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2018.10-2019.01 賢島で働く #04 | 心臓に毛が生えてほしいと願った職場

10月から1月中旬まで三重県のリゾートホテルで働いていたときの話である。
名の知れたリゾートホテルでスタッフの延長率も高いというから風通しの良い職場を期待していたが、実際に着任してみると心臓に毛が生えてほしいと思うほどストレスフルな職場だった。
契約の満了日が何年も先のように感じられて
日記帳に最終日までの日付を書き込んで、残りの日数分をつまんでは「ぶ厚!」と思うのが日課であった。

着任した日は大きな台風が去った後で
ホテルの門を抜けると、大きな木が根っこから抜けて横たわっていたことをよく覚えている。
台風の被害を受けて働けなくなったらどうしようかと心配していたが、その木以外大きな被害はなかったようで幸か不幸か無事に着任してしまった…。

一通りの説明を受けてから担当部署のリーダーに挨拶をした。
ホテルマンというよりサラリーマン風のおじさんで「うちはハイクラスなお客様も泊まるのでそのつもりで」と聞き取れないような小さな声でいわれて、しょっぱなから嫌な感じだと思った。

初出勤の日、朝の6時に指定された場所で待っていると
不機嫌でひきつった顔をした若い男性社員が現れてPCをいじりだした。
彼は「初日から6時すっか」と一言いうと
これ以上関わらないでくれといわんばかりにPCを睨んでいた。
自分に素直に生きている人なのだ…。
それからほどなくして
つかつかと歩み寄ってきた女性スタッフに「まず全員に挨拶してきて」と促された。

……全員て誰?場所どこ?そして、あなたの名前はーーーー!?
と、思わないでもなかった。
とりあえず片っ端から挨拶をしたが、陽気に返す人もいれば会釈する程度の人がほとんどで
とんでもねえところにきたと思いながら一日が始まっていった。

それからの1か月は新参者のアウェイ感を味わった。
おそらく、短期の派遣社員に対するイメージがよくない。
派遣会社の担当者から契約を短縮した人は一年以内はいないと聞いていたが、
その真偽も今となっては謎である。
契約期間の短縮を申し出る人、無断欠勤した後音信不通という人が少なくなかったようだ。
実際にわたしがいた期間だけでも2、3人はシフト表から急に名前が消えていった。

基本的な信用がないのかきちんと教えてもらえない。
忙しいとき(ほぼいつも)は皆殺気立っていて
注意するときの口調もきつかった。
特に関西弁風の響きがこわかった。威圧感があるというか。
理不尽な怒りをぶつけられるたびに心臓に毛が生えてほしいと願った。

誰がどんな仕事を担当しているのか、
何を優先すべきか、
どこに何があるのか、
すべてにおいて、とりあえずのことしか教えてもらえない。その後は「察して」という感じが強かった。
加えて、仕事内容はなかなかの激務。一日最低10km以上は走ったり歩いたり動き回る。
勤務時間も一日に12時間働くこともあったし、前日に23時近くまで働いて次の日には6時から出勤ということもあった。
もちろん世の中にはもっと働いてる人もいるし、様々環境があると思うが、毎日デスクに座ってきっかり定時で帰っていた元OLにとっては十分激務であった。
不謹慎だが、もう一回台風来い!台風来い!と宿題をやってない小学生みたいなお願い事をするほど仕事に行きたくなかった。

そんな殺伐とした職場で、いつもフォローしてくれたのは同じ派遣仲間であった。
おかげでいつのまにか泣き言もいえるようになっていたし、いつもどおり笑っていた。
適応能力ってのは本当にあるんだなあと我ながら感心した。

職場に慣れてくるとそれまで極悪人にみえていた先輩たちも人間味あふれる陽気な人たちだとわかってきた。また個人としては有能だからこそ教育面がおざなりなのだと思う。逆にまったく仕事ができない人もわかってしまったり、サラリーマンの世界を覗いてしまったり、思い返せば本当におもしろい日々だった。

つづく(たぶん)


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