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英語学習に迫る影 ~ソレラ病からの脱出~

※お読みいただく前に※
 当記事に登場する「ゲンキュウ病」や「ソレラ病」といったあらゆる病名は架空のものであり、実在する疾病とは一切関係がありません。


 今回はnote公式お題『#仕事について話そう』にちなんで、特に春の時期にぼくが専念することになる仕事についてお話ししたい。それは英語学習で見かけることの多い、二つの病の治療である。

 ぼくはこの季節になると、英語の長文読解を不得手とする大学受験生に対し、英単語の"refer"と"they"に関して、次のような問答を繰り返す。

例1:
「この refer はどんな意味で使われているの?」
「"言及する"です」
「ところで"言及する"ってどうすること?」
「わかりません」

例2
「この they はどんな意味で使われているの?」
「"それら"です」
「"それら"とは具体的に何を指しているの?」
「わかりません」

 まず例1に関して。日本語を大切にした学習習慣を身につけてもらうため、ぼくはこのような質問をしつこいほどに繰り返す。意味の分からない言葉を知っていても、実際にはほとんど役に立たない。日本語を通じ、外国語として英語を学ぶためには、まず日本語を大切にしなければならない。

 ぼくは、『言及する』という日本語の意味をわからないままにしている学生の姿に注目し、この症状を『ゲンキュウ病』と呼ぶことにしている。"refer"以外にも、"consider:熟考する"、"otherwise:さもなければ"、などが急所になっている学生は非常に多い。

 ゲンキュウ病を患っている学生に対してぼくは、「及ぶとは、"ヒカキンの影響は小さな子供たちにまで及んでいる"なんて使い方で確認できるように、"何かがどこかまで達する"、ということ。つまり『言及する』とは、文字通り、発言内容がある事柄にまで触れる、ということなんだよ」という具合に、漢字の意味に注目した説明をすることにしている。

 さらに『及』という漢字について、『波及』とか『普及』といった別の用例を挙げて、それぞれの言葉の根っこには『何かがどこかまで達する』という意味が存在していることを確認する。これは、彼らが 後に to の機能を理解するための大きな助けとなるからである。

 また、例2のように、 they と見れば「ソレラ」と答えてしまう症状を、ぼくは『ソレラ病』と呼ぶことにしている。

 学習指導をする立場になり、あまりに多くの学生が、とにかく it を見ては「ソレ」、they を見ては「ソレラ」と日本語変換をして文章を読み進める姿を見てぼくは驚いた。その読み方では、文章で描かれている内容が具体的なものとして頭の中で理解されない。その結果、長文読解が難しくなってしまうのは当たり前なのである。

 ソレラ病の症状はこれだけに留まらない。ソレラ病にかかってしまった者はギャンブラーになってしまう。例えば彼らは、試験で it や they が指すものを具体的に述べよと求められると、it であれば直前の文に登場する単数形の名詞を、they であれば複数形の名詞を、勘を頼りに選び出そうとする。

 正解であれば運がよかった。不正解であれば運がなかった。…これでは、ただのギャンブルである。

 このような状態に陥っている彼らには、ぼくは次のような話をすることにしている。

 「例えばぼくが、『昨日、近所の中華料理店でラーメンを食べたんだけど、ソレは今までに食べたことないほどにおいしかったよ』と君に伝えたとする。その発言における『ソレ』は何だと思う?」

 ここで、『ソレ』が中華料理店を指していると答えた学生は今までにいない。このような身近な例を通じて、文脈を理解するのは難しいことではないのだ、と彼らが実感しない限り、彼らはずっとソレラ病に追い回されることになってしまう。

 毎年、春が訪れて、高校1年生に英語の学習指導をする際、ぼくの仕事の大半はゲンキュウ病とソレラ病の治療になる。まず、この二つを病を根治しないことには、英語どころか日本語で困ることになるからである。

 その後も、some を見て「イクツカノ」と反射的に言ってしまう「イクツカノ病」や、in を見る度に「ナカニ」と口にしてしまう『ナカニ病』など、多くの病の治療にあたる必要があるのだが、それはまた別のお話である。

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