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六段の調べ

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高校に入学した平井清隆は、学校帰りに追われて負傷した女・シャシャテンを助ける。居候となった彼女の故国・瑞香は、かつて日本と交流があった不死鳥の住む国だという。疑いを持ちつつ瑞香と…
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#小説

六段の調べ 序 初段 一、傷のない女

 前から吹いてきた風にはためく赤い袴の裾を、女はさっと押さえた。長く伸びた黒髪をなびかせ…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 初段 二、不死鳥の国

前の話へ  頼みに応え、清隆は傷の消えていた女を自宅へ連れて行くことにした。なぜかついて…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 初段 三、我が祖国

前の話へ 序 初段 一話へ  シャシャテンが自宅に来て一夜が過ぎた。空き部屋だった和室は…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 初段 四、八重崎小町

前の話へ 序 初段 一話へ  天井から床までの高さがある窓を通して、校庭で昼休み中の生徒…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 初段 五、発覚

前の話へ 序 初段 一話へ  信に古書店街へ行こうと誘われた日の夜、清隆は帰宅してすぐ和…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 初段 六、敗者の姫

前の話へ 序 初段 一話へ 「……今、何と言った」  確認の意味を込めて、清隆は男に問う…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 二段 一、私のお気に入り

前の話へ 序・初段一話へ  日本に瑞香の資料は存在し得ないとシャシャテンは言っていた。なら、彼女は何か故国から持ち込んでいるだろうか。清隆は和室を探すべく階段を下りる中、居間で流れるオーボエの甘ったるい音を耳に留めた。妹が学校から持ってきた楽器を吹いているのだろう。そういえば彼女は、シャシャテンにオーボエを見せてやる約束をしていた。少し前はそれを忘れて居候に咎められていたが、今回はちゃんと果たせたようだ。  襖を開けてまず視界に捉えたのは、瑞香にいたころからシャシャテンが

六段の調べ 序 二段 二、若きピアニストの悩み

前の話へ 序・初段一話へ  週末、北のもとへ向かうことが決まっていた清隆たちは、シャシャ…

芳更悠季
2年前
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六段の調べ 序 二段 三、鳥たちの神話

前の話へ 二段一話へ 序・初段一話へ 「ところで、この巻物に何が書いてあるか見てもいいか…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 二段 四、人知れぬ涙

前の話へ 二段一話へ 序・初段一話へ  オーディションへの練習を本格化させたのは良かった…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 二段 五、投身

前の話へ 二段一話へ 序・初段一話へ 『芽生書』が盗まれたと聞いたところで、自分にはどう…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 二段 六、君がため

前の話へ 二段一話へ 序・初段一話へ  北が川に身を投げた事件は、早速多くの報道で取り上…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 三段 一、楽園の異方者

前の話へ 序・初段一話へ  盗まれた『芽生書』発見の報告は、なかなか来なかった。七月末、…

芳更悠季
2年前

六段の調べ 序 三段 二、宮部玄

前の話へ 序・初段一話へ  屋敷の扉前では、何人かの門番がシャシャテンを見るなり頭を下げた。彼らの視線を受けながら、清隆は玄関で靴を脱ぐ。冷たい木張りの廊下には、山より吹く肌寒い風が吹き込んでくる。左右に並ぶ部屋は青竹で出来た簾――青簾によって中が見えない。突き当たりの部屋から女官と思しき人々が出てきて列を作り、シャシャテンに礼をした。彼女に続いて清隆たちが通り過ぎると、女官の多くはひそひそと声を立てる。それが陰口を言っているようにも聞こえ、清隆は密かに腹を立てた。 「そ