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『塊魂』のために強くなりたい

 塊魂というゲームが小さい頃から大好きでしょうがない。シンプルなゲームシステム、ポップでサイケなCGデザイン、クセになるBGMたち、荒唐無稽なストーリー。もうなんか全部が好きである。

 父がゲーム関連の仕事をしている関係で、物心ついた頃には家にゲームがたくさんあった。ラインナップはどちらかというとハードめ。CERO  C以上のものが大半を占めていた。5歳児にとってCEROは絶対である。ゲームにしろおもちゃにしろ、対象年齢に適合しないモノを利用すると普通に警察に捕まると思っていた。

 私はおませな5歳児だったから、DSの楽しさは否定しないけど、そんなもんで遊ぶのはガキくさいと思っていた。テレビに繋いでコントローラーをガチャガチャやる大人のゲーム(要はPS2)がやりたかった。ただ、私はおませな5歳児だったが、8頭身のゴツい男が鉄砲バンバン撃ってるゲームはあまりにオトナすぎた。怖いじゃないの、血とか出るし……。

 そんな中にあった数少ないCERO  Aのゲームが『塊魂』であった。

 パッケージ、可愛い〜〜。家にあるゲームがことごとく

 こんな雰囲気だったんで圧倒的に平和で可愛かった。牛が親子で草食ってんのよ、虹掛かってんのよ?空も綺麗だし何も燃えてない。二酸化炭素の発生量で考えてよ、圧倒的すぎるのよ。

 平和で牧歌的なパッケージに惹かれてプレイを決めた。ちっちゃい爪でちょっと堅いパッケージをこじ開ける。指紋をつけないよう注意深くディスクの淵を持って、ゲーム機に挿入する。やっと大人のゲームができる。胸を高鳴らせながらコントローラーを握ってソファに座っ

は?

 頭がグチャグチャである。世界が終わる3日前のNHK教育みたいな映像が何の説明も無しに始まったわけだから、世界が終わるのかと思っても仕方がなかろう。このゲーム、進めど進めど一貫してこのテンションでやってくる。よく言えばユーモラス、悪く言えばキマっていた。

 呆然としているとこれまた奇妙なBGMとともにチュートリアルが始まる。

 プレイヤーが操作するのは王子という名前のおおよそ2、3センチのみどりでカワイイ奴。声がちっさいらしい。で、王子もといプレイヤーは、その父親である大コスモの王様(最低で体長が3㎞を越えるそうだ。デッカくてダンディーですね。)が酔っ払って宇宙の星々をぶっ壊しまくった尻拭いをせにゃならんらしい。要は星を作り直すってことらしい。へぇ。

 で、どうやって星を作るのかというと、「塊」とかいう悪ふざけみたいな色したイボ付きの玉を転がし、雪だるまみたく物体をくっつけてゆき、ある程度大きくしたものを天高く放り投げると作れるとのこと。なんか、地球人が考えてる過程とか全部、もう全部ないらしい。超新星爆発とかはなんか全部嘘?なんだと思います。というわけで、王子は物体が多いと話題の地球に派遣され、王様の命令に従って星の素になる「塊」を作る。そうやって星空を復興するのがこのゲームの目的である。

 ゲーム性のミソは「塊にくっつくのは塊自身の大きさ以下のものに限る」という点。制限時間7分で10cmの塊を3mまで大きくしろ!みたいなお題が出るんだが、初めはその辺に落ちてる消しゴムとかをくっつけて、地道に1センチ単位くらいで大きくしていくしかない。しかし、まさに雪だるま式に巻き込めるものも大きくなってくるので、だんだん大きい単位で大きくできるようになってくる。人とかビルとかも巻き込めちゃう。パッケージに描いてるみたいな塊ができちゃう。これが気持ちよい。シンプルかつロマン。 文章にするとわかりづらいが、実際の動きとして見ると非常にわかりやすいシステムである。5歳のマセガキにも理解できた。

 CGのデザインもパステルカラー調でポップ。ポリゴンのカクつきが活きるデフォルメの効いた世界観は、5歳児的に没入しやすかった。あまり難しい操作はない、少なくとも前進さえできればプレイはできるのだから、スティックをガチャガチャ動かせば結構なんとかなるのだ。わぁ楽しい…………………………。

 気持ち悪い。

1時間くらいプレイした頃である。具合が悪くなってきた。頭が重くなって、内臓に不快感が詰まりはじめる。なんならちょっと吐きそうですらあった。なんでだ。麻雀牌とミカンと赤黒ルーレットの混在するコタツの天板があまりに理解出来なかったからか?結構大きくしたつもりの塊が王様に36点と言われたショックか?それとも時折挟まる謎の地球人ファミリーの劇中劇の元ネタわからなさか?いや違う、これは……

これは罰かもしれない。 

 怒られているのかもしれない。天の神様に。CEROを決めている人に。いくら全年齢対象といっても流石に5歳は幼すぎたのかもしれない。未就学児はやっぱりPS2やっちゃダメだったのかな。だってこの症状には覚えがある。お父さんがやっていたゲームを横からぼうっと眺めていた時も同じ感じがしたのだ。こうなるから、だからやっぱり子供はDSで遊んでいるべきだったのだ。下手に背伸びして大人のゲームなんかやるから……。

 だが私は抗った。その日はプレイを中止したが、その後日も塊魂をプレイし続けた。ただし45分くらいやる頃にはなんだかキモチワルくなってきて、必然的に「ゲームは1日1時間」を守る羽目になっていた。無理をすると吐くのだ。仕方があるまい。

 まあ言ってしまえば、ただの3D酔いである。かなり画面がグリグリ動くので3D酔いした。元々ドライブには酔い止め必須、ブランコに5分乗って気持ち悪くなるような人間である。逆によく1時間も持ったものだ。ゲームの楽しさで麻痺していたのかもしれない。ちなみにこの事実に気がついたのは16歳の頃であったので、私は3D酔いを知るまでの11年間、この具合の悪さを「大人になれない故の罰」だと思い込み続けていた。

 父もすっかりこのゲームのファンになってしまって、第2作、3作…と新作が出るたびに買ってきた。全作品、結構な年数を跨ぎながらプレイしたのだが、やっぱり1時間以上やると具合が悪くなってきたので、やはり自分がまだ子供であることを痛感した。第5作目の『塊魂TRIBUTE』まではプレイした覚えがある。1時間やるたびに、3時間くらいは横になる宿命を負ってなお。

 21歳になった。初めて塊魂をやってから16年が経った。あの頃最先端だった大人のゲーム機のPS2はその3年後には捨てられて、今はPS5の予約に四苦八苦している。最後に塊魂をやったのはおそらく10年前くらいだろうか。そこから3回ずつ卒業式と入学式をやるくらいの月日は経ったわけだけど、私は少しくらい大人になれただろうか。

 そういえばこの前、Nintendo Switchで初代塊魂のリメイク版が出たらしい。やってみようかなと思っている。ただまだ購入には踏み切れていない。今度こそちゃんとプレイできるかが怖くて、どうにも二の足を踏んでしまう。Switchの小さい画面なら3D酔いはマシだろうが、Splatoon2もあんまり長いこと遊んでられなかった記憶がある。

 『塊魂』のためにもっと強くなりたい。CEROとゲームの神様に怒られないような、三半規管の強い大人に。塊魂を3時間ぶっ続けで遊べるような、強くてステキな本当の大人に。

#全力で推したいゲーム #塊魂

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