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【朔風払葉】きたかぜこのはをはらう『シャンプーの思い出inホスピタル』小雪/次候🍀


我が家の3人の息子たち、長男は独身を貫いているが、次男三男は結婚をし、結婚式のスピーチで二人とも花嫁さんより先に泣いた。
ヤンチャだった二人、いろんな思い出が蘇ってきたんだろう。
でも、お嫁さんからしたら
「この人に人生託して大丈夫か!」
なんて思われたんじゃないかと、母としてはハラハラして見守っていた。


今から18年前、私はガンと診断された。
まだ、今の保険の仕事をする前の話で、全く病気とは縁のない生活を送っていた。
仕事の昼休みに電話で結果を問い合わせたのが初っ端から間違っていた。
呑気な私のことだから、絶対自分だけは大丈夫だと思い込んでいたのだろう。
「悪性でした」
手が震え、先生の声が遠のいていく。
病院へ行く手間を省こうと、結果は電話でも良いですか?なんてお願いしたのは、間違いなく私の方だ。
でも、全国の先生方にお願いしたい。
たとえ、そうお願いされたとしても、癌告知は、ちゃんと顔を見て伝えてあげて欲しい。


私が患った甲状腺癌が他のガンに比べると転移の危険性が少ないということも、その時点では全く知らなかった。
でも、電話で癌告知をした先生に手術をお願いする気持になれず、金沢の大学病院へ紹介状を書いて頂くことになった。


手術は無事に終わり、入院は10日間ほどだった。
手術のあと、ちょっと落ち着いた頃、婦長さんに連れられてかわいい看護師さんが私の部屋にやって来た。
「この子、ナツメさん専属担当で、ちょっと勉強させて頂いていいですか」
看護学校に通いつつ現場の勉強も必要だという学生さん。
断る理由もないので、オッケーした。
まだ、お風呂に入れない時期にシャンプーして頂いたり、身体を拭いて頂いたり、お世話になった。
昼食後の一番眠い時間に「お散歩行きますよ〜」は、ヤメて〜と思ったが、笑顔で誘われると断れなかった。
退院するまで、声が全く出なかった私はメモを書いて彼女と会話をしていた。
かわいい名前の由来や、どうして看護師さんになろうと思ったの?とか、本当に楽しい時間だった。
恥ずかしそうに「ナイチンゲールに憧れて」という答えに、ギュッと抱きしめてあげたくなった。


病院の中のどこだったかにシャンプー台が確か2台あって、あのかわいい看護師さんにもシャンプーして頂いた。
美容院の雰囲気とは程遠かったが、本当に気持ち良かったし、彼女に「ありがとう」と、心の中で何度も繰り返していた。
声が出ないことも、一ヶ月近く続いたし、歩くこと、食べられること、話すこと、何もかもが当たり前じゃないと気が付いた、貴重な体験だった。


病院は家からも遠いしお見舞いに来なくていいからねと家族には言っておいたのだが、おばあちゃん(義母)に頼まれたとかで、果物やら何やら色々と持ってお見舞いに来てくれた次男坊。
「そうだ!」
良いことを思い付いて婦長さんにお願いしてみた。
「シャンプー台使っていいですか?」
次男坊は美容師。
「あぁ~さすがにプロやなぁ、やっぱり気持ちいいわぁ」
心の中で感謝。
今は自分の店を持ち自らシャンプーすることも、あまり無いと思うが、成り立て新米の頃は指が荒れてボロボロになっていた時期もあった。
今は慣れたが、当初は息子にシャンプーして貰ったり、カットする時に鏡越しにジッと見られたりすると、めちゃくちゃ照れた。
一般の会社に入社して3ヶ月後に
「やっぱ、美容師になりたい!」
と、現場で見習いをさせてもらいながら、通信で資格を取り自分の進みたい道を進みだした。
そして自分の店を持てるまで頑張った次男坊。
途中、気持ちが折れそうな時期に、そばで見守ってくれたお嫁さんのMちゃん。
彼女がそばにいなかったら、きっと彼の夢は叶っていなかったと思う。


話がえらくなり長くなりましたが、いつも登場する夫ヨッシーさんが、お見舞いに来てないの?って思われた方、とんでもない。
ヨッシーさんは当時金沢の会社に勤めていたので、病院に泊まり込み毎日病院から出社していたんです。
婦長さんに
「旦那さん、いつまでいるつもりですか!簡易ベッドもう片付けていいですか?」
とも言われた。
「もう、ちょっと置いといてあげて下さい」
喋れないので、すみませんと手を合わせていた。
友人たちからは「愛されてるねぇ」なんて言われていたが、病院にコンビニ弁当を持ち込み、チャンネル権を奪われていた身としては、ちゃんと家に帰ってぇーと念じ続けていた。


大事なことを言い忘れるところだった。
ずっと前から50才になったら人間ドックを受けようと決めていた私。
48才のその年、夫ヨッシーさんが今年は受けた方が良いと言い出した。
「え〜まだ2年あるよ」
「絶対に受けろ!」
「そんなに怒らなくっても」
健康には自身があった私。
「わかったよ。受けてたつよ!」
みたいな気持ちで人間ドックを受けに病院へ行ったら発見されたワケで。
「オレのおかげだな」
ヨッシーさんが、そう言いたい気持ちは分かるけど、私は神様がヨッシーさんに言わせたんだと思っている。


そんな事って意外と多いんじゃないかと思っている。
何かの形で私達に知らせてくれているメッセージ。
誰かに言われたひと言や、本の中で見つけた言葉だったり、ある人との出会いだったり。
キャッチするレーダーを磨きながら、これからもいろんな出会いを大切にしていきたい。







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