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頑張りすぎない働き方「Quiet Quitting(静かな退職)」

※本記事は2023年1月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。


「Quiet Quitting(静かな退職)」とは

2022年にアメリカでトレンドワードになった「Quiet Quitting」をご存知でしょうか?
日本語にすると「静かな退職」ですが、実際に仕事を辞めるのではなく、会社に在籍したまま、雇用契約書に記載された自分の担当業務の範囲内で、クビにならない程度に働き、必要以上に一生懸命働くのを止めることを言います。

ハッスル・カルチャー(がむしゃらに仕事を頑張る文化)を止める

考えてみれば私たちは、入社前の面接で「数年後になりたい姿」を聞かれ、入社後には上司との面談で、「キャリア目標」や「どのように成長していきたいか」を確認されます。ほとんどの人は、仕事において一生懸命働いて成長することが当たり前だと考えています。

そんな現代社会において、静かな退職者(Quiet Quitter)は、仕事上でのやりがいや成長を求めずに、プライベートと仕事をきっちり線引きしたいと考え、成果をあげるために残業して身を粉にして働くことはせずに、自分の働きに見合った給与をもらえれば、それでいいと言います。

コロナ禍下で広まった「仕事は人生のすべてではなく、一部に過ぎない」という考え方であり、個人としての幸福を仕事のために犠牲にすることをしないワークライフバランスのとれた働き方を求める声です。

アメリカのギャラップ社が2022年9月に発表した調査によると、アメリカの労働者のうち少なくとも半分は「Quiet Quitting」をしている可能性があると言います。

Quiet Quitting。日本ではまだあまり聞かないから他人事でしょうか?
実はそうとは言い切れないのです。

同じくギャラップが2022年に実施した世界各国の従業員調査「State of the Global Workplace 2022 Report」によると、日本で仕事や会社に対し熱意を持つ人はわずか5%で、アメリカの35%と比べるとかなり低い結果となっています。アメリカよりも日本の方が、仕事に熱意を持たず、言われたことを淡々とこなすQuiet Quitterが多くいる可能性があるかもしれません。

テレワークが悪いのか?

Quiet Quittingが話題になったのと同じ時期(2022年の第一、第二四半期)に、アメリカで労働生産性が大幅に下がっていたことが、アメリカ政府の定期調査の結果(*3)で明らかになりました。この生産性低下は、同調査が始まった1947年以降、過去最大の低下水準だと言われ、注目が集まっています。

これを受け、在宅勤務を止めて、社員をオフィスに戻そうとしている経営者たちは、こぞって「Quiet Quitting」と「仕事の生産性低下」をテレワークのせいだと言い始めました。

しかし果たして本当に、これらはテレワークがもたらした弊害なのでしょうか?

ご存知のように、テレワークは新型コロナウイルスの流行に伴い、2020年のはじめに一気に世界中で広がりました。多くの企業は、十分な検討や準備の時間を持てない中、感染症対策の目的で、すぐさま在宅勤務を始めなければならない状態だったであろうと推察します。

もしもテレワークが、2022年上半期に起こったQuiet Quittingのブームと、大幅な労働生産性低下の原因なのであれば、本来それらはテレワークが始まった2020年のはじめに起こっていたのではないでしょうか?
そして、オフィス回帰が始まり、多くの社員が出社勤務を再開した2021年末から2022年にかけて、在宅勤務が減った分、生産性は上がっているはずです。

しかし、実際にはアメリカでは逆のことが起こっていました。
感染症対策のためにオフィスが閉められ、多くの社員が在宅勤務を始めた2020年4月〜6月の時期に、アメリカの労働生産性は急激に上がり、そこから2021年末まで上昇を続けていました。それが、2022年に入って、企業が社員に出社を強制するようになった途端、急激に下がっています。

Quiet Quitting、生産性低下の真の原因

会社が社員に対し、在宅勤務を止めてオフィス勤務を再開するよう求めるようになってから労働生産性が著しく下がった調査結果を鑑みると、オフィス回帰志向が社員の生産性低下につながっていると考えることは自然です。

新型コロナウイルス流行よりずっと前の2013年に、スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が、中国の上海にあるナスダック上場企業Ctrip社(従業員数16,000人の大手旅行会社)のコールセンターで、9か月に渡って行った実験では、在宅勤務により社員の生産性およびエンゲージメントが向上するという結果が出ています。

スタンフォード大学によるCtrip社での実験結果
テレワーク勤務の場合・・・
・パフォーマンスが13%向上
・オフィス勤務時より9%働く時間が増加(休憩時間の短縮・病欠の減少)
・1分あたりの電話対応数が4%向上(オフィスより静かな環境で働く効果)
・従業員満足度が向上
・退職率が低下

https://www.nber.org/system/files/working_papers/w18871/w18871.pdf

またアメリカの独立系調査機関であるIntegrated Benefits Institute(IBI)が2022年10月に行った調査でも、フルリモートあるいはハイブリッドワークで働く社員は、完全出社のオフィス勤務の社員よりも生産性および会社へのエンゲージメントが高いという結果があります。

IBIによる調査結果
 ・労働生産性が 22%高い
 ・従業員満足度が20%高い
 ・会社へのエンゲージメントが 50%高い

https://www.prnewswire.com/news-releases/remote-and-hybrid-employees-report-improved-productivity-satisfaction-and-engagement-according-to-ibi-analysis-301655030.html

こうして見てみると、テレワークで生産性の高い仕事をしている社員を強制的にフルタイム出社させることが、社員の会社に対するエンゲージメントを下げる大きな要因の一つだと結論付けてもよいでしょう。

社員の労働生産性は、会社へのエンゲージメントと比例して下がる傾向があるため、先に見た労働生産性の低下とQuiet Quittingに関連があると言っても納得がいきます。

まとめ

これまで見てきたように、テレワークを止めてフルタイムのオフィス勤務に戻すオフィス回帰の動きは、社員の会社に対するエンゲージメントを下げ、Quiet Quittingを引き起こす要因のひとつになります。Quiet Quittingを防ぐためには、今後もハイブリッドワークを継続し、働き方のフレキシビリティを担保することが有効です。

次回の記事では、ハイブリッドワークのベストプラクティスをご紹介します。ご期待ください!

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