」のか(長考やキングメイヤーや嫌がらの実行など)などはまた別のレイヤーの問題としています。インストに置いてインスト者が「皆んな勝利を目指してください」とは言わない事も同様で別レイヤーの話となります。それぞれの問題については必要を感じるなら別で論じるべきことかと思います。
以前にも書いたことがありますが、ボードゲームにおいては「勝利を目指すこと」はゲームをプレイしていくうえでの重要なことだと思っています。ゲームデザインの多くは「勝利を目指すこと」を前提に作り上げられていると考えています。
その中でボードゲーマーの多くに「勝利を目指すこと」が多くのボードゲームのルールでは伝えていて、それがスタンダードな考え方なんだと認識してもらいたいと思い今回の記事を書きました。
ボードゲームのプレイでは自由な発想で行って良いのですが、そこには最低限の「勝利を目指して」の重石があることを知ってもらえると、と思っています。
■その他タイトルの詳細
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