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新たな素材を、みんなで共に。株式会社カミーノが、PAPLUS®(パプラス)を作るまで

PAPLUS®(パプラス)は、植物由来成分99%以上の生分解性を有する新素材だ。
土に還るプラスチックであると同時に、製品を回収し、同じ製品にリサイクルするという、新たな循環を作り出す素材である。
そんな新たな循環を作り出していくPAPLUS®を開発した株式会社カミーノのお二人に、事業を始めた経緯を中心にお話をお聞きした。

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株式会社 カミーノのお二人。設立者で代表取締役社長の深澤 幸一郎さん(写真 左)と、取締役の鍵本 政彦さん(写真 右)。

深澤さんは大学卒業後、外務省に入省。退官後、日本企業の海外向けPRマーケティング会社を立ち上げる。その後、2015年に株式会社カミーノを設立。
鍵本さんは、大手アパレルメーカーを経て、独立。アパレル業界向けのコンサルティング会社を立ち上げる。その後、カミーノのビジョンに共感をし、事業に加わる。現在は同社の取締役である。

PAPLUS®の開発現場。

──今日は、カミーノさんがPAPLUS®を開発するに至った経緯を中心にお話をお聞きしていきたいと思います。よろしくお願いします。さっそくですが、こちらは開発段階の素材ですか。

深澤:そうですね。実は、PAPLUS®に使う植物由来の樹脂は、すごく癖がある素材です。まず、製品を作るにあたって、射出(しゃしゅつ)成形という金型を使った成形法を用います。樹脂を加熱して溶かし、金型に送り込んだ後、冷やすことで成形が完成するのです。PAPLUS®に使う樹脂は、水飴のようにドロドロとしているので、そのままだと金型になかなか流れない。表面が凹んじゃったり、金型の隅まで行き渡らなかったりします。

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何度もテストを繰り返した、開発の軌跡。

開発現場である工場から、植物由来の樹脂を使い、射出成形で硬いものを作るということは難易度が高く、大量生産ができないと何度も言われました。ですが、そこに窒素ガスを入れると、うまくいくようになりました。それは後述する技術顧問の小松道男さんが持っている技術でした。

加えて、開発に使う機械にコストがかかります。僕たちは時間やお金をふんだんに使える大手メーカーではないので、数時間単位の決められた枠でしか機械をお借りすることができません。なので、一回のテストの中で何をするのかを明確化、効率化をして開発を進めていきました。加えて、資金面では1年ごとに補助金を貰いながらの開発でしたので、少しずつステップを踏んでいくしかなかったのです。

──大変な努力があり、PAPLUS®は開発されていったのですね。鍵本さんはどういった経緯で、PAPLUS®の事業に加わったのですか?

鍵本:深澤さんとは、以前から共にFANO(ファーノ)というプロジェクトに関わっていました。広島の「原爆の子の像」に、世界中から贈られた折り鶴を再生紙として利用し、扇にすることでメッセージのあるプロダクトを生み出しています。

当時から、PAPLUS®の構想や開発の話は聞いていました。僕はずっとアパレル業界で、ブランドを作る仕事に携わっていたので、「たくさん作って、たくさん使い捨てる社会って、カッコ悪いよね」という価値観が、時代の流れになっていることを感じていました。そういった観点からPAPLUS®の必要性を感じたし、面白いと思った。それで、深澤さんと一緒にやってみましょう、ということになったのです。

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脳裏に焼き付いていた、プラスチックの山。

──深澤さんが、生分解性プラスチックの開発を始めようとしたきっかけは、どのようなものでしたか。

深澤: 外務省で勤務していた頃、外国人から「日本は好きなんだけど、過剰包装でプラスチックを、当たり前に使いすぎだよね」とよく言われていました。僕もそれにはすごく同感でした。加えて、途上国に勤務したことがあるのですが、海岸など多くの場所に使い捨てのプラスチックの山があり、そういった場所に貧困層の方が住んでいました。そういう景色を見ていて、使い捨てプラスチックに対して、良いイメージはなかった。プラスチックが無くなってほしいな、と思っていましたね。ですが、当時はまさか自分がこの問題に携わるとは、思っていませんでした。

外務省を退官後、今までの経験を生かして、日本の企業向けに海外展開をお手伝いするPRマーケティング会社を立ち上げました。様々な企業へコンサルティングに入っていく中で、自分の経験が生かせている実感がありました。ですが、途上国勤務で見た、あのプラスチックの山が自分の脳裏から離れなかった。ずっと気になっていたのです。気づくと、自分が日本のプラスチック問題に対して、何かできることはないかを考え始めていました。

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紙の可能性を探れば、
新たな素材を作ることができるかもしれない。

──そこから、プラスチック問題に対して、何かできることはないかと模索し始めたのですね。

深澤:そうですね。どのようなアプローチであれば、この問題を解決できるか調べていく中で、「そうだ、プラスチックに代わる物って、まずは紙だよね」と気づいたのです。紙の可能性を掘り下げれば、今プラスチックであることが当たり前な製品を、紙で作れるのではないかと考えたことが、はじまりです。

ですが、自分は全くの門外漢です。紙の業界にも、プラスチックの業界にもいたことがない。ですから、必死で様々な国や企業の事例を研究したり、素材や加工技術について勉強したりしましたね。勉強を進める中で、生分解性プラスチックの存在を知りました。それに紙を混ぜることができれば、ほぼ100%天然成分のプラスチックができるのではないかと考えました。

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同じ志を持つ、小松さんとの出会い。

──すごいですね。その構想が固まってきたのは、いつ頃の話ですか。

深澤:2017年ごろですね。そこから、「こういう構想なのですが、どう思いますか?」と大学の先生や研究者に聞いて歩きました。ところが「それは専門外だから」、「研究費いくら出してくれるの」などと相手にしてもらえなかった。

「夢に終わってしまうのか…」と見切りをつけようかと思っていたところ、フランスで生分解性プラスチックに関して講義をしている日本人がいることを、ふと思い出したのです。なぜ思い出したかというと、外務省時代の同僚がフランスで働いており、彼が勤務する領事館のFacebookページでその講義を紹介していて覚えていました。それが前述の、後に技術顧問となる小松道男さんです。そこで、小松さんのご専門を調べたら、まさに自分がやろうとしていることと一致していた。そこから、フランスに勤務している同僚に電話をして、紹介をお願いしました。

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──すごいモチベーションと行動力ですね。そこから、小松道夫さんが開発の技術顧問に就任されたのでしょうか。

深澤:小松さんと初めてお会いした時、プラスチックの問題で日本が酷評されることに対して、僕と同様に大きなもどかしさを感じていることが、すぐにわかりました。

特に、世界に比べて日本のバイオプラスチックへの関心が、著しく低いことを小松さんは、嘆いていました。日本は技術的にはもっとできるはずなのに、国がそれを推進しなかったと悔しい気持ちがあった。一方で僕は、外務省では様々な担当につきましたが、退官する直前は海外広報の担当でした。捕鯨問題や従軍慰安婦問題を日本の名誉を守る形で、海外に向けてどのように伝えるかを考えていました。日本に関する誤解を正しつつ、知られざる日本の価値や魅力をもっと知ってもらいたい。そのような想いを、外務省時代に強くすることになったのです。

つまり、僕と小松さんの共通認識として、プラスチック問題の解決策を、日本発という形でつくることができたら、日本の名誉挽回になるのではないか、という想いがあったのです。そのように同じ志を持つ、小松さんとの出会いがあり、製品の開発が始まっていきました。

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PAPLUS®への想いの集合体を、
成長させていきたい。

──全くの門外漢から、開発に挑んでいかれたお話をお聞かせいただいて、ありがとうございます。今回、タンブラーを発売するとのことですが、今後、PAPLUS®がどのようなブランドに成長してほしいとお考えですか。

鍵本:僕は、今までアパレル業界で、「ブランド」とは何なのか、ということを考えてきました。そういった話をすると、「ペルソナは、こんなタイプだ」などと送り手視点で語られることが多い。だけども、「このブランドって、こんなブランドだよね」という受け手の認識は、バラバラになるはずなのです。そこから受け手のいろんな声を集めていくと、ちょっとだけ重なる部分がある。その想いの集合体を作ることが、ブランドであるということだと思います。

──ブランドとは、「想いの集合体」。素敵な表現ですね。今後、PAPLUS®をどのような、受け手の想いの集合体にしていきたいとお考えですか。

鍵本:今、サステナブルを代表として、様々な問題が叫ばれている中でほとんどの人が、問題意識を持ってると思うのです。行動するかしないかの差はきっかけがあるか、ないかだと感じます。つくる責任、つかう責任という文脈の中で「物って、そんなにたくさんいらないよね。では、長く使いたい物って何なのか」と考えた時に、PAPLUS®が「あ、いいブランドだね」と感じて、一人一人が行動するきっかけになってほしい。

深澤:「ブランドとして」という視点を持っている鍵本さんが、パートナーとしていてくれることで、助かっていることがたくさんあります。これまでの開発でも様々な方に支えられて、ここまで来ましたが、これからも様々な方からのお力や、知恵をお借りして、PAPLUS®というブランドを成長させていきたいと思います。

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お話、ありがとうございました。
※会話中はマスクを装着しております。

聞き手・文 :大島 有貴
写真:唐 瑞鸿 (MSPG studio)

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