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VR開発において極限まで「リアル」を追い求めた話

こんにちは!イマクリエイトエンジニア久保田です。
今回は、弊社のVRトレーニングの開発で僕が特に力を入れている「リアル化」について話をしていこうと思います。
なぜリアル化が大事なのか、また僕がそう思ったきっかけなどについて書いています。
ぜひ読んでみてください!


リアル化とは

そもそもリアル化とはどういったものなのか。
例えば、まだ現実に近い動きに設定していない野球ボールをVR内で壁に投げたとします。
そうすると当たり前ですが、自分の想像していた場所からずれた場所にボールが飛んで行って、壁にバウンドした後、自分が想像していた場所からずれた場所で止まってしまいます。
投げた人からすると、そのボールの挙動には「違和感」を感じると思います。
リアル化とはこの「違和感」を限りなくゼロにする作業だと思ってください。
さらに言えば、その分野に精通した人(先ほどの例でいうと野球ボールの動きを感覚的に知っている、野球選手など)がVR内で違和感を持たないレベルまでやることが最終目標です。
素人の人が持つ違和感は正しくない可能性があるので、プロの方から違和感を感じないということが重要になってきます。

リアル化の重要性

ここまで僕がリアル化にこだわる理由として、実際自分自身がリアル化を中途半端にすることで痛い目にあったということがありました。

弊社CTOの川崎さんが開発した「VRけん玉」(詳しくは上の記事)を僕の卒業論文でパワーアップさせる(詳しくは下の記事)ために開発を進めていた時、けん玉のふりけんという技をVR内でトレーニングするためのプロトタイプを開発してました。

ちなみにふりけんという技は下の動画の技で、けんを持って玉を1回転させてけん先に入れる技です。

開発を進めていきそれっぽい動きができるようになったので、実際にVR内でふりけんを何回かやってみることにしました。
最初は

なんかめちゃくちゃ違和感あるな

と思っていましたが、慣れてくるとVR内でも何回もふりけんが決まるようになりました。
これで成功だ!!やった!!
と思ってVRを外し、そのあと現実世界でもふりけんをやってみました。

すると、今までほぼ100発100中だったふりけんが5回中1回も決まりませんでした。
この時の僕の感覚としては現実のけん玉の動きのほうが違和感に感じてしまいました。

つまり、現実と違う動きをするけん玉をVR内で何回もやることによって、体がそのけん玉の動きに最適化されてしまっていたのです。その結果、VRのほうに体が慣れ、現実のけん玉の動きに違和感を覚えるというおかしな現象が起きてしまいました。

この現象にはとても驚かされ、また本気で焦りました。
VRで練習することで現実でも上達するトレーニングシステムを作っていたはずなのに、むしろ下手になるシステムになってしまってました。

こんなシステム絶対誰も使いません(笑)

リアルにするやり方

このように、中途半端にするとむしろ下手になってしまうリアル化。
少し専門的になりますが、いったいどのようなやり方でやっているのかというと

 1、現実と同じ現象をプログラミングしてVR内でできるようにする
 2、パラメータを調整してなるべくリアルに近づける

めちゃくちゃ簡単にまとめると上の2つです。さらに言うと主に「2」の部分が9割を占めています。
それぞれ何をやっているかというと、「1」の現実と同じ現象をプログラミングしてVR内でできるようにするは、例えば野球ボールだと、投げると飛んでいき、何かに当たると跳ね返る。
ゴルフだとクラブを振ってボールに当てるとボールが飛んでいく。
といった、現実だと当たり前のことをVRでもできるようにする仕組み作りの事です。

そして「2」のパラメータを調整してなるべくリアルに近づけるでは、その動きをよりリアル近づけるための作業です。
例えばゴルフの打ったらボールが飛ぶといった単純な動きでも、どのくらいの速さで、どの角度で打ったら、どのくらい飛んで、どれくらい曲がるのかなどをこちらで決めなければなりません。
なので、このパラメータを少しずつ調整していって、なるべくリアルに近づけていきます。
正直めちゃくちゃ地味です(笑)
ただ、このパラメータがほんの少しでも違うと僕のけん玉のように下手になるVRになってしまうので地味ですが一番重要な部分です。
この作業をひたすらやっていくとだんだんリアルに近づいていきます。

これまでやってきたリアル化

 けん玉のリアル化

けん玉では、主に紐の動きについてリアル化を行いました。
これは、最初に話した「ふりけん」という技が、紐の動きが重要になってくる技だからです。
また、この技をやるときは紐を引っ張った時の玉の重さの変化も重要になってくるので、細かいですが、紐の張力によって手で持っているコントローラーの振動の大きさを変化させて本当に紐で球を引っ張っているように思わせるようにしました。
その結果、現実のけん玉とVRけん玉の完全一致もできるようになりました。

 ゴルフのリアル化

ゴルフでは、玉の飛び方とクラブとボールの当たり方について特に力を入れました。クラブを早く振っても現実で当たる軌道ならVRでも球をすり抜けずにボールに当たるようにする。
また、ボールを打った時に、ちゃんと正しく現実と同じ方向、同じ距離に球が飛び出すように微調整を繰り返してつくりました。
動画の52秒からVR内でボールが飛んでいる映像を見ることができます。

 溶接のリアル化

溶接の場合、「溶融プール」「ビード」と言われるところが重要になってくるので、そこをいかにリアルにできるかが肝でした。

ちなみに溶融プールとは、下の動画(5分40秒辺り)でいうとオレンジで光っているところで、金属が解けてオレンジ色になっています。そしてそれが固まったところが鼠色のビードです。溶融プールと同じ幅にビードが出来上がっていくので、職人の人たちは溶融プールを集中して見ています。なので開発としては溶融プールが現実のように動き、なおかつ溶融プールと同じ幅でビードを出してあげないといけませんでした。

けん玉、VRと違って普段なじみのない分野なので苦労しましたが、何とか金属が溶け、液体のようになった溶融プール、そして溶融プールと同じ幅で出現するビードを作ることができました。

アーク(レベル3たて、溶接中)2

よりリアルを求めて

色々と「リアル化」について書いていきましたが、リアル化は少しのずれも許されない作業なので、毎回少しずつパラメータを変えては確認しての繰り返しになります。
一見地味な作業ですが、少しでも現実とずれてしまうとトレーニングにならず、むしろ下手になってしまうということを身をもって経験した僕だからこそ、この仕事にやりがいを覚えています
これからもよりリアルでよりトレーニング効果の高まる物を作り続けていくのでご期待ください。

#VR #バーチャル #けん玉 #ゴルフ #溶接 #スタートアップ #リアル化

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