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天然とらふぐ「福とら」の知名度向上を目指して(福島県相馬市)

近年、福島県相馬市では、ふぐの王様と言われるほど食感の良さと旨みの深さが特長の「天然とらふぐ」の水揚げが急増しています。「人にまちに福を呼ぶ天然とらふぐ」として「福とら」と命名し、地域が一体となって新しい名物の認知度向上を目指しています。

公益社団法人 福島相双復興推進機構(以下、官民合同チーム)では、この新名物「福とら」の認知度を向上し、地域の新たなビジネスチャンスの結実に向け、地域の水産加工業者様のふぐ処理者資格の取得、商品開発、そして、販路開拓をご支援してきました。


1.ふぐ処理者資格取得に向けて

地域の水産加工事業者様は「福とら」の急激な水揚げ増加を目の当たりにして、付加価値の高い「福とら」の水産加工事業をビジネスチャンスと捉えつつも、 ふぐ処理者資格取得方法や業界・団体のルール整備に不安があり、新たな事業への進出を逡巡されていました。

福とらの認知度向上は地域復興においてもシンボリックな事案であり、官民合同チームとしても積極的に関わり、ご支援する意義は大きいと判断しました。

水産加工品の商品化を実現するには、まず、ふぐ処理者資格取得が欠かせません。官民合同チームでは、まず、必要な知識習得のため、学科試験対策、実技指導などの講習会を独自に企画・開催し、 事業者様の資格取得を支援しました。

【講習会の様子】

【学科試験に向けて】

学科試験に向けては、全国ふぐ連盟の全面的な支援をいただき、ふぐの取扱い等に関する法令、取扱文書、過去問などを参考書としてまとめ、受講者に配布し、全国他県の過去問をベースとした予想問題を作成の上、学科模擬試験も実施しました。

また、学科試験の他にも、可食ふぐの名称を判別する種類鑑別試験(3分間で5種類の実物ふぐの名前を答えるもの)があり、その対策として様々な種類のふぐを調達し、特徴の習得とともに、模擬試験を複数回実施して短時間で判別する訓練を実施しました。

受験者は、仲買業や加工業の本業で日々忙しい中、空き時間や週末を使って懸命に自己研鑽に励み、ときには受験者間で意見交換や合同で実技練習なども行い、地域の仲間で協力しながら知識と技術を磨き切磋琢磨してきました。

その結果、令和5年度試験においては7名の合格(福島県全体の合格者11名中)を実現することができました。

受験当日には、受講者から「学科試験も種類鑑別試験も予想問題が的中した」「官民さんのおかげで感触は良かった」「まずは急ぎお礼を言いたかった」と試験直後に受験会場から、お電話をいただきました。合否の確定前ではありましたが、受験者の努力や我々の支援が同時に報われた瞬間でもあり、担当者として非常に感慨深いものでした。

2.商品開発に向けて

ふぐ処理者資格の「合格」はあくまでも通過点です。続けて「福とら」の加工品事業開始に向けた準備に取り掛かりました。

まず、天然とらふぐの商品全般を知ってもらうことと、人的な交流を目的として、ふぐの本場である下関のふぐ加工事業者をマッチングし、相馬市の事業者による視察を企画しました。

セリ場や加工場の状況、市場販売の加工品ラインナップなどを視察し、ふぐ加工事業者との意見交換会も実施しました。

【下関市 南風泊市場視察の様子】

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見学のご対応をいただいた下関のふぐ加工事業者様と共に

視察では、夜中2時頃から南風泊市場の競りを見学し、その後、ふぐ加工場を見学、下関の事業者との意見交換を経て、唐戸市場で販売加工品調査を行い、昼12時までノンストップで眠い目を擦りながら視察を完遂しました。短期間でしたが、多くの気づきやインプットがある非常に貴重な機会となりました。

また、事業者とともに下関のふぐ料理店も訪れ、実際にふぐを食しながら、今後、商品開発で目指す味付けや商品設計、ふぐ加工事業のその先にある地域復興への強い思いを語り合いました。

事業者のふぐ加工事業による商機創出への大きな期待と、ふぐが呼び込む地域復興へのポテンシャルを改めて感じました。

この結果、商品設計のイメージアップができ、ふぐの身欠き(※)商品の実現に繋げることができました。
※ ふぐの身欠き:有毒部位を除去し、安心安全な可食部だけを取り分ける工程

商品開発において、今回官民合同チームとしては多くのインプットと商品化へのヒントをご提供することができましたが、吸収したノウハウをベースに、それらを用いた商品設計、品質管理、アイディアの具現化については、その後事業者が懸命に試作努力し、トライ&エラーを重ねた結果の賜物であり、浜通りの水産加工事業者の底力に感銘を受けました。

「背中を押す」、「橋渡しをする」、そして「事業者の強みを引き出す」。支援にはいろいろな形がありますが、今回の取り組みを通じて、我々官民合同チームが大切にすべき一つの支援スタンスを再認識した瞬間でもありました。

3.価格設定に向けて

相馬市では、ふぐの身欠き商品の前例がないため、価格設定にも不安がありました。そこで、官民合同チームの職員が豊洲市場の卸価格や築地市場での市場価格などをリサーチして情報提供しました。また、全国ふぐ連盟様とのヒアリングの場も設定し、ブランド価値向上を目的とした価格設定もご支援しました。

豊洲市場 仲卸売場
築地場外市場

4.実現した「福とら」の身欠き商品

こうした取り組みを通じて、現在、「てっさ」「から揚げ」「鍋セット」などの身欠き加工商品が開発され、販売されています。官民合同チームでは、ここで歩みを止めず、多くの方々に事業者の商品を手に取っていただけるよう、更なる販路拡大を目指して、現在進行形で鋭意取りんでいるところです。

てっさ
唐揚げ
鍋セット
身欠き

5.今後の展望

官民合同チームでは、令和4~5年度の二年間で累計で10名のふぐ処理者資格の合格者を輩出することができました。

ご支援している事業者は、生け簀をもつ方、加工業に特化した方など、その事業特性は様々です。それぞれの事業特徴を生かし、強み弱みを補完しながら地域で効率よく連携して、福島におけるふぐ産業の早期成熟化を目指してご支援を続けていきたいと思います。

また、令和6年度においては、トラフグだけでなく、様々な未利用魚・未活用魚についても、近年のSDGs思想を踏まえて、積極的な活用を推進したいと思います。

各事業者の強みを活かし、付加価値が高く経営力強化に繋がる商品開発を本格的に展開していくことを見込んでいます。

今年1月に開催された「ふくしまSDGs未来博」において、「海の豊かさを守ろう」、「つくる責任 つかう責任」を目指し、官民合同チームは未利用魚・未活用魚をテーマとして出展しましたので、あわせてご紹介します。

未利用魚・未活用魚の解説展示
未利用魚を使った加工品試食の様子

私たち官民合同チームは、個別の事業者支援を通じて、事業者同士の連携や地域における連携を深め、その先にある地域復興に貢献できるよう、引き続き全力で取り組んでまいります。




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