見出し画像

『ツイクストをめぐる冒険』#4 ツイクスト上級者の「思考の省略」と「手筋」

■はじめに

前回の記事はツイクストの初心者がおぼえておくと良い戦術を説明しました。今回は、戦術の説明というよりも、ツイクストの上級者がどんな風にツイクストとを眺めているのかを「思考の省略」と「手筋」という言葉を軸に伝えて行きたいと思います。

前半パートでは「思考の省略」と「手筋」がどういうものなのかを説明していき、後半のパートでは実際にどういうツイクストの「手筋」のパターンを「思考の省略」としてしまい込んでいるのかを棋譜図を使って説明したいと思います。

なお、後半部分については日本ツイクスト協会の「ツイクスト入門」で書かれてるような「こうなったら、こうなる」というような流れを、三間空きの防御に限定して説明しているだけだったりします。

また、このnoteのシリーズ「ツイクストをめぐる冒険」はアナログゲームマガジンの連載の一つでもあります。有料記事については一月分500円でで他の執筆陣の記事も読める形となっています。今回は有料記事となります。

■思考の省略(前半パート)

将棋には「一手損角換わり」という言葉があるらしいです。この言葉の具体的な意味合いを実は知らなかったりします。知らないで書いているけれど、今回の「思考の省略」という部分を説明するにはちょうどいいことだと思うので少し書いてみます。

画像1

将棋の角は斜めに移動し、両者の角は対角線上に配置されるので、その先の歩が移動してしまえば取る事が出来ます。そして、たとえ角で角を取れたとしても斜め先の銀などによって取られてしまいます。この一連の筋を「角換わり」という言葉が現しているのだろうと思っています。ほんとうにそういう意味なのかどうかはわからないけれど、今回言いたいのはこういった一連の筋を想像出来ることが「思考の省略」なのだということです。

このよくある両者の応酬をなんとなく覚えていて、実際のゲーム中に直面した時に引き出して考える。言ってみれば「経験値・則」とかそういったものとも言い換え出来て、そこまで大層なものではないかもしれません。

ツイクストの上級者もこういった「思考の省略」を行って、パターンを参考にして思考の足がかりにしたり、思考時間の短縮を行ったりしています。

先の回で説明したツイクストの基本形やシチョウなんかも「思考を省略」を利用したテクニックの一種と言えると思います。

■手筋

手筋とは、駒の働きを最大限に引き出す局所的な使い方のことです。歩にはじまり玉にいたるまで、それぞれの駒に特有の使い方があるだけでなく、いくつかの駒を組み合わせた手筋を使うことで高い効果を得られることがあります。

「思考の省略」をさらに将棋用語からとって「手筋」と表現しても良いかもしれません。ツイクストにおいてはどこまでが局所的なのか、最大限に引き出すという表現が適当なのか、という異なりそうな部分はありますがニュアンスとしては概ねあってるので「手筋」で良いかと思います。

今回の記事でのツイクストにおける「手筋」とは、手の応酬のパターンの流れであると定義して記しています。一応は、局所的と思える範囲の中で限定し、広く飛んだ場所などについては「手筋」のパターンの範囲外であるとしています。先に書いてあるようにどこまでが局所的なのかは判断の分かれるところです。

また、「手筋」はどちらかがあくまでパターンであり、こうしたら勝つ負けるというものではなく、勝ち負けについては開始位置や他ペグとの隣接(シチョウアタリなど)によって決まる、ある意味ニュートラルなものだと捉えて貰えればと思います。

さて、上級者は思考を省略するために「手筋」を覚えています。続く、後半パートでは「三間空きでの防御のパターン」を考えつく限り載せようと思うのでツイクストにおける「手筋」が具体的にどういうものか、その輪郭を伝えられればと思います。

■三間空き防御のその前に(後半パート始め)

ダウンロード

何故、三間空きで防御するのか?

例えば、黒の手に対して三間空き防御するとします。ですが、三間空き防御以外にも選択肢があります。上記だと直線上の手を書いてありますが、他にも左面側に配置することもできますし、直線上から1穴分だけ上下にずらしたりも出来ます。さらに、もっと別の離れた場所に布石を挿すことも考えられます。

つまり、黒に対して主要な選択肢だけで15~20くらいの防御の選択肢があったりします。今回は三間空きでの防御の手筋のパターンだけを説明していきますが、思い浮かんでいる15~20の選択肢の中での手筋のパターンもまた上級者にはある程度は頭の中に入っています。

つまり、簡単に言えば一つの選択の後には無数の手筋が存在します。ツリー構造の下にまたツリー構造が出来ると表現したら伝わり易いでしょうか。まあ、2人対戦ゲームは往々にしてそういう部分はあるので「今更何を言ってるんだ?」と思うかもしれません。

今回は無数の選択肢の中からとりあえず三間空きで防御した手を選んだという形です。三間空きはポピュラーといえばポピュラーなので選択した理由としてはそこかもしれません。

■ナナメ二間の手筋

ダウンロード (1)

ちなみに、基本形での名前は三間ビラキと言いますが、今回は基本形を作っているわけではないので三間空きと表現しています。実戦や、実戦後の検討での表現では「黒に対して三間で受ける」とか「三間で防御する」などと言ったりしますね。

ダウンロード (2)

ナナメ二間

三間の受けに対してナナメ二間で通ろうとするのがよくある対応手かと思います。基本形を使った一見とても強そうな手に見えます。

ダウンロード (4)

ハンマー攻撃

ナナメ二間に対して、白②と黒①に隣接させるハンマー攻撃をするのが応手のよくある形です。こうすると黒にとってはナナメ二間の基本形を繋ぐのか、右面側へとリンクを繋ぐのかの2択を迫られている感覚になります。

ダウンロード (3)

ナナメ二間の基本形を繋いだらこんな流れになるかと思います。黒は右辺へと入り込めずにシチョウで負けてしまっていますね。逆に、黒は繋がないで右辺へリンクを伸ばすこともありますがその場合はN9へと挿されて基本形を分断されてしまいます。

ダウンロード (5)

一歩下がる

こういう単体のペグを責められるた時(さらに、攻めてきたペグがリンクして回り込めない時)には一歩下がる手が有効です。

補足:手筋のパターンとは外れますが、例えばリンクせずに回り込める時は逆に下がらず前へ出るなど有効です。「一歩下がる」方向も感覚掴むのに少し時間かかる人が居ますが、ここではこれ以上は説明しません。

ダウンロード (6)

白は二回深く切り込み、広くなる

黒が一歩下がったあとの手筋はこんな感じ。白②で攻めたので白④と攻めておかないと意味がないかと思います。黒③と下がられて予想が違ったと思うなら、そもそも白②と攻めてはいけません。

白は二回深い角度で切り込み、その後は広い角度で進みます。結局、白はこの後のシチョウの流れでは白は上辺へと至れません。

では、次に白が左へと抜けていこうとする手筋を考えてみましょう。

ダウンロード (8)

左へと深く切り込もうとするとこうなりますね。わりと自明ですが慣れてないとこういった凡庸なミスをしてしまうことがあるので手筋のパターンとしておぼえておけば大丈夫です。ちなみに黒②としましたが角度を広げてL9とした方が黒の左辺への距離が伸びるので良いような気がします。

ダウンロード (9)

白①のあとに黒②のように繋げてしまえばシチョウの流れで白が上辺へと至れないのは伝わるかと思います。この後、白はシチョウを続けていけますが、それをうまく利用出来る布石がなければ意味がないでしょう。

ダウンロード (7)

黒①の場合は基本形の大ゲイマの形を作って白が上辺へ行くのをガードします。先程はシチョウを作る余地があったのですが、この形ではその余地すらありません。

ダウンロード (50)

一間で受けてみる

白①の様に一間で受けてみるという形もあるかと思います。とりあえず白①の左右を回り込もうとツケる手は黒②では白③、黒④では白⑤と対応出来ます。その他の黒の応手のパターンも後述の一間での防御の所で説明出来ていると思います。

今の所、このあたりまでがナナメ二間での手筋の流れです。では次は白のケイマ位置を黒が押さえた時の手筋を説明しましょう。

■ケイマ潰しの手筋

ダウンロード (10)

相手のケイマ位置で防御

黒が無理くり通りたいと思う時に使うのがこの位置かなと思います。白のリンク出来る場所に先に挿しておくケイマ潰しの形。この形は初心者の方はなかなか出さない形です。なぜかと言うと中央の黒とはいきなりは繋がらない形になるからです。

ただ、上級者はここまで近いと1手の差が生まれなければ繋がったようなものだと考えてこの手を挿します。実はそれぞれの手からリンクを張って基本形のコスミや一間ビラキが作れることが出来る距離なので、対応可能であることが多いです。

ダウンロード (11)

大ゲイマでの防御

このような形になった時によく使いそうなのが大ゲイマでの防御じゃないでしょうか。これでとりあえずは黒が右辺へと行く流れを押さえてるからです。

補足:白の進行を黒①で潰して、黒①の進行を白②と潰しているのが上記の流れです。こういう風に「相手のリンクの場所を潰す」という方法を取ると、また逆に「潰される」という流れが起きやすいのがツイクストです。自分が潰す手を挿したら、逆に潰す手で対応される事を念頭に置くと良いと思います。さらに、そういう時に基本形の大ゲイマも意識してください、大ゲイマはリンクの一つ向こう側にペグを挿す形です。つまり、潰された向こう側にペグを挿します。

ダウンロード (12)

大ゲイマでの裏取り

白②でリンク先が潰された場合、それでも通ろうとして黒③という風に大ゲイマを駆使して通ろうとしたりします。先の補足でも書きましたが、潰す流れでは潰される返しをされる事が多く、そこでは大ゲイマも他用されます。

ちなみに、白の後ろに回り込んで基本形を作るのでこういう形を「裏取り」と読んでいます。さらに言えば裏が有れば表もあるわけで、表に関しては後述します。

ダウンロード (13)

一歩下がって防御する

このように責められたら一歩下がって対処できるか考えてみます。今回は白④のように下がってみます。因みに、逆方法のS9に下がってしまうと負けてしまう手筋です(確認してみてください)。

このよう白④と下がると実は黒は基本形の大ゲイマの片方が切れてしまいます。片方が切れて対処を変えざるを得ないなら、そもそもその基本形を作るべきではないです。ということで今回は黒⑤という風に繋ぎます。

ダウンロード (14)

流れとしては白⑥と角度を付けて返し黒⑦となりますが、角度があるのでシチョウとなっても白は上辺へと至ることが出来る流れとなりました。

ここから先は

5,318字 / 29画像
7人以上のライターが月に1本以上、書いています。是非、チェックしてください。

アナログゲームマガジン

¥500 / 月 初月無料

あなたの世界を広げる『アナログゲームマガジン』は月額500円(初月無料)のサブスクリプション型ウェブマガジンです。 ボードゲーム、マーダー…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?