壮大な7銘柄って…
Magnificent Seven。日本語で言えば『荒野の七人』。血湧き肉躍る往年の西部劇映画である。『大脱走』のジョン・スタージェス監督、我が憧れのスティーブ・マックイーン、剃り上げた頭が眩しいユル・ブリンナー、「うーん、マンダム」チャールズ・ブロンソン……。スタッフもキャストも錚々たる顔ぶれだ。ストーリーはすっかり忘れてしまったが、『日曜洋画劇場』か何かで見た若かりし自分は、興奮し通しだったに違いない。何せ『七人の侍』のリメイクなんだから。
だから「壮大な7銘柄」と言われると、どうにもむず痒いのである。最近の株式市場で、Alphabet、Apple、Meta、Amazon、Microsoft、Tesla、NVIDIAを合わせた7社を、日本語ではこう呼ぶそうだ。こちらの記事によれば、Bank of Americaのアナリスト、Michael Harnett氏が言い出したらしい。この記事も示唆するように、どう考えても映画をもじった命名である。調べてみると、日本の銘柄で構成された「セブンサムライ」まである。
念のためChatGPTにも聞いてみた。
「英語でmagnificent sevenといえば、通常はなんのことですか」
《英語で "Magnificent Seven" と言った場合、通常は二つの主な意味があります。最も有名なのは、1960年のアメリカの西部劇映画「荒野の七人(The Magnificent Seven)」のことを指します》
さらに、「最近の株式市場でmagnificent sevenと呼ばれる銘柄も、この映画からきていると考えていいですか」と畳みかけたら《この用語が映画「The Magnificent Seven」に由来しているかどうかは明確ではありません》と、つれなかったが……。ちなみにもう一つの意味は株式などではなく、《1960年代にオリンピック体操で金メダルを獲得したアメリカ女子体操チームの愛称》なのだという。
いずれにせよ、問題は日本語訳である。
そもそも株式銘柄が壮大とはどういうことであろうか。確かに「magnificent」を英和辞典で引くと「(外観・景観が)壮大な,壮麗な(Grand),堂々たる(stately)」(『ランダムハウス英和大辞典(第2版)』、小学館)などとある。一方で辞書を紐解けば、壮大とは「規模が大きくてりっぱなこと。また、そのさま。『ーな構想』『気宇ー』」(『デジタル大辞泉』、小学館)。「規模が大きくてりっぱな銘柄」とは日本語としていかがなものか。まあ、「時価総額が大きい銘柄」と解釈できなくはないが。
そもそも翻訳とは、単語を辞書通りの意味で置き換えるだけでは済まないはずである。最近読んで大いに刺激を受けた本『言語の力』にこうある。
「翻訳することの難しさは、ただ意味を伝えるだけでなく、原文の音、構文、構造、調子、韻、拍子、響き、連結、情感、隠喩、多層的な意味なども、訳文に反映させなければならないことだ。(中略)原文に忠実でありながら、同時にこれらの要素を再創造しなければならない」。
実はあえて文頭を削ってみたのだが、これは詩についての一文である。しかし、「Magnificent Seven」のようなウィットを込めたキャッチフレーズでも、同じことが言えるだろう。
そこで考えてみた。自らが持てる言語能力を最大限に振り絞って捻り出した妙案がこれだ・・・・・『7人のつわもの』。
うーん、マンダム(涙)。
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