重くなく、軽やかで、柔らかく、老ねもない「惣誉酒造」(栃木県芳賀郡市貝町)訪問記
惣譽酒蔵のある場所
東京から新幹線で北に1時間、宇都宮から車で40分東へ。広い田園風景に、遠く日光連山を望む栃木県東部に惣譽の酒蔵は位置する。
地元栃木で生産量の8割が消費される、まさに栃木の「地酒」だ。
前ロットの完成度を常に超える、未来へ進む酒
「王道」とは「昔からの伝統を洗練させていくこと」「微生物を人間の叡智がコントロールするもの」。
「過去に戻りましょう」はカッコいいかもしれないが、惣誉は積み上げた技術を煉瓦を積むように重ねていく酒を目指している。
世界でも日本酒が造られるようになった今、日本酒が日本で造られる意味を考えて酒造りをしている惣譽。
訪問して感じた惣誉の哲学は、「重くなく軽やかで柔らかく老ねもない」
主軸のお酒は生酛がメインとなるが、「生酛」と聞くと濃厚で骨太な味わいをイメージする方もまだ多いと思うが、惣誉の生酛の特徴は「重くない」こと。むしろ「軽やかさ」さえ感じ、複数のヴィンテージをブレンドするので「柔らかく」、熟成しきった状態ではなく「適正に熟した」お酒をブレンドするので「老ね香」はない。
派手な酒質ではないが、飲み飽きしない球体のバランスが特徴のため、コアなファンが多くついている銘柄の一つでもある。
「美味しい」とは何もファーストインパクト重視ではなく、一口目でも三口目までも美味しいことが「美味しい」ということではないだろうか。
惣誉をたらしめている3要素
当主の話を伺う中で、惣誉を構成している要素が3つ存在した。
1〝兵庫県特A地区山田錦〟
2〝惣誉スタイルの生酛〟
3〝適熟の縦横調合〟
惣誉の3大要素
◾️兵庫県特A地区山田錦
惣誉は実は東日本でトップクラスに兵庫県特A地区の山田錦を使用している蔵(吉川、東条、社)。実は、普通酒から上級酒まで山田錦の全ての商品に特A地区の山田錦を使用していることに驚き。
その中でも吉川エリアの山田錦はもともと灘の酒蔵にしか卸していなかったところ、現当主の父の代から兵庫県の農家に通っており、特別にふんだんに扱えるようになった経緯がある。
惣譽の目指す柔らかく奥深い味わいを表現するのに最適な酒米となっている。
◾️惣誉スタイルの生酛「クリーン生酛」
惣譽の生酛はひと味違う。「軽やかで奥深い生酛」をきちんと味わいで実現している。生酛で透明感を表現するには衛生環境がとても重要になってくる。しかしその味わいの理由は酒母室を見れば氷解する。
半切り桶もステンレス、酒母タンクもホーロー、用具も煮沸消毒を行う。
余分な菌が介入しない生酛は惣譽ならではの「唯一無二の味わい」と言える。
◾️適塾の縦横調合
クラシック酵母で醸した生酛の山田錦を中心に、5度と10度で貯蔵させた「適熟」のお酒達を一つずつテイスティングしながら比率を決め、ブレンドしていく。
基本的に定番アイテムはシャンパーニュのようにヴィンテージの異なる複数のロットをブレンドし響き合わせる。よってブレはなく、常に安定したクオリティを表現している。オーケストラ的な複雑な奥行きがあるのは、このブレンドが惣譽の鍵となっているからだ。
そして新しいロットを造る時は「前ロットの完成度を超える」ことを常に目指している、未来へ進む酒。
どのアイテムを飲んでも絶対的な「惣誉」の味がするのはこの3つの要素が大きな要因となっている。
惣譽Tasting
蔵の見学を終え、定番アイテムの試飲に移った。
①惣譽 新・純米
香り柔らかく、ふわっと炊いた米の印象、うっすらメロン。アタックは美しい、滑らかでしなやかな味わいで、酸の輪郭がアクセント、中間から酸味と渋みがじわりと広がり、アフターの旨味の持続がある。13%の低アルコール。甘みや酸味にふった味わいではなく、バランスに優れた味わい。
②惣譽 生酛 特別純米 夢ささら
香りはより穀物的があり、ほのかにミルキーな要素がある。アタックは滑らかでコクのある旨味、中間は滑らかで綺麗、後口はキレがありながらも余韻に旨味が持続していく。
③惣譽 特別純米 辛口
落ち着いた香り、ナッツ、土壌の香りがあり、複雑な印象を持つ。
アタックは硬質的、味わいの要素が全てあり、中間は滑らかに繋がり、後口は余韻が長く続く。旨味がありながら、キレがあるので飲み飽きしない味わい。
④惣譽 生酛 特別純米
生酛100の特別純米。液体に粘性があり、香りは甘やかながら、複雑な印象の中に品のある香り。アタックはほぐれており、輪郭が柔らかく、滑らかな旨味。中間は複雑、後口はまろやかな中ビターな引き締まりがある。
↓ここから吉川産山田錦100%使用↓
⑤惣譽 生酛 純米吟醸
香りはしなやかで一気に洗練される。細身で穏やかな印象。
アタックは幾重にも重なる旨味、滑らかな質感と軽やかさが両立。
味わいの中間も細く、しなやかに繋がる。後口は丸く滑らかに続く。
合わせるのが難しい日本料理のお椀や握りの円の世界に重ねられる数少ない味わいに仕上がっている。
⑥惣譽 生酛 純米大吟醸
香りはここでもう一段の変化がある。香りはふわっと軽く、ハーバルな青いニュアンスが混じる。アタックは滑らかで綺麗な甘味が感じられる、ハリもあり若干の若々しさを感じる。中間は輪郭があり、シャープな苦渋がメリハリをつけている。後口は硬質的なキレがありながら丸みのある余韻が伸びていく。
温度が上がるとより完成度が高まる。どのお酒も冷やしすぎない方が良い。
⑦惣譽 生酛 純米大吟醸2017 帰一
「全ての物事は一に帰っていく」という意味の禅語から命名。吉川産35%の生酛を5年熟成させた単一タンク。香りは熟成のニュアンスを帯びているが、支配されていないまさに適熟。乾いた土などの印象。アタックはとろりと滑らかで一筆書きのようなしなやかさ。味わいは丸い甘味が広がる。中間の練れたまろやかな質感、後口まで長く続く球体のような余韻は、まさに惣譽の良さが詰まった味わい。
⑧惣譽 生酛 純米大吟醸 帰一 しずく
帰一のしずく取りバージョン。
香りがあきらかに綺麗に立つ。静かな印象。
アタックはふわっとエアリーで軽い、重心は上にある。
中間は滑らかで細い、酸の輪郭をまとい、後口は心地よい渋み。
余韻に栗のような甘味が持続する、素晴らしい仕上がり。
高額アイテムは華やかで甘味の強いお酒が多い中、あきらかに一線を画す、料理屋向けの味わい。
惣譽をまだ飲んだことのない方へ
今日本酒の流行りのお酒はフレッシュで華やかな香り、綺麗な甘みや目が覚めるような爽やかな酸を持つお酒など、様々な酒質が楽しめる時代となった。
ただ何かが流行るとその方向に全体が引っ張られてしまうことがある。
何を飲んでも同じような味わいで、違いがわからなくなるようなこともある中、今回ご紹介した「惣譽」はここでしか造ることのできないオンリーワンの味わいを創り上げている。
少しずつ日本酒の世界を歩んでいく内に、ある時ふっとこの味わいの凄さに気づくタイミングがきっと来る。
惣誉は進化を続けながらその時を待っている。
お酒が気になった方はこちらから。https://imadeya.co.jp/blogs/brewery/sohomare