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「誰もが生きやすい社会を」ビッグイシュー基金 川上翔さん

ビッグイシュー基金でのホームレス支援を通して、誰もが生きやすい社会を創るために日々奔走されている川上翔さん。その取組みへの想いを伺いました。

プロフィール
出身地:兵庫県伊丹市
活動地域:大阪
経歴:
1992年生まれ。関西大学社会学部卒。大学在学中に途上国での家建築ボランティアやビッグイシュー基金でのインターンを経て、2015年より現職。
主に、ホームレス当事者の就業応援やスポーツプログラムを担当。ホームレスやひきこもりの経験者、LGBTや依存症の当事者など、多様な背景をもつ人が参加するフットサル大会「ダイバーシティカップ」の関西での企画・運営も行う。
現在の職業及び活動:
認定NPO法人ビッグイシュー基金 プログラム・コーディネーター

Q:ホームレス支援の活動を通して、どのような夢やビジョンをお持ちですか?

川上翔さん(以下、川上) いろんな人が生きやすい社会、ホームレスの人に限らず、いろんな人がやりたいな、頑張りたいなと思ったときに選択肢が十分にある社会になったらいいと思います。
私たちはホームレスの人の自立を応援していますが、「自立」といったときに一番重要なのは自己選択・自己決定だと考えています。だから、究極ビッグイシュー(※)を販売したいと思わなかったら販売しなくていいですし、ホームレス状態であってもサッカーをしたっていい。
今はそういうことを自由に選べる社会のしくみになっていないように感じますが、自分で考えて選択できる環境があることが生きやすさに繋がっていくと思います。
※『ビッグイシュー日本版』とは、有限会社ビッグイシュー日本が発行する雑誌。ホームレス状態の人だけが販売することができ、1冊350円のうち180円が販売者の収入となる。

記者 本当はいろんな選択肢があるはずなのに、自分のことを自分で決められない不自由さが今の社会にはありますね。

川上 はい。僕は小学生の頃から野球をしていたのですが、周りには将来プロになるような上手い子たちがいっぱいいました。でも、野球の強豪校といわれる高校に行くと上手すぎていじめられたり、大学でも酷い体罰があったりして、野球をやめてしまう人も多いんです。それだけではなく、野球をやめたら学校もやめてしまって、結果的に地元に戻ってフリーターになった人もいます。周りの友人たちを見ていて、プロになれなかった途端に野球までやめてしまうことに違和感を覚えました。
日本のスポーツや体育もそうですけど、教育的な意義や競技的な意義を重視し過ぎていることが生きづらくさせる原因ではないでしょうか。上手い下手、勝ち負けを競う競技性の側面ではなく、人と人が繋がったり自分の人生を豊かにできるといった社会性の側面が広がっていくことが必要であると思います。

Q:誰もが生きやすい社会を実現するために、どのような目標や計画を立てておられますか?

川上 現在、ダイバーシティサッカーという取組みを行っています。
もともとは「ホームレスの人がサッカーをする」という活動だったのですが、次第にひきこもりの人や不登校の経験者、LGBT、精神疾患の人などホームレス以外の人も参加するようになりました。
そこから生まれたのが、毎年1、2回、関西と関東で開催するダイバーシティカップというフットサル大会です。各自のいろんな背景があるなかで、一旦その背景を置いて「サッカーをしようぜ!」というもので、言葉では言い表せないほど本当に楽しい場になっています。
今はまだ任意団体ですが、ビッグイシュー基金から独立して設立されたダイバーシティサッカー協会を通じて、大会の運営などをしていきたいと思っています。

記者 それぞれの背景を置いて対等に楽しめる場を広げていらっしゃるというのは、協会というよりもムーブメントに近いような感じですね。

川上 そうですね。ホームレス、LGBTやひきこもりというのは、その人の人格を決めるものではなく、あくまで状態のひとつです。おしゃべりな人もいればおとなしい人もいるし、細かい人もいればおおざっぱな人もいますが、どこか一括りにしてしまいがちです。
ダイバーシティサッカーでは、いろんな人たちがごちゃまぜになってサッカーを楽しんでいるわけですが、そうしていると、大変な思いをしているのは自分たちだけじゃないと感じられたり、お互いの多様性を認め合えて、社会に出る勇気をもらえたりといったことがあります。

Q:日々の活動で、心掛けておられることはありますか?

川上 目の前の相手にきちんと向き合うことです。
もともと自分がやりたいと思える仕事をしたい、自分が頑張ったら頑張った分だけ、ちょっとでもいいから良い社会になるような仕事をしたいと考えていました。それを実現できる仕事として、教員免許をとったり、メディア系の会社の面接を受けたりしましたが、どちらも自分には合わないかもしれないなと決めきれずにいました。
そんな時に私の話を一番聞いてくれたのが、ビッグイシュー誌の販売者です。当時はビッグイシュー基金でインターンをしていたのですが、教育実習が大変で、就職をどうするか悩んでいると相談したら、「悩んでもいいから、自分で納得できる進路を選べばいいよ。人生失敗することもあるけど、その時にまた頑張ったらええねんから」と親身になって話を聞いてくれたんです。
その時に、改めて、ホームレス状態の人のために自分がお手伝いできること、サポートできることを頑張りたいなと思いました。なんらかの要因でホームレス状態になってしまった人の力になることが、自分に対してきちんと向き合ってくれた販売者への恩返しになるのかなと思っています。

Q:ビッグイシュー基金で仕事をされるようになったのには、どのようなきっかけがありましたか?

川上 高校まで野球をしていたのですが、腰を怪我してしまって、最後の甲子園予選も含めて何か月も試合に出ることができずにいました。野球はもういいから大学では全然違うことをしようと思っていたときに、友達に誘われて入ったのが、途上国に行って家を建てるボランティアサークルです。
2回生の春休みにインドのデリーで活動していたときに、3.11の東日本大震災が起きました。関西に大きな被害はありませんでしたが、日本に帰ってきたときに、国内での活動も行う必要性を感じ、東北に行ってがれき撤去や家の掃除のボランティア、募金活動をしました。
その後、関西に戻りましたが、先進国や災害がない地域であっても、家がなくて困っている人はいるんじゃないだろうかとホームレスの人が目につくようになりました。

その当時ビッグイシューでボランティアをしていた先輩に誘われて、ホームレスの人と一緒にサッカーをしたことが、ビッグイシュー基金でインターンをすることになったきっかけです。
それまでホームレスの人に対して「かわいそう」とか「すごく困っていて自暴自棄になっている」といったイメージを持っていましたが、実際にサッカーに参加してみると、楽しく前向きに生きていらっしゃるなと感じたんです。もちろんシチュエーション的には大変な人もいらっしゃるけど、ただ家がない状態なだけで自分たちと変わらないな、そんなに身構える必要はないなと思うようになりました。
そのあと、留学先のオーストラリアでも、ビッグイシューのストリートサッカープログラムに参加して、ホームレスの人たちと一緒にプレーしたりイベントのお手伝いをしたりしました。それがとても楽しかったので、日本に帰ってからもインターンを続け、大学を卒業すると同時にビッグイシュー基金に就職しました。

記者 川上さんご自身も様々な体験経験の中で自己選択・自己決定を繰り返して人生を決めてこられたのですね。

Q:「自己選択・自己決定」が大事だと思われた背景には何がありますか?

川上 ビッグイシュー基金で働く前も何となく感じてはいたのですが、ビッグイシュー基金で大事にしていることがまさにそれだったんです。
ビッグイシューの販売にはベーシックなルールはありますが、ノルマもなく、どんな風に雑誌を仕入れて販売するかも全部販売者に考えていただいています。そういう風に考えてもらうことが、ホームレスの人にはもちろん、そうでない人にとっても自立の第一歩になるからです。
そう確信するに至ったのには、若くしてホームレスになったある販売者との出会いがありました。

その方は、なかなか実家を頼れる状況になくて、大阪で派遣の仕事をしながら生活しておられました。ところが、正社員になれるかもしれないというタイミングで派遣切りに合い、何もかもどうでもよくなって死のうとまで考えたそうです。そんな時に別のビッグイシューの販売者に誘われて、ご自身もビッグイシューの仕事をされるようになりました。
その後、都会に疲れたから田舎で農業をすることを決められたのですが、突然「農家になるのはやめる」と仰ったんです。理由を聞くと、フリースクールのバイトに誘われたのでそこに行こうと思っているということでした。
何があったのかさらに聞くと、ある日、平日の昼間に中学生が雑誌を買いに来たそうです。販売者が不思議に思って「学校行かんで大丈夫なん?」と聞くと、その中学生は実は不登校だったらしいのですが、「おっちゃんが毎日頑張って雑誌売ってるの見て、昼からでも学校行こうと思うようになった」と答えたそうです。
そのとき、販売者は社会の一員になれた気がしたそうです。

社会の一員になり、その結果、別のお客さんからフリースクールのバイトに誘われてその仕事に就きたいと思えるようになった。この販売者の姿を通して、人は誰にでも自分の人生を決める力や権利があると改めて思ったんです。
偶発的であったとしても、少しでも多く人生を選択できるチャンスを作っていきたいです。時々失敗することもあるし、結果的に間違った選択をしてしまうこともありますが、そういう時も相手を信じて応援していきたいと思っています。

Q:最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。

川上 よければ一緒にサッカーをしましょう!(笑)

記者 お話を伺って、人は誰でも社会のルールに縛られることなく自分の人生を切り開く力強さを秘めているんだなと感じました。
今日は貴重なお話をお聞かせくださり、本当にありがとうございました!

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【編集後記】
今回インタビューを担当させていただいた大村・清水です。
個性・多様性が協調されがちな時代だからこそ、その個性・多様性が溶け合って一つになることを大切にされていることが伝わってきました。
後日サッカーの練習に参加させていただきましたが、自然と一体感が生まれるとても楽しい場でした。みなさんもぜひ参加されてみてくださいね。
今後のご活躍を期待しています。

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。


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