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人的資本経営にいちばん必要な要素は?

経営を続けてきてつらかったことは?

先日ふとそんな質問をされたので、これまでの会社経営を思い返していました。けれど、実はあんまりなかったんです、つらかったこと。

もちろん、過去のnoteにも書いていますが創業当時はそれなりに大変ではありました。起業したての頃はご多分に漏れず資金がなく、なんとかかき集めた1000万円と金融公庫から創業融資で借り入れた2000万円で1棟目の不動産を購入。したものの、計画通りには売却できず、創業半年で資金ショートの危機にもあいました。

けれど、9期目の終わりが見えつつある現在。大きな波乱もなく少しずつ組織は拡大し、取り扱う物件規模も数も大きくなり、いまのところは順調に進んでいると感じています。

ただ、不動産開発という職業柄、金融機関からの借入はどんどん大きくなり、経営者保証の額もそれに応じて膨れていくので「もし事業が傾いたときは…」と想像するとたまにゾッとすることはあります。不動産開発の特性上、物件の仕入れから開発・販売まではプロジェクトの規模にもよりますが1年を超えることが多く、その間に市況が変わってしまい当初の事業計画通りに売れないリスクは常につきまといます。

とはいえ、事業内容や規模の大小に関わらず「事業が停滞していること」の方が怖いと考える経営者の方も多いのではないでしょうか。僕はそうです。金銭的なリスクを恐れすぎると新しいチャレンジができず、事業も会社も成長もせず、時代の波にのまれていってしまう。

だからむしろ今は「できるだけ融資を取り付けて新しい投資を積極的に行う」ことこそが、経営者である僕の役割であり、腕の見せ所だと思うようになりました。

これから積極的に投資していきたいのは「人」

今年6月から10期目を迎える今村不動産。事業は軌道に乗り、次のフェーズへと進むいま、積極的に投資すべきは人。現在進行形ではありますが、会社としてアクセルを踏み込んで成長を目指す10期に向けて、採用活動に力を入れていっています。自社の採用サイトも新しくリニューアルを行っている最中です。

企業の将来発展に向けて、事業展開と両輪で考える必要がある採用計画。それが今回のnoteのテーマで、自分に対する忘備録でもあります。

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人は資源から資本へ

出所:三菱総合研究所

近頃「人的資本経営」という言葉をよく耳にするようになりました。大手企業4000社に限ってですが、2023年から「人的資本開示」が義務化されたのは記憶に新しいところです。(三菱総合研究所のまとめがわかりやすかったので引用させていただいています)

日本で人的資本経営が注目されるようになったのは、経産省が2020年に発表した「人材版伊藤レポート」で、人的資本経営の重要性が強調されたころからでしょうか。

人的資本という言葉に一貫した定義はありませんが、経産省の言葉を借りるならば「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」となります。

ひらたく言えば人も適正な投資を行えば、物質資本と同じように資産となり得ると言う考え方。これまで企業は従業員のことを人的資源(コスト)と捉えていましたが、人的資本(投資)として扱うように認識が変わりつつあるということです。

思い返せばリーマンショック以前はまだまだ世界的に見ても金融資本中心の価値観が中心でしたが、その倒産を受けて企業としても目先の利益追求ではなく、社会に対する価値提供や持続性が問われるようになりました。

また、最近で言うとESG投資やSDGsの考えが市場に浸透してきたこともあって「多様性の尊重」や「エンゲージメント」なんて言葉もよく耳にするようになったと思います。加えて、新型コロナの影響はやはり大きく、その前後で社会全体で働き方に対する価値観もずいぶんと変わりました。

さらに、日本の人手不足は現在進行形で深刻な社会問題です。少子高齢化はとまることはなく、女性の社会進出が問題視されていたのも過去の話。既に7割以上の女性が何らかの形で働いているという統計データもあります。こうなってくると、企業としてはいかに生産性を高めるか、つまり人の「量」を増やすのではなく「質」を高めないと生き残れないことは明らかです。

そんなこれからの時代に向けて、僕たち今村不動産として組織体制や人材採用・育成をどう捉え、経営戦略を描いていくか。これは、いままで積極的に投資を進めてきた物件開発への投資よりも難しい課題だと感じています。

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本当の意味で人への投資を考える


人的資本経営の核となるのは、人への投資をどう捉えるかだと思います。人への投資というと、どうもまだまだ「採用や育成に関わる費用」というイメージが強いかもしれませんが、それでは人的資源(コスト)の考え方となんら変わりません。

人に投資する → その人が成長する → 企業の利益があがる → 企業価値向上につながる

この流れを正しく理解しないと、本当の意味で人的資本経営として人に対する投資は行えないんだろうと思います。

先ほども引用した「人材版伊藤レポート」には、人的資本経営を実現するための「3P・5Fモデル」と呼ばれるフレームワークが登場します。

「3P」とは、「人材戦略を検討する際にどのような視点から俯瞰すべきか?」という視点(Perspectives)のことで、次の3つを挙げています。

視点1 経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営では経営戦略と表裏一体で人材戦略を考えることが求められます。経営陣主導のもと、経営戦略とのつながりを意識しながら、必要とする人材の確保に向けて具体的なアクションやKPIを検討することが必要です。

視点2 As is-To beギャップの定量把握
経営戦略と人材戦略を連動させるためには、現状(As is)と理想(To be)のギャップを可視化することも重要です。定量化することで、ギャップを作り出している問題点や課題を洗い出し、ギャップを埋めるように人材戦略の組み立て・見直しを繰り返すことで、経営戦略を実現へと導きます。

視点3 企業文化への定着
人事戦略には、実行した結果、企業文化として定着したかという視点も大事です。企業文化は、従業員との間で企業理念やパーパス(存在意義)、行動指針が共有されていることで醸成されます。そのため、人材戦略の実行プロセスでも理念やパーパスを意識することは非常に有効です。

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また「5F」は、業種を問わずいかなる企業でも共通して組み込むべき人材戦略の要素(Factors)です。人材版伊藤レポートでは。次の5項目を挙げています。

要素1 動的な人材ポートフォリオ
人材ポートフォリオはその人のスキルや経験、在籍部署や在籍期間など、人材を構成する内容を記したものです。つまり「動的な人材ポートフォリオ」とは、リアルタイムにポートフォリオを可視化できる状態を指しています。

リアルタイムな人材情報を活用することで、経営課題に必要なスキルや経験を活かした人材配置が可能になります。また、将来的な経営戦略の実現には、未来から現在へとさかのぼる形で、戦略的に人材を質・量の面から最適化・拡充させることもできます。

要素2 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
顧客ニーズが多様化し続ける昨今において、対応する人材にも幅広い経験・視点は欠かせません。多様な個性や経験を持った従業員がそれぞれを認め合い、個々の特性を活かした企業活動が行われる環境こそ、人的資本経営に望ましいと言えます。

要素3 リスキル・学び直し
顧客一人ひとりの多様な価値観に対応するためにも、従業員が新たなスキル習得や学び直しを行うことは重要です。人的資本経営では、従業員が自らのキャリアを見据えて学び直しができるよう、企業が自律的にキャリア構築を支援することが必要とされています。

要素4 従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントは、企業と従業員、従業員同士の信頼関係のもと醸成される、愛社精神や貢献意欲です。従業員が能力を充分に発揮するためには、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができるよう、環境を整備・提供することが求められます。人的資本経営では、結果としてそれが経営戦略の実現に直結すると考えます。

要素5 時間や場所にとらわれない働き方
在宅勤務やリモートワークなど、「いつでもどこでも働ける環境」は、今や事業継続の観点からも重要なポイントです。働き方に対する意識も多様化しており、より多くの従業員が様々な働き方を選択できるよう、業務プロセスや社内コミュニケーションのあり方、マネジメントなどを見直すことも人的資本経営には必要とされています。

文字にするとかなーり堅苦しくなります(当たり前のことを正しく長く書いているだけというと怒られそうですが)。僕なりに要約するなら

企業のミッションそして将来ビジョン達成に向けて「必要な人を採用」し、個々人の多様性を認めた「働きやすい環境を用意」し、自発的な学習=「自己成長を促す機会を設ける」ことで、最終的に企業成長につなげる。

ということかな…と解釈しています。また、重要なのは

・会社としての人的資本への投資に対する効果指標を持っておくこと
→企業の投資対象として行うからこそ、財務面などの定量化した指標や従業員意識などの定性情報

・とはいえ、短期的(たとえば1年で利益があがる)な効果を求めない
→個人の意識・能力の変化が成果となって企業の売り上げや利益率に現れるには時間がかかりそう

ことかもしれません。

これを会社として把握して運用するのは正直相当大変そうです…。

だからこそ、初めから完璧を求めるのではなく「会社として譲れないこと、大切にしたいこと」をこの機会に自分なりに再整理しようと思いました。

これまでの人材採用でも3Pの視点1と2に関しては意識的に取り組んできました。さらに5Sに関しても、できるかぎり働きやすい環境づくりを目指して制度やルール改善を進めてきたつもりです。もちろん今後も都度見直し続ける必要はありますが。

再確認したいのは
「視点3:企業文化への定着」と「要素3:リスキル・学び直し」

つまり、将来の今村不動産のために投資したいと思える人物像、採用の基準にする人となりです。

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僕たちが投資したい人は誰か


現在行っている採用サイトのリニューアルや、今後さらに力を入れていきたい採用活動、そこで求める人物像については専務とも議論を重ねています。主体性、向上心、挑戦、自分なりの価値観、知的好奇心…さまざまなワードが出てきました。サイトが出来上がりましたらまたご紹介させていただきます。

冒頭の話に戻って。これまでの会社経営を思い返して、つらかったことはあまりなかったと書きましたが、これは本当に僕が人に恵まれていたからだと思っています。

人ひとりが出来ることって、やっぱりたかがしれています。僕が約10年会社を続けてこれたのも、心から相談できる弟の専務がいて、長年今村不動産を支えてくれている助け合い成長できるメンバーがいて、協力してくださる会社や金融機関があって、お客様をご紹介いただける方がいる。そんな周りの方々のおかげで今があります。そこを過信して自分の実力だと勘違いすると、いつか絶対に足元をすくわれるだろうと自分に言い聞かせてきました。

困ったときに頭を下げられるか。大変なときに力を貸してもらえるか。

偏見やプライドを持たず、多様な価値観を認め、感謝を忘れず、相手に正面から向き合い、行動する。相手がいて、その人のために努力することが、結果的に自己成長につながるんだと思います。

「関わりのある人すべてを幸せにする」

今村不動産がかかげているビジョンも、そんな思いから生まれたものです。

いまは誰でも副業ができますし、フリーランスとして働く敷居もぐんと低くなりました。そんな時代だからこそ、人が集まることの意義、組織だからできることの価値は、これまで以上に大きくなると思います。

企業としての価値観を共有し、ともに成長を目指せる人。世の中に提案する内容を、組織のこれからを、より良くしようと本気で話し合える人と一緒に歩んでいきたい。

組織規模が3倍になってもきっと変わらない、僕の譲れない価値観です。

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